外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

40.代理者

「なにいいいいいいっ!!??」


「これよりテツヤの言葉は我の言葉である。みな心して聞くように」


 ウズナは仰天する俺に構わず言葉を続けた。




「ちょ、ちょっと待った!代理者ってなんなんですか!」




「代理者とは当事者に代わって権利及び責務を行使する者のことだ」




「そうじゃなくて!なんで俺なんですか?」


「それはだな…ええい、この姿ではお主らと話をするのが面倒だな」


 ウズナは口を開きかけて止めると思念体となって俺の目の前に舞い降りた。


 そうして俺を上目遣いに見上げる。




「お主には世話になったからの。これは我からの心遣いよ」


 心遣いって…


 ウズナはそんな俺には構わずにみんなの方を振り返った。




「良いか!今後はテツヤの言葉に従うのだ!逆らう者は我に逆らうと同じと知れ!」


「「「「ははあっ!!!」」」」


 ウズナの圧倒的な魔力が込もった言葉に全員がひれ伏した。




「いや、俺はまだ了承したわけじゃ…」


 食い下がろうとした俺の肩をリンネ姫が掴んだ。




「諦めろ。先ほどお主の力を開放した時といい、どうもあの種の存在は倫理観や思考が我々とは根本的に違うらしい」


「し、しかし…」


 代行と言ってもなにをするんだ?


「この地が平穏である限りは何もせんでいい。お主の手に負えぬ時は我に連絡を取るがよい」


 ウズナはそう言うと人差し指で俺の額に触れた。


 触れた部分がぼうっと温かくなり、やがて消えていった。




「お主と我の間に経路を繋いだ。何かあれば我に話しかけよ。さすれば我が顕現しよう」


 つまり…それはウズナ自体がここからいなくなるということなのか?


「うむ、我は元々この世界のものではない故な。ここへは他の巴蛇はだと宴をするために顕現したに過ぎん。目が覚めた以上我は我の世界に帰らねばならぬ」


 そう言ってウズナは遠い目をした。


 ええと、つまりウズナたちは宴会をするためだけにこの世に来たと?


 そんな社員旅行で熱海に来てホテルでどんちゃん騒ぎをするみたいな。




「この世の者たちは我らを美味い酒で歓待してくれるからな。つまみもいけるし」


 頭がくらくらしてきた。


 俺たちは巴蛇はだたちの宴会騒ぎで生き死にを左右されていたのか。


 いや、神とヒトとの関係なんてそういうものなのかもしれない。




「ともあれ我はもう行かねばならぬ。後は任せたぞ」


「…断ることはできないんでしょうね」


 俺はため息をついた。




「まあそう言うな。お主には手心を加えてやるから機嫌を直すのだ」


 ウズナはそう言うと俺の額に軽く口づけをした。


 その瞬間に俺の体を覆っていた倦怠感が消えうせた。


 首に嵌められている封魔環の魔石が全て青に変わるのを感じる。




「我の力の一部を与えた。これで先ほどのように切れて暴れだすこともなくなるだろう」


「あ、ありがとう…ございます」


 礼を言うべきことなのかどうかわからないけど、とりあえず言っておくことにした。




「それでは達者でいるのだぞ」


 そう言ってウズナは消えていった。




「な、なんだったんだ、結局」


 俺は呆然とウズナの消えていった虚空を見ていた。


 なんだかお釈迦様の掌の上を右往左往していた孫悟空の気分だ。




「ああそうじゃ」


「うわあ、びっくりしたあ!」


 呆けていると突然ウズナが現れた。


 帰ったんじゃなかったのか?


「ついでだからもらっていくぞ」


 そう言って残っていたスポーツドリンクを水濠ごと抉り取った。


 まるでテーブルに置かれたペットボトルを持ち上げるような容易さだ。


「もったいないからこれもいただいていくかの」


 ウズナは傍らに置かれていた酒樽も手に取った。


 結局飲むのかよ!




「ではこれで本当にお別れじゃ。たまにはこのスポーツドリンクとやらを供えるのだぞ」




 そう言い残して今度こそ本当にウズナは消え去った。


 まるで最初からそこにいなかったかのように。




「ええと…」


 俺はみんなの方を振り返った。


 全員が俺の方を見ている。


 その顔には畏怖の慄きが張り付いていた。




「「も、申し訳ありませんでした!!!」」


 ドミウムとスマトーが震える声で土下座した。




「あ、あなた様がこれ程の御方とは露知らず、大変失礼なことを…!」


「ゆ、許してください!心を入れ替えますので」


 必死になって命乞いをしている。


「いや、俺は別に…」


 俺としては何とも複雑な気持ちだった。


 みんなは俺を恐れてるというよりも俺の後ろにいる巴蛇はだを恐れているわけで、俺としてはちょっと釈然としないところがある。


 虎の威を借りる狐ってこういう気分になることだっけ?




「「ど、どうか命ばかりはお助けを!どんな命令でも聞きますので!!」


 二人は俺の気持ちなどお構いなしに土下座を続けている。


 いや、二人だけでなく部下たち全員が頭を下げていた。


 許しを請う声が読経のように続いている。


「わかったわかった!争いを止めてくれるんならそれでいいから、その土下座を止めてくれ!」


 もうほとんどやけくそ気味に叫んだ。


「とりあえず後になってきたエルフ族と獣人族は帰ってくれ。詳しい話はまた後だ。これだけ大勢いるとまとまる話もまとまらないって」


「そ、それでは…?」


 不安げな顔を上げるドミウムとスマトー。


「ああ、今回の件は一切不問にする。そのかわりもうこの辺で争わないこと。それでいいか?」


「あ、ありがとうございます!」


「寛大な処置に感謝いたします!」


 二人は地面に額をこすりつけた。


「わかったから早いところ兵を引きあげてくれないか。こっちはもう少しやることがあるからさ」




 こうしてドミウムとスマトーは何度も頭を下げながら退軍していき、あたりは再び落ち着きを取り戻した。



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