外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

24.獣人族の町へ

「なんでグランがここにいるんだよ!」


「それはこっちの台詞だぜ。お前こそなんでここに?」


 グランはそう言いながらこちらに歩いてきた。




「先生!そいつはエルフ族が雇った用心棒だ!さっさとぶち殺してくれ!」


 俺たちの間に挟まれながらローベンが吠えた。


 いや、俺は用心棒じゃなくて交渉人なんだが。


 つーかいきなり殺せとか物騒極まりないな。




「そういや先生と呼ばれてるけどグランはこいつらの師匠かなんかなのか?」


「んなわけねえだろ」


 グランは困ったように頭を掻くとローベンを指差した。




「こいつの父親とは昔から知り合いでな。ちょい前に頭領の座を譲った息子が困ってるから助けてやってくれと頼まれたんだよ」


 だからトロブにいなかったのか。


 しかし獣人族の用心棒をしてるとはね。




「そういうテツヤの方こそなんでこんな所にいるんだよ。観光って訳じゃねえんだろ」




「実はこの近くのエルフの氏族がリンネ姫の血族なんだ。で、色々あって獣人族との抗争を止めることになっちゃったんだよ」




「お前もよくよく面倒ごとに首を突っ込むのが好きだよな」


 グランが呆れたように笑いかけてきた。


 いや、別に好き好んで巻き込まれているわけじゃないんだけど。




「先生!なに仲良く話してるんだよ!そいつは俺たちの敵だぞ!早いとこぶち殺してエルフの奴らを追い払ってくれ!」


 ローベンは尚もわめき続けている。




「うるせえよ」


 グランがうんざりしたようにローベンの顔を押しのけた。


「俺はお前の父親に頼まれただけでてめえに従ってるわけじゃねえ。ちょっと黙ってろ。嫌なら手前らだけでなんとかするんだな。言っとくがこいつはてめえらの手に負える相手じゃねえぞ」


「ぐっ…」


 グランの言葉にローベンが言葉を詰まらせた。


 俺の力は先ほどのやり取りでしっかり身に染みているみたいだ。




「わかったらさっさと帰れ。お前らがいても何にもならねえよ」


 グランが羽虫を払うようにしっしっと手を振った。




「…クソ!おい、お前ら!行くぞ!」




 ローベンは顔を歪めながらグランと俺を睨みつけていたけどやがて踵を返して部下と共に引き上げていった。




「良いのか?なんかあいつに恨まれたんじゃないのか?」


「は、あんな奴らどうってことねえよ」


 心配する俺をグランは鼻で笑い飛ばした。


「あいつの親父は度量のある立派な頭領だったんだが、あいつは駄目だな。いきなり頭領になんかなっちまったもんだから気負い過ぎてんだよ。あれじゃいつか手痛い失敗をするぜ」




「そういうことならこっちも同じようなもんだな」


 俺はため息をついた。




「エルフの新族長ってのがどうにもいけ好かない奴でね。これじゃ今のエルフ族と獣人族が和解するのは無理っぽいな」


 しかしだからと言って水源を諦めるわけにもいかない。


 別方向で解決する方法を探してみるしかないか。


「なあ、グランに連絡をよこしたっていう獣人族の先代頭領に会わせてもらえないか?」








    ◆








「こっちだ」


 グランの案内で俺たちは獣人族の町の中を歩いていた。


 獣人族パンシーラ氏族の町はエルフ族の町とほぼ同じ大きさだった。


 通りを歩く獣人は獅子人が圧倒的に多く、たまに猫頭人や狼頭人の姿も見える。


 傍から見ればごくごく平和な田舎の街並みだったけど、今の俺はその風景を楽しむ心境じゃなかった。




「なあ、もうちょっとこう、ひっそりと会うわけにはいかないのか?」


「あ?別に喧嘩しに行くわけじゃないんだから良いだろ?」




 グランは平気な顔をしているけど俺としては気が気じゃない。


 言ってみればここは敵地のど真ん中なのだ。


 すれ違う町民たちの視線に込められた敵意はエルフの町の比じゃない。


 時々飛んでくる石つぶてや腐った卵は事前に操作して落としてるから良いものの、いつ俺たちを狙った暴動が起きても不思議じゃないぞ。




「ま、獣人って奴らは気が短くてな。話せばいい奴らなんだが手が早いのがいただけねえところだな」


 そう良いながらグランは棍棒を持って殴りかかってきた住人を反対に殴り飛ばしている。


 オニ族がそれを言うかね。




「テツヤ、本当に大丈夫なのか?」


 ソラノが心配そうに聞いてきた。


「ま、まあ大丈夫なんじゃないかな…」


 いざとなったら全員を抱えて逃げよう、そう思っていると少し大きめの屋敷へとたどり着いた。


「着いたぜ。ここが先代頭領リオイの屋敷だ」


 言うなり何の断りもなしに扉を開けて入っていく。


 相変わらず傍若無人だな。


 半ば呆れつつ俺たちも中へと続いた。




「リオイ爺さん、客人を連れてきたぞ!」


 グランが大声を張り上げた。




「そんなに大声を出さんでも聞こえているわい」


 声と共に二階から降りてくる足音が聞こえてきた。




「全く、お主のがさつさはいつまでたっても治らんな…おや、ヒト族とは珍しいのう」


 それは真っ白なたてがみを持った男の獅子人だった。


 獣人族の年齢は顔から推定するのは難しいけど真っ白な体毛と微かに曲がった腰がかなりの高齢であることを示している。




 この人がパンシーラ氏族の先代頭領、リオイか。



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