外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

21.取引

「取引だと!?」


「ああ、そのかわりにルスドールさんへの謂れなき圧力は今後一切やめると約束してもらう」


「ふざけるな!ヒト族如きが私と取引など!…」


 傲慢に吠えかけたバルドだったが首元の短剣を見てその威勢も霧消していった。




「落ち着けよ。これはあんたにとっても悪い話じゃないんだぜ」


「なんだと?」


 バルドの顔に興味が浮かんできた。


 食いついてきたな。




「その前にこの屋敷を直させてもらおうかな」


 屋敷に意識を集中させるとバルドたちが破壊した家具が次々と元の姿に戻っていく。




「なっ…?」




 バルドも、ルスドールさえもそれを見て目を丸くしていた。










「これでようやく落ち着いて話ができるな」


 元の姿に戻った部屋の中で俺はバルドと対峙した。




 バルドの部下たちは今も拘束されたままでルスドールの従者がそれを見張っている。




「取引とはなんだ」


 椅子に座ったバルドが悔しそうに睨みながら口を開いた。




「あんたらは今獣人族と揉めてるんだろ?俺がそれを止めてやる」




「なにっ!?」




 バルドの眼が見開かれた。


 ルスドールも驚きの顔でこちらを見ている。




「テツヤ!」


「それは…」


 驚くリンネ姫やアマーリアを手で制して俺は話を続けた。




「大体のあらましは聞いてる。水利が絡んでいる以上引くことはできないだろうけどあんたたちだって余計な犠牲者は避けたいはずだ。俺がそれを解決する、そのかわりにルスドールさんからは手を引いてもらう」


「話にならんな」


 バルドが椅子に背を預けて鼻で笑った。


 こんな状況だというのに傲慢な態度が変わらないみたいだ。




「獣人相手に貴様一人で何ができ…んなあっ?」


 嘲笑するバルドの髪が一房膝に落ちた。


 俺が短剣を操作してその髪を切り落としたからだ。




「俺の力はもう見てるだろ?」


「くっ…」




 バルドが恐れと驚愕の入り混じった顔でこちらを睨みつけてきた。




「だ、だが、どうしてそれを信じられる!?そんな口約束で貴様らが逃げぬという保証がどこにある!」


「その時はルスドールさんを好きにしたらいい」


 俺はバルドを見据えた。




「だが俺たちが獣人族との交渉に行っている間に手出しをしたらその時は容赦しない。その短剣でお前の喉を斬り裂く。これは脅しじゃない、取引内容の一部だ」




 バルドの顔に恐怖が浮かぶ。


 だがやがてその顔に微かな笑みが浮かんだ。


 何かを企てているような暗い笑みだった。




「いいだろう、ただし必ず水源を我々のものにしてもらうぞ。それ以外の成果は一切認めん」


「交渉成立だな。そっちこそ約束は守ってもらうぞ」


「くどい。エルフは約束を違えぬ。例え貴様らヒト族が相手であろうとな」


 吐き捨てるように言うとバルドが立ち上がった。




「言っておくが貴様らごときヒト族が我ら崇高なるエルフ族と取引できたなどと思うな。これは言うなれば温情のようなものだ。そこの男を助けたくばせいぜい必死になることだな」




 捨て台詞を吐いてバルドたちは立ち去っていった。




「やれやれだな」


「テツヤ殿、何という無茶なことを!」


 ルスドールが悲痛な声を上げた。


「まあまあ、とりあえず危機は去ったんだし、後のことはこれから考えようよ」


「しかし!獣人族は交渉の通じる相手ではありませぬぞ!我々のためにテツヤ殿たちを危険に晒すようなことになっては…」


「ルスドールさんたちのためじゃないさ」


 俺は頭を振った。


「リンネ姫のためだ。あなたはリンネ姫の高祖父だ。俺が動く理由はそれで十分だよ」


「テツヤ…!」


 リンネ姫がひしと俺に抱きついてきた。


「それに亜晶のことを調べるためには獣人族のところに行くことになるだろうからさ。結局避けては通れないと思うんだ」


「そう…ですか」


 それでもルスドールは申し訳なさそうな顔をしている。


「それよりも獣人族のことを知ってるだけ教えてもらえないかな?こちらとしても相手のことを事前に知っておきたいからさ」








    ◆








「よろしいのですか、あのような傍若無人を許すなど」


「放っておけ」


 咎めるような部下の言葉を、しかしバルドは鼻先で笑って流した。




「ヒト族如きに獣人族を説得させるなど不可能だ。戦闘になって少しでも奴らの数を減らしてくれればそれでよい。できなくともあの小癪なヒト族共が死ぬだけでこちらに損耗はない」


 馬に乗りながらバルドは薄い笑みを浮かべた。




「獣人族共は卑怯にも傭兵を雇って手を焼いていたところだ。ヒト族と獣人族で潰し合ってくれるなら願ったりだ」


 万が一あのヒト族が交渉に成功したら労せず水源を手に入れることができる。


 ルスドールのことはそれからゆっくりと考えればいい。


 ヒト族との約束など知ったことか、今後の地位を盤石のものとするためには未だに町民から一定の支持を得ているルスドールはどうしても排除せねばならない障害だ。


「せいぜい空回りするがいい」


 森の中にバルドの高笑いが消えていった。



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