外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

23.用心棒

「き、貴様!何をした!?」


 俺は起き上がろうともがくバルドを引き寄せた。


「ひっ!」


 いきなり眼前に現れた俺を見てバルドの顔が引きつる。




「ちょっと黙っててくれないかな。あんたが口を出すと話がややこしくなるんだよ」




「おい、これはどうなってんだ!?てめえらぼやぼやしてねえで助けやがれ!」


 後ろで地面から頭だけを出したローベンが情けない声をあげている。




「お頭!」


「てめえ、お頭に何しやがった!」


「ぶち殺すぞ、このヒト族風情が!」


 獣人族の兵士が武器を構えて突っ込んできた。




 しかし俺が地面から生やした槍衾にその突進が阻まれる。




「な、なんだ?突然地面から生えてきやがったぞ!」


「こいつ、魔導士か!?」


 俺は獣人族周囲をぐるりと槍衾のバリケードで囲った。


 これでしばらくはこちらにこれないだろう。




「お、おい!何が起きてるんだ?何も見えねえぞ!」


 振り返ることができないローベンがパニックを起こしかけている。




「ちょっとそこで大人しくしててくれよ。今からこいつと話をつけるからさ」


 俺は再び地面にへたりこんでいるバルドに向き直った。


「町に戻っててくれないかな。あんたらがいるとまとまる話もまとまらなさそうだ」


「ちょ、調子に乗るな!貴様のような奴の言うことなど信用できるか!私が見ていないところで獣人族に取り入るつもりなのだろうが!」




「なあ」


 俺はため息をついてバルドの肩に手を置いた。


「ひっ」


 それだけでバルドの顔から血の気が引いていく。




「あんた、俺に任せるといったよな?だったら任せてくれないか?それともあそこにいる獣人族のお頭みたいに地表面から成り行きを見届けるかい?俺としては町に戻ってお茶でも飲みながら吉報を待つのをお勧めするんだけどな」




 言っている間にもバルドの身体がずぶずぶと地面に沈んでいく。




「ひいいっ!わかった!貴様の言う通り町に戻ってやる!だからもう止めろ!」


 バルドが悲鳴を上げた。




「分かってもらえて嬉しいよ」


 俺が引き起こすとバルドは青ざめた顔をしながらも俺を睨みつけてきた。


 腕を支えていた俺の手を乱暴に払いのける。




「ヒト風情が気安く触るな!良いか!満足いく結果を持ち帰らねば貴様もルスドールも容赦せぬぞ!」


 こうしてバルドは捨て台詞を残しながら共に部下を連れて去っていった。






「まったく騒々しい奴だ」


 俺はため息をつくとローベンの方を向いた。




「ひいっ!」


 悲鳴を上げるローベンの身体を引き抜く。






「悪かったな。あんたを傷つけるつもりはないんだ。ちょっと話をしたいだけなんだよ」


「ふ、ふざけんな!これが話をしようって相手にする態度かよ!」


 震える声でローベンが吠えた。


「元はと言えばあんたが悪いんだぜ。いきなり唾をかけてきたんだから」


「う、うるせえうるせえ!うす汚えエルフ族もそいつらに雇われたヒト族も相手にできるかよ!」


「じゃあもう一回埋まる?今度は頭のてっぺんまでいくかい?」


「ひっ!」


 俺の笑顔を見てローベンの顔が引きつる。


 後ずさったローベンだったがその背中に先ほど俺が作った槍衾の切っ先が触れるとゼンマイが切れたように動きを止める。


「ち、畜生!」


「獣人族でもその悪態をつくんだな。ともかく傷つけるつもりはないんだって。お宅らとエルフ族の確執は聞いてるから平和裏に解決したいんだよ」


「そ、そんなことが信じられるかよ!」






「お頭ァ!!!」


 その時突然槍衾の向こうが色めき立った。




「先生を連れてきましたぜ!」




「おおっ!」


 その声を聞いたローベンが突然勢いを取り戻した。




「おいてめえっ!てめえはもう終わりだ!先生が来てくださったからな!」


 先生?こいつらの師匠か?それとも用心棒でも雇っているのか?




「はん!先生はなあ、このワールフィアでも最強と言われたお方だ!てめえ如き片手すら要らねえ、小指一本で片づけてくださるだろうよ!」




 獣人族にそんな助っ人がいるとは聞いていなかったぞ。


 向こうも向こうで準備をしたということか。




 やがて獣人族の群れを割るように一人の影が近づいてきた。


 そいつは片手を振り上げると一撃で俺が作ったバリケードを粉砕した。


 爆発のような衝撃で土煙が巻き上がる。


 こいつはかなりのやり手だぞ!




「ったく、なんで俺がこんなことしなくちゃいけねえんだよ」


 そいつはぶつぶつとぼやきながらバリケードを越えてこちらにやってきた。


 次第に土埃が晴れていき、その姿が露わになっていく。


 頭から巨大な角が一本生えているのが見える。


 ということはオニ族、獣人族じゃないということは用心棒か?


 て言うかあの影には何か見覚えが…




「グラン!?」


 俺はその姿を見て仰天した。




「おお、テツヤじゃねえか。どうしたんだ?こんなところで」


 そこにいたのはグランだった。



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