外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

16.囚われのエルフ

「参ったな」


 俺は壁に背をもたせながらため息をついた。


 ここは町の外れにある石造りの牢屋の中だ。


「当然だけど男女別に収容されるんだな」




 そんなことを考えながらぼんやりと鉄格子越しに空を見上げる。


 既に周囲はスキャン済みでリンネ姫たちが少し離れた別の房に収容されていることは確認している。




「とはいえここから先はどうしたらいいんだ?」


 リンネ姫に待つようにと言われたけど一人じゃ何ともしようがないぞ。


 さっさと出ていって合流した方が良いかな。




「こんにちは」


 同じ房にいたエルフが声をかけてきた


 今この房には俺とそのエルフしかいない。




「あなた、初めて見る顔ですね」


 サラサラの金髪を耳のすぐ下で刈り込んだ見目麗しいエルフだ。


 町のエルフと違って親し気に話しかけてきた。




「おっと、自己紹介がまだでしたね。私はラファイ・オスミム・マスロバと言います。ラファイと呼んでください」


「テツヤ・アラカワだ。テツヤと呼んでくれ」


 俺は差し出されたラファイの右手を握り返した。






「それであなたは何故ここに?いや、当ててみましょう。この国に入った途端にバルドかその一味に掴まった、そうではないですか?」


「凄いな、全くその通りだ」


「あの独裁者め!」


 俺の言葉を聞いてラファイが憎々し気に言葉を吐き捨てた。




「失礼、私もあの男によってここに囚われているのです」


「良かったらあのバルドという男のことを教えてくれないか?よく分からないうちに捕らえられてしまったんだ」


「もちろんですとも。まずはあの男がどんなことをしてきたのかお教えしましょう…」








    ◆








「そういうことだったのか…」


 ラファイの話を聞いて俺はため息をついた。


「ルスドール様は二十年ほど前にバルドによって失脚させられたのです。奴は族長の器ではない。姦計でもってルスドール様からその座を簒奪したんです!」


 ラファイが怒声と共に拳を地面に叩きつけた。


「エルニア様がエルフ国から去らなければ今頃は…」




 ラファイの言葉によるとこの部族のおさだったルスドールは妹のエルニア―― リンネ姫の祖母にあたるエルフだ――がヒト族の元に駆け落ちをしたことで当時は国民からの不興をかなり買ってしまったらしい。


 それでもおさとして国を切り盛りしていきやがてその名声を回復していったのだけれどここ数年はその求心力も薄れていき、隣国との仲が険悪になったところで若者たちの支持を集めたバルドに半ば強引に引退させられたのだとか。




「そうは言ってもそのエルニアって人がヒト族と駆け落ちしたのはもう何年も前の話なんだろ?今更蒸し返すようなことか?」




「その通りです!しかし今は隣国である獣人国と臨戦態勢になっています。そんな時に妹一人御せないおさで良いのかとバルドの奴が国民を焚きつけてきたんです!」


 ラファイが悔しそうに歯噛みをした。




「そういえばなんで獣人国と険悪になっているんだ?」


「水ですよ」


 ラファイが答えた。


「この辺りの水源は一本の川しかないんです。それを我々エルフ族と獣人族で共有していたのですがここ数年で水量が減り続けていまして。それで争いが起きているのです」


 なるほど、水利争いってわけか。


 よくあることだけど命に関わるだけに解決が難しいところだな。




「穏健派のルスドール様に対して強硬派のバルドが国民の支持を集め、奴がおさとなった今は開戦論がまかり通るようになっていました。それを防ごうとしてこの様というわけです」


 ラファイが自嘲するように肩をすくめた。


 ラファイは昔からルスドールの従者をしており、バルドが族長になってからもルスドールを復権させるべく奔走していてそれでバルドの不興を買ってしまったらしい。


「今ルスドール様は町外れにある屋敷で引退生活を送っています。引退と言っても実質軟禁のようなものですよ。町の外に出ることは許されず、町の人間と会合を開く事すら禁じられています。これは明らかに族長としての権限の域を逸脱している。そんなことが許されていい訳がない!」


 ラファイが憤懣ふんまんやるかたないと言うように吠えた。




「あらましは大体わかったよ。ここから先はリンネ姫とも相談する必要があるな」




 俺は立ち上がるとラファイの方を向いた。




「なあラファイさん、もし俺があんたをここから逃がしたらそのルスドールという人に会わせてくれないか?」




「あなたを?いや他に仲間がいるのですか?何故ルスドール様に?」


 俺の言葉を聞いた途端ラファイの態度が固くなった。




 当然だけどすぐに信用してくれるわけはないか。




「俺たちはとある目的があってこの国に来たんだ。この国のことを一番知っているのがそのルスドールという人だと思ってね」


 おそらくリンネ姫は高祖父であるルスドールに会いたいだろう。


 俺としても会わせてやりたいしこの地でおさをしていたルスドールなら亜晶のことを知っているかもしれない。



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