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外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

10.亜晶の謎を追え

「とりあえずテツヤには亜晶の正体を突き止めてもらいたい。できればどこで採れるのかということも」


 翌日、王城に行くとリンネ姫がそう頼んできた。


 そうは言ってもリンネ姫ですら正体を掴みかねているという代物だ、そう簡単に正体が掴めるとは思えない。


 それにもう一つリンネ姫が念押しをしてきたことがある。




「よいか、くれぐれもベルトラン帝国には知られぬように動くのだ」




 リンネ姫が口を酸っぱくしてそう言ってきた。




「亜晶はベルトラン帝国でも特級保護資源扱いなんだ。当然最高級の禁輸措置が取られている。そんなものをうちで探していると知れたらどうなるかわかるだろ?」


 エリオンが補足してきた。


 亜晶は過去に戦争の火ぶたになったこともあるという。


 そんなものを探しているという情報ですら要らない勘繰りを生んでしまうのだとか。




「特にトロブのカチエルベーカリーには気を付けるように」


「なんでだ?あのパン屋がどうかしたのか?まさか…?」




 カチエルベーカリーは一か月ほど前にトロブにできたばかりのパン屋だ。




 ベルトランとの国境沿いで生まれ育ち、ゴルドのパン屋で修業を積んだという主人が営んでいるパン屋で本格的なベルトランのパンを安い値段で買えると町民にも評判だった。


「そのまさかだ。パン屋は仮の姿でその正体はベルトランからの密偵だ」


「マジかよ…」




 あの人の良さそうなおっちゃんがベルトランの密偵とは…人を信じられなくなりそうだ。




「そういえば前に来てた絵描きはどうなったんだ?あの人が密偵だったんじゃないのか?」


「ああ、確かミシングとかいう名の男だったな。あの者なら密偵を辞めたよ」


「辞めた?なんでまた」


「あの時私が絵を大量に注文したであろう?あれで本当に絵に対する情熱が出てきたのだとか。今は故郷のベルトランに戻って本格的に画家として活動しているらしいぞ。今度個展をやると招待状も来ていたよ」




 そ、そうなのか…人生はわからないものだな。




「ともかくこれは隠密に進めるように頼む」


「わかったよ。しかし何から何まで謎な物質なんだろ、どうやって調べたものか…そうか、あの人がいるじゃないか!」


「あの人?」


「カーリンさんだよ!あの人ならこういうのは専門だろ?絶対に何か知っているって!」


「それなのだがな…」


 そう言ってリンネ姫がため息をついた。




「私も同じことを閃いて昨晩連絡を取ってみたのだが繋がらないのだ。あの人はふらっといなくなることが多いからな。おそらく今回もどこぞに行っているのだろう」




 ガーン、だ。一つ伝手がなくなってしまった。




「だが私が思うに亜晶の秘密はワールフィアにあるように思う。それが魔獣の一部だというお主の言葉を信じるなら魔獣大国であるワールフィアになんらかのヒントがあるかもしれない」


「ワールフィアか…」


 確かにそれは一つの可能性かもしれない。




「とりあえず一旦トロブに戻ってみるよ。グランだったら何か知ってるかもしれない。あいつもワールフィア出身だしね」


「うむ、私もトロブへ同行しよう。今後のことをもっと詰めたいし、ボーハルトでの研究もあるからな」








    ◆








「あの人なら少し前にワールフィアへ行きましたよ」


 グランの村につくとミンレがおっとりとした口調で言ってきた。


「ワールフィアに?なんでまた」


「なんでも昔の友人に頼まれごとをされたとかなんとか。一月くらいで帰ってくるという話だけれど…あの人に何か?」


「いや、いないんならいいんです」




 俺はむにゃむにゃとごまかしながらグランの村を後にした。


 まさかグランまで不在とは。


 こうなるといよいよワールフィアに乗り込んでみるしかないか。


 しかしそうなるとカチエルベーカリーのことが問題になるな。


 あの主人に知られずにワールフィアに行くにはどうしたらいいんだ?




「それなら問題ない」


 リンネ姫に相談すると事も無げな言葉が返ってきた。




「どうするんだ?パンを大量発注して店に釘付けにするのか?」


「そんなことはせんよ。しかし似たようなものだがな」


 リンネ姫がにやりと笑った。




「一週間後くらいにここへゴルドの食糧管理官がやってくる。パン屋の営業許可を継続して所得するためには数年に一度ゴルドで研修を受ける必要があるとな。まあそんな制度はないのだが」


「そこまでするのかよ!」


「いずれそういう制度も必要だと思ってはいるのだ。実際今回はそのテストケースも兼ねている。少なくともそれで二週間は稼げるだろう。その間にワールフィアに行って亜晶のことを調べてくれ」


「わかった。どこまで調べられるかわからないけどやれるだけやってみるよ」


「頼んだぞ、私はボーハルトに詰めている。また落ち合うとしよう」




 こうして一週間が過ぎ、カチエルがゴルドに向けて発ったのを確認してから俺たちもワールフィアへと向かうことになった。



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