外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

14.エルフ族の国へ

 俺たちはその日の昼にエルフ族へ向かうためにラングの城を発つことになった。


「姫殿下よ、また是非我が国に遊びに来てくれ。歓待するぞ」


「お約束しますわ。ラング様も是非フィルドでいらしてくださいな」


 リンネ姫とラングは固い握手を交わし、俺たちはひたすら西へと飛び続けた。




「龍人国か、短い間だったがいいところだったな」


 眼下を見下ろしながらリンネ姫が感慨深げにつぶやいた。




「この世にはまだ知らない世界がたくさんある。私ももっと見識を広めなくてはな」




「あれだけ研究意欲があるのにまだ物足りないのか」


「当然だ。私の目標はこの世の全てを知ることだぞ」


 呆れたように言う俺にリンネ姫が胸を張って答えた。






「結局二回しかお風呂に入れなかった…」


 アマーリアは名残惜しそうだ。




「唐辛子もっともらっておけばよかったかなあ」


 キリは旅道具を入れた袋を確認している。


 その中には龍人族からもらってきた唐辛子がどっさり入っている。




「そんなに気にいってたのか」


「これは村へのお土産。みんなきっと好きになる」


 フラムが答えた。




「確かに唐辛子は蕎麦に入れても美味いけどね。なんかすっかり旅行気分だな」


「テツヤの言う通りだ。みんなもっと気を引き締めるのだ」


「その言うソラノは何を食べているんだ?」


「あ、いやこれは…」


 俺が指摘するとソラノが慌てたように茶色い塊を背中に隠した。




「なんだ、龍人族の携行豆菓子ではないか。どこから持ってきたのだ」


「そ、それは…その…」


 アマーリアの言葉にソラノはばつが悪そうに手に持っていた笹の葉の包みを出した。


 上に羊羹そっくりな塊が乗っている。






「羊羹に似てるな」


「ようかん?なんだそれは。これは携行豆菓子という龍人族に伝わる豆を使った菓子だぞ。赤豆という豆を砂糖と一緒に煮てから潰してゼラチンで固めて作るのだ。甘くて栄養満点だから戦場での携行食にも使われているのだぞ」


「聞けば聞くほど羊羹だな。地球だと豆を寒天という海藻で固めてたんだ。ちょっと味見をさせてくれないか」


 一切れ取って口に運ぶとまさに羊羹だった。




「今朝食べた料理があまりに辛かったからちょっと甘いものはないかと尋ねたらこれを持ってきてくれたのです。それが非常に美味しかったからいただいてきたんです」


「ふむ、確かに素朴な甘さでなかなか美味しいではないか」


「戦場ではこれ一塊あれば一日戦えると言われているのですよ」


「でも喉が渇く」


「あ、あ…そんなにたくさん食べては…」


 惜しむ声をあげるソラノをよそにみんなワイワイ言いながら羊羹を摘まんでいる。




「そういえばフィルド王国でこのお菓子は見かけなかった気がするな」


「フィルドでは豆と言えば料理に使うものだからな。それにワールフィアとは育つ豆も違う。お菓子に使うというのは盲点だったぞ」


「どこかに大豆はないかな。大豆があれば油もとれるし色んな料理に使えるんだけど」




 そんなことを話しながら俺たちは龍人国をひたすら飛び続け、やがてエルフ国との国境へ辿り着いた。






 ラングによるとエルフ族はかなり用心深いうえに好戦的らしいのでここから先は空を飛んでいくのは止めて地上を行くことにした。




 国境を越えて森の中へ入っていく。


 ほどなくして何者かに囲まれていることに気付いた。




「テツヤ」


「ああ、わかってる」


 アマーリアの言葉に頷いて周囲をスキャンする。


 俺たちは周囲五十メートルほど先から幾重にも囲まれていた。




「どうする?」


「とりあえず相手の出方を待とう。ともあれこちらに攻撃の意思がないことを示す必要があるな」


 リンネ姫はそう言うと真っ白いハンカチを取り出して小枝の先に括りつけた。


 こっちでも戦闘の意思がないことを示すのは白旗なんだな。




 武器を構えずリンネ姫を守るように囲みながら周囲の様子を窺いつつ慎重に足を進めていく。


 周囲を取り巻く気配も俺たちに合わせて移動していた。






「危ねえ!」


 しばらく歩いていると足元にいきなり矢が突き立った。




 俺たちが足を止めると周囲を囲む気配が徐々に近づいてきた。


 今や地上だけでなく樹上からも殺気が注がれている。




「私はヒト族の国フィルド王国から来た者だ!私たちに攻撃の意思はない!エルフ族の王と話をしに来た!」


 リンネ姫が声を張り上げた。




 俺は何かあればすぐに行動を移せるように身構えていた。


 周りのみんなも武器こそ手にしていないけどすぐに攻撃できるように気を張り詰めている。


 それは向こうも同じで空気が急速に緊張を帯びていた。




「ヒト族だと」


 眼前の茂みが動き、中から数名の影が出てきた。


 色の薄い金髪に透けるような白肌、エメラルドのような瞳を持った美しい顔立ちと横に飛び出した長い耳、間違いなくエルフ族だ。


 しかしその眼は俺たちを冷たく見据えている。


 全員が軽量鎧を身にまとい、弓矢や剣を構えている。






「下賤な民が神聖なるこの森に何の用だ。この森を汚す前に疾くと立ち去れ」


 先頭に立っていた男が冷酷に言い放った。


 取り付く島もないどころか言葉を交わすのすら我慢できないという口調だ。



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