外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

32.悪酔いの妙薬

「二日酔いだと?」


 リンネ姫が素っ頓狂な声をあげた。


「そんな馬鹿な…」


 ルスドールも懐疑そうに呟いた。




「いや、でも酒盛りをした後に寝ていて頭が痛いんだろ?どう見ても二日酔いなんじゃ…」


「し、しかし…御巴蛇様ともあろう存在が二日酔いなどとは…」


 リオイも信じられないという顔をしている。




「う、うぅ…誰ぞ水を、水を持ってまいれ。…酒はもう飲まん、絶対に飲まんぞぉ」


 山の底から巴蛇はだの声が響いてきた。




「ほらな」




「えぇ~~~~」


「そんなはずない!」


「いやでもあの言い方は隣の親父そっくりだぞ」


「あの苦しさは言葉じゃ言い表せられねえんだ」


「なんか急に御巴蛇様に親近感がわいてきたぞ」




 みんなが口々に騒ぎ始めた。




「やかましいわっ!さっさと水を持ってこぬと貴様らまとめて滅ぼすぞ!」






「「「「は、はいいっ」」」」




 俺たちは大慌てで蛇頭窟から逃げ出した。








    ◆








「しかしこれからどうする?」


 蛇頭窟から少し離れたところにある草原で俺たちは会合を開くことにした。




「とりあえず巴蛇はだの二日酔いを治さんことには話が始まるまい」


 リンネ姫が口を開いた。


「しかしどうやって治すというのだ!あれほどの巨体では治癒魔法も効果があるかどうか」


 即座にバルドが反論してきた。


「確かに。更に言うと御巴蛇様は魔獣や魔神と呼ばれる存在だ。我々如き治癒魔法でそもそも届くかもわからぬ」


 ルスドールの言葉にみんなが頷いた。


 ただでさえ魔族は魔法耐性が強いのだ、巴蛇はだともなればその性質は桁違いだろう。




「だったらやっぱり水だ!酔い覚ましには昔っから水と決まってる!」


 ローベンが吠えた。


「しかしその肝心の水をどうするのだ。我々は普段の水にすら事欠く有様なのだぞ」


 リオイがそこに異議を唱える。




「いや、それなら大丈夫だろう。あの山の上には水がたっぷりある。私の力を使えば麓まで水を運ぶのは造作もないことだ」


 アマーリアが答えた。




「御巴蛇様も水を欲しがっていましたしね」


 ソラノが言葉を継いだ。




「うーむ、やはりそうするより他にないか…」


 ルスドールが呟き、リオイと共にこちらに振り返った。


「お手数をおかけしてしまいますが、我々を助けてはいただけないでしょうか?残念ながら今の我々ではどうすることもできなさそうなのです」




「それは別に構わないけど…」


 俺はそう言いながらバルドとローベンの方を見る。




「べ、別に俺は構わねえよ。御巴蛇様が体調を戻してくれるんならなんだっていいさ」


「私もだ。この際はヒト族であろうがなかろうが誰の手でも借りるよりあるまい」


 俺の視線に気が付いて二人はばつが悪そうに顔をそむけながらぼそぼそと呟くように答えた。


 どうやら巴蛇はだの迫力に完全に度肝を抜かれてしまったらしい。






「決まりのようだな。それではさっそく動くことにしよう」


 そう言って立ち上がったリンネ姫に俺は手を差し上げた。


「待った、それだったらちょっと考えがあるんだ。誰かこの辺で一番でかい樽か桶を用意してくれないか?」








     ◆










 俺たちは再び蛇頭窟の前へと集まった。


 巴蛇はだの声はしないけど苦しげな気配が地面から伝わってくる。




 蛇頭窟の前にはパンシーラ氏族から借りた風呂桶ほどもある巨大なたらいが置かれ、そこにはアマーリアが湖から運んできた水が入っている。




「ただ水を飲ますのもいいんだけど、こいつにちょいと一手間加えてみよう」


 俺はそう言ってたらいの中に塩を投げ入れた。


 更に砂糖とエルフ族からもらってきたレモンの果汁も加えてかき混ぜる。


 手製のスポーツドリンクの完成だ。




 果たして魔獣や魔神の類にスポーツドリンクが効果あるのかどうかはわからないけど、二日酔いには水よりもこっちの方がいい…はず。




 出来上がったスポーツドリンクをコップに入れて飲んでみる。


 うん、これなら飲みやすいし塩分と糖分、レモン果汁に含まれるクエン酸を摂取できるだろう。


 みんながそんな俺を興味深そうに見ている。






「味見をしてみるかい?」




 俺の言葉にみんなも恐る恐るスポーツドリンクを口に運んだ。




「むむ、これは我ら森エルフ族がよく飲むレモネードに似ていますな!しかし微かに塩味があり、それに適度な薄さが飲みやすいですぞ」


 ルスドールが驚いたように声をあげた。




「確かにこれはレモネードに似ている。しかしもっとこう、水に近いようだな」


 バルドも感心したように俺の作ったスポーツドリンクを見つめている。


「これは何と言っていいのか何とも不思議な味ですな。甘くもありしょっぱくもあり、酸っぱくもある。後味を引くような、それでいてさっぱりしているような」


「こいつは絶対酔い覚ましにぴったりだ!つーか昨日深酒しちまったから体がそう言ってるぜ!」


 リオイとローベンも驚きに目を丸くした。




「なんでこういう物を知っていて今まで教えなかったのだ」


「本当にその通りだ。これがあれば二日酔いで苦しむことなどなかったはずなのに」


 アマーリやソラノが口をとがらせている。


 いや、二人は治癒魔法を持ってるんじゃ…




「これ絶対村のみんなも喜ぶよ!」


「美味しい。もっと飲みたい」


 どうやらスポーツドリンクはフラムやキリにも評判が良いみたいだ


 これだったらもっと早く作っておいても良かったかな。




「貴様ら何をべちゃくちゃ騒いでおる!」




 思わず盛り上がってしまったせいか巴蛇はだが再び目を覚ましてしまったみたいだ。


「ちょうど良かった。あなたにぴったりの飲み物を持ってきたんですよ」




 俺は蛇頭窟に向かって笑いかけた。



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