外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
43.旅のあとで
まずやるべきことはマスロバ氏族とパンシーラ氏族との間に貿易条約を結ぶことだ。
そしてその時点でベルトラン帝国とも折衝をする必要があった。
リンネ姫が言うには今回の条約で得られる亜晶の量はフィルド王国とベルトラン帝国で採れる亜晶の一万年分をゆうに超える量だという。
それだけの量が出回ってしまうと亜晶どころか様々な資源の市場価格を混乱に陥れることになりかねないから事前に話を詰めておく必要があるのだとか。
そのために俺はまずエリオンと共にベルトラン帝国へと向かった。
「エリオン、それにテツヤも久しいな」
久しぶりに会ったベルトラン十五世、ゼファーは相変わらず泰然としていた。
「陛下こそ変わらぬご健勝なによりです。長い挨拶は抜きにしてまずはこれを見ていただきましょう」
エリオンがテーブルの上に亜晶を置いた。
「ふむ…これをどこで?」
亜晶を見た途端にゼファーの眼に光が宿った。
獲物の匂いを嗅ぎつけた狼の眼だ。
流石にこの亜晶が尋常なものでないことを見抜いたらしい。
「これは我々が新たに貿易条約を結ぼうとしているワールフィアのとある国で産出されるものです。そこでは我が国と貴国を合わせたよりも遥かに高品質で多量の亜晶が産出されます」
「ほう」
「貿易条約によりその国で産出される亜晶は全て我が国が商うことになっています」
「ふむ」
ゼファーはまるで興味がないというように頭を椅子の背に乗せた。
しかしそれがお得意のブラフであることはわかっている。
ゼファーほどの男ならこれがどういう意味を持つことかよく理解しているはずだ。
「して何故それを余に?自慢をしに来たのか?」
エリオンは微笑みながら首を振った。
「我々はこの亜晶を貴国との貿易条約に加える用意があります」
「は!」
ここでゼファーがようやく興味深げな顔を見せた。
これはフィルド王国がベルトラン帝国と結ぼうとしている自由貿易条約のことで、ここに加えられた品目は関税が撤廃されることになっている。
「エリオン王子よ、そなたは自分の言っている意味がわかっておるのか?それがどのような結果をもたらすのか」
「もちろんです」
エリオンの笑顔は変わらない。
「正直に言いましょう。その国で産出される亜晶はあまりに膨大過ぎるのです」
そう言って肩をすくめる。
「何の制約もなしに採掘するとすぐに亜晶の価格下落を招いてしまうでしょう。我々はそれを一番の懸念としており、採掘量をコントロールする予定です。そのために亜晶の採掘と利用を貴国と協調して行いたいと考えています」
「ふん、そういうことか」
ゼファーが鼻を鳴らした。
フィルド王国側の言い分としてはこうだ。
亜晶の価値を下げ過ぎないように両国とも使用量をしっかり定めてフィルド王国はそれに合わせて亜晶を提供する、量を制限する代わりに亜晶に関する関税は撤廃する、と。
そのことによるこちらの見返りは亜晶の売り上げと…寝巴蛇山の亜晶鉱山に対するベルトラン帝国の不干渉だ。
敢えて言葉にはしていないが、亜晶はこっちで欲しいだけ売るからワールフィアには手を出すなと言っているのだ。
これがこの案を考えたリンネ姫の狙いだった。
フィルド王国がワールフィアと亜晶の貿易条約を結んだらそれはすぐにベルトラン帝国に知られることになる。
そうなるとベルトラン帝国が再びワールフィアに食指を伸ばすことは必然だ。
これはそれを防止するための提案だった。
亜晶が欲しいだけ安価に手に入るのならばあえて侵略のようなコストのかかる方法を取らないだろう、と。
ベルトラン帝国にとって有利でしかない条件だけど戦争が起こるよりはマシだという判断だった。
リンネ姫にとっては自分の原郷であるエルフ国を戦火にさらしたくないという思いもあったのかもしれない。
そしてそれは俺も同じだった。
ゼファーは黙っていた。
おそらくこの提案に隠されている俺たちの目的もわかっているはずだ。
それでも俺はゼファーがこの条件を飲むんだろうという不思議な確信があった。
「…良かろう」
しばらくしてゼファーが口を開いた。
「元より余に断る理由がある提案でもないしな。詳しい話は専門官と詰めることになるだろうが、まずは合意したと言っておこう」
ゼファーはそう言うとすがめるようにこちらを見た。
「しかしお主らはそれで良いのか?黙っていれば莫大な富が勝手に手に入っていたというのに」
「人の口に合う鍵はありませんから」
エリオンはすまし顔で答えた。
隠していても亜晶がどこで採れるのかはベルトラン帝国にもいずれ知られるでしょう、と言いたいのだろう。
「ふん、まあいい。なんにせよ久しぶりの再会だ。今宵は積もる話でもしようではないか。それまでゆっくりしているといい」
ゼファーはそう言い残して去っていった。
「これで一安心だね」
エリオンが軽くため息をついた。
「今頃向こうでも条約を締結していると思うよ」
今回ベルトラン帝国に来ていないリンネ姫一行は現在ワールフィアに赴いている。
亜晶のための貿易条約を結ぶためで、敢えて俺たちがゼファーと面会をする同じ日に締結することになっていた。
ベルトラン帝国に筋は通すけど付け入る隙は見せない、というのがエリオンの考えだ。
少しの時間差があればそれだけでベルトラン帝国がワールフィアやこちらに向けて圧力をかける恐れがあるのだとか。
「しかしここまでする必要があったのか?」
「外交にはこういう駆け引きが必要なこともあるのさ。おそらく陛下も僕の思惑には気付いているはずだよ。そのうえで問題ないとふんだのだろうね」
そう言ってエリオンはウインクをした。
「それにしてもみんなが亜晶を持ってきた時はびっくりしたと同時に恐ろしくもあったよ。これは大変なことになるぞ、とね。全くテツヤと居ると退屈しないよ」
「誉め言葉と取っておくよ」
「もちろんさ。これでフィルド王国もベルトラン帝国も更に変化していくだろうからね。楽しみでならないよ」
「俺は平和に暮らせればそれでいいんだけどな」
「それが無理なことはテツヤ自身が一番わかってるんじゃないかな?」
「そこが問題なんだよな」
俺はそう言ってため息をついた。
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