外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

20.バルド来襲

「それで、これからどうするつもりですかな」


 朝食の席でルスドールがそう切り出してきた。


「とりあえず亜晶のことを知っていそうな部族、もしくは人がいないか探してみるつもりです」




「それではカーリンという魔女を探してはどうかな?天地開闢以来もっとも知啓に富んだ魔女と呼ばれる人物です。彼の者ならおそらく知っているでしょう」


 ルスドールの言葉に俺達は苦笑いしながら見つめあった。


 どんだけ名前が知れ渡っているんだ?あの人は。




「とりあえずエルフ国に居続けるのは危険なので隣国へ渡ってみようかと思います」


「隣国か…」


 リンネ姫の言葉にルスドールの声が曇った。




「そういえばエルフ国は隣国の獣人族と険悪な仲になっているんでしたっけ」


「うむ、水を巡って両国の関係はこじれにこじれておるのです。特にバルドがおさになってからはその関係が悪化するばかりで…」


 ルスドールがため息をついた。




「あの男はことを荒立てることしかできないのです!調和を愛するエルフの風上にも置けぬ奴め!」


 ラファイが吠えた。




「ルスドール様が族長であったらこんなことには…」


「もはや過ぎたことだ」


 悔しそうに呟くラファイにルスドールは頭を振った。




「私にはあの男を止めることができなかった。いや、私が同胞の心を掴みきれなかったのだ。単純に私の力があの男に及ばなかったのだよ」




「しかし…」






「大変です!」


 その時扉が大きく開け放たれてルスドールの従者の一人が飛び込んできた。




「バルドとその親衛隊がこちらへ向かってくると町から報告がありました!」




 遂に俺たちが逃げ出したのがばれたのか。






「こちらへ!」


 ルスドールが俺たちを地下室へと案内した。




「ここならば安心です。あとは私めにお任せください。あなた方が必ず守ってみせます」


 地下室の扉が閉まってしばらくすると乱暴に入ってくる足音が聞こえてきた。




「これはこれはバルド様、朝から何の用ですかな」


「とぼけるな!逃亡したラファイとヒト族を匿っているのはわかっているのだ!大人しく差し出さぬと後悔するぞ!」


「はて、なんのことでしょうか?ここには誰も来ておりませぬが」


「ふん、痴れ言を。おい、お前ら!徹底的に捜索するのだ!魔法探査も怠るなよ!」




 バルドの怒号に続いて家具が倒される音、メイドの悲鳴が地下室まで響いてきた。




「おい、大丈夫なのか?」


「ここなら平気だ。ルスドール様の隠ぺい魔法を破れる者はいない。しばらくしたら諦めて帰っていくだろう」


「いや、そういうことを言いたいわけじゃなくて…」


 一緒に隠れていたラファイも口ではそう言いながら悔しそうに拳を握り締めていた。




「なんということを…!族長と言えどもこれは明らかに越権行為だ!このようなことが許されていいはずが…」


「黙れっ!」


 殴打音と共に従者のくぐもったうめき声が聞こえてきた。




「何という無体!何故同胞相手にこのようなむごい真似ができるのですか!我々はこのようなことをしている場合ではないはず!」


「貴様が吐かぬからだ!さっさとラファイとヒト族の場所を言わねばこのボロ屋を叩き壊すぞ」




 バルドの吠え声を合図に破壊の音が更に大きくなる。






「クソ!」


 気が付けば俺は外に飛び出していた。






「止めろ!」




 俺の声にバルドが振り向いた。


 その顔には獲物を見つけた野良犬のような凶悪な表情が張り付いている。




「やはりここに隠れていたか」




「テツヤ殿!」


「いいんだ」


 青ざめた顔をするルスドールを背中にして俺はバルドを睨みつけた。




「こうして出てきてやったんだ、今すぐ止めさせろ」


「そうはいかん」


 バルドがいやらしい笑みを浮かべた。


「犯罪者隠匿は重罪だ。しかもこの男は元族長。しっかりと罪を贖わせなければ民への示しがつかん」




「俺は止めさせろと言ったんだ」




「っ…!」


 俺の言葉にバルドが怯んで後ずさった。




「くっ…強がりを…おい、何をしている!さっさとこいつを捕えるのだ!」


 しかしバルドの部下たちは動かない。


「何をしている!今すぐこ奴を…」


 言いかけたバルドの言葉が凍った。


 そこには針金でがんじがらめにされた部下たちがいたからだ。


 口も拘束しているから魔法を使うこともできない。




「なっ!?」


 驚愕するバルドだったが、俺が首元を指差すとその顔が恐怖に染まった。


 バルドの腰に差さっていたはずの短剣が宙に浮き、今は持ち主の喉元に突き立てられていたからだ。




「な、何者だ…貴様は?」


 バルドが恐怖に顔を引きつらせてこちらを見た。




「ようやく話を聞く気になったみたいだな」


 俺はバルドの目の前に歩み寄った。


 青ざめる顔に笑みを返す。




「取引といこうじゃないか、エルフの新族長さん」



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