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外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

15.傲慢な男

「私はルスドール・パラダイ・マスロバの孫娘エルニア・ミッシンネラ・マスロバの孫、リンネ・ミッシンネラ・フィルド!あなた方の王にお取次ぎをお願いしたい!」


「マスロバだと!?」


 リンネ姫の言葉に男の眼が急に険しくなった。




 なんだ?マスロバ?それがリンネ姫の本名なのか?




 男は考え事をするように顔を伏せていたが急に思い出したように面を上げた。


 その顔に侮蔑の表情が浮かんでいる。




「…思い出したぞ。エルニア・ミッシンネラ・マスロバ、ヒト族に血を分けた恥ずべき女か!」


「なっ!」


 その言葉にリンネ姫の顔に血が上る。


 それでもリンネ姫は詰め寄ろうとするのを懸命にこらえていた。


 拳が真っ白になる位握りしめている。




「ふん、一族の裏切り者が何をしに来たのかは知らぬが同じ祖先を持つ者として話だけは聞いてやる。ついてくるがいい。ただし武装をすべて解除してからだ」


 男はそう言うと振り向いて茂みの中に入っていった。




「どうする?あいつに一発喰らわせておくか?」


 男が消えた茂みを睨みつけていたリンネ姫が息を吐いた。


「いや、止めておこう。私たちは喧嘩をしに来たのではない」




 俺たちは大人しく周囲のエルフに武器を渡してついていった。




「テツヤ、フラムは…」


「しっ」


 横を歩きながら小声で聞いてきたソラノに小さく告げる。


 フラムが途中で消えていたのは俺も気付いていた。


 山魔人やまどのフラムのことだ、おそらく気配を隠してついてきているのだろう。


 いずれそれが助けになるかもしれない、俺はそう思ってそのまま知らないふりをすることにした。








     ◆








 俺たちが連れていかれたのは森の中にあるエルフ族の町だった


 結構な大きさの町でおそらく住人は千人を超えているだろう。


 木でできた美しい家屋が立ち並び、端正な顔立ちのエルフが幾人も通りを歩いている。


 まさに幻想的と言っていい光景だったけれど彼らの俺たちを見る目は冷たく、まるで迷い込んだ野良犬でも見るかのようだった。


 まさかここまで異種族を毛嫌いしてるとはね。


 龍人族と仲が悪いのも理解できるな。




 俺たちはその中でも一番大きな屋敷へと連行されていった。


 しばらくすると先ほどの男が入ってきて目の前にある椅子にどかりと腰を下ろした。






「私がこの部族をまとめているバルド・ザークナイ・マスロバだ。この私に何の用だ」




 こいつが王だったのかよ!


 …待てよ、こいつさっきマスロバと言っていたな。




「なあ、この男はリンネ姫の親せきか何かなのか?」


 ひそひそ声でリンネ姫に尋ねるとそれを耳にしたバルドの顔が急に怒りで歪んだ。




「私をあの裏切り者の一族と一緒にするな!」


 部屋にバルドの怒号が響き渡る。






「マスロバというのはこの土地の名前だ。エルフ族は名前の最後に出身地の名前を入れるのだ」


 リンネ姫が小声で返答してきた。


 なるほど、そういうわけだったのか。つまりリンネ姫の祖先もこの土地出身ということか。


 しかしあの怒りようは何かただならぬ因縁があるみたいだ。




「まず一つお聞きしたい。この土地はルスドール・パラダイ・マスロバが治めていたと聞きます。彼は今どこへ?」


 リンネ姫が務めて冷静に尋ねた。




「はっ、ルスドール・パラダイ、あの裏切り者の祖父か!」


 バルドが嘲笑した。




「あの男ならとうの昔に失脚して今は外れの屋敷で隠居生活だ。そういえば貴様にとっては祖父にあたるのだったな。いや祖母の祖父だから高祖父になるのか?」




 バルドはそう言って嘲るようにリンネ姫を睨みつけた。


 リンネの眼にも怒りの炎が燃え上がる。


 駄目だ、これじゃ亜晶のことを聞くどころじゃない。






「で、一体何の用でここまで来たのだ?申してみよ」


「…いえ、私の高祖父を訪ねに来ただけです。挨拶をしたらすぐにお暇しますのでお構いなく」


 額に青筋を立てながらリンネ姫が低い声で答えて踵を返した。


 流石に交渉は無理だと悟ったらしい。


 しょうがないけど出直しか。




「そうはいかん」


 しかし屋敷から出ようとしたところをバルドの部下が取り囲んできた。




「これは何の真似だ?」


「最近我が国は物騒でな。貴様らが敵国から来た間者でないという保証はどこにもない。その容疑が晴れるまでこの国から出すわけにはいかぬな」


 あまりの対応についつい声をあげるとバルドがあざ笑うように答えた。




「ふざけるなっ!私たちはフィルド王国の代表で来たのだぞ!このような無礼な真似…」


 抗議の声を上げるソラノの喉元に剣が突き立てられた。




「ヒト族の如き野蛮な民の国など知らぬし興味もない。貴様らの言い分はあとでゆっくり聞いてやるからしばらく大人しくしていろ」


 こいつらはなから俺たちの話を聞く気がなかったってことか。




「どうする?力づくで抜け出すか?」


 俺は暴れそうになるキリを押さえながら小声でリンネ姫に確認した。




「いや、それはいつでもできるだろうから今は大人しく言うことを聞くことにしよう。この国で何が起きているのか気になることもある」


 リンネ姫は冷静だった。


 しかしその眼には不安の揺らぎが漂っている。


 何か気がかりなことがあるのだろうか?




「こいつらを牢に連れていけ!私が良いというまで誰も近づけるな!」


 バルドの命令で俺たちは牢へと連行されていった。



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