外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
5.魔動車
「その通り!」
リンネ姫が鼻高々に答えた。
「魔力を動力にする試みは遥か昔から行われてきたがいずれも上手くいかなかった。どこまでいっても魔力ではなく魔力で生み出した力を動力とするものばかりだったのだ。風力や水力のようにな」
ぐるぐると行ったり来たりしながらリンネ姫が話を続けた。
「しかしいずれにも欠点がある。風力は帆を張ることから他の風の影響を受けるし水力は水上でしか使えぬ。火魔法で湯を沸かして圧縮させた蒸気を動力源に、とも考えたが扱いが難しくてな」
リンネ姫の話は留まることを知らない。
完全にスイッチが入ったみたいだ。
「そもそも魔力をそのまま運動力に変えることが可能なのか、それすらも魔導士の間では長年の疑問だったのだ。しかし!テツヤの土属性がその突破口を開いてくれた」
へ?俺?
「土属性はつきつめると物体操作に行きつく。それこそが魔力を運動力に転じる要だったのだ。これによって研究が一気に加速した」
そう言ってリンネ姫が魔動車へ近寄った。
詠唱を始めると魔動車に刻まれた魔法陣が光を放ち、やがて魔動車がゆっくりと動き出した。
次第に加速を強めた魔動車は敷地の奥へと進み、そして戻ってきた。
自動車と違ってエンジン音はまったくしないし排気ガスも出ていない。
「…これは…凄いな」
驚きでそういうのが精いっぱいだった。
リンネ姫はこの世界の自動車を作ったのか。
「であろう?」
リンネ姫は得意顔だ。
「元は空中浮揚の魔術の研究から始まっているのだ。一応それも実現はできたのだが浮揚は思いのほか魔力を使うために非効率でな。ならば道を走らせた方が良いのではと思い至ったのだ」
確かに地球でも飛行機の方が燃料を食うというもんな。
「いずれは空中浮揚や飛行も実用に耐えられるようになるだろう。しかし今は陸上の移動に使用した方が現実的だと判断したのだ。そうして作ったのがこの魔動車だ」
魔動車の荷台には魔法陣が刻まれ、その中に魔石が数個はめ込まれている。
「これならば操作者は発動にそこまで魔力を必要としないし魔力の知識もごく限られた範囲で済む。いずれは多少魔術が使える人間ならば誰でも動かせるようになるだろう」
「これは大したものですな!これならば今まで馬や走竜を使って運んでいたものを人の手だけで運べるようになるわけですか!」
ゲーレンが感心したように唸り声を上げた。
「うむ、ただしまだまだ改良の余地はあるのだがな。なにせ今のままでは曲がることもできぬからまっすぐ走るだけだ。ゲーレンには操舵方法を考えてもらいたいのだ」
「ふむ…なかなか骨が折れそうですがやってみる価値はありますな」
「それだったらいい方法があるぞ」
俺は魔動車の前輪部分の構造を変化させてナックルアームとタイロッドで構成される簡単なアッカーマン機構を作り上げた。
タイロッドを左右に動かすと連動しているナックルアームが前輪を傾けてカーブを切ることができる仕組みだ。
ついでにラック・アンド・ピニオンで動くハンドルも作ってタイロッドを操作できるようにした。
「ちょっとテストしてみるから動かしてくれないか」
俺は魔動車の上に乗りこんだ。
リンネ姫の詠唱で再び魔動車が動き出す。
今度は俺のハンドル操作で自由に曲がることができた。
パワステじゃないしゴムタイヤでもないうえにサスペンションもついてないから乗り心地は最悪だけど間違いなく俺の反動操作で思い通りに動かすことができる。
「これは凄いな。普通の車と全然変わらない、いや音や振動がない分もっと良いかもしれないぞ」
「凄いのはテツヤの方だ!一体何をどうしたのだ?まるで鳥のように自由に旋回していたぞ!」
戻って車を止めるとリンネ姫が好奇心を押さえきれないと言うように駆け寄ってきた。
「確かにこんな機構は初めて見ましたぞ。これがあれば今の馬車ですら操作性が段違いになりそうですな」
ゲーレンも感心したように魔動車を眺めている。
「いや、これは軽く思い付きで作ったものだからまだ改良の余地はあるよ。ゲーレンさんにはそれをお願いすることになるだろうな。それよりもこの魔動車だよ!これはこの国の交通を一変させるぞ」
「であろう?」
得意そうに頬を染めるリンネ姫はだったが、何故かすぐに真顔に戻った。
「だがこれはまだ世に出せぬ」
「なんでだ?こんなに便利なのに。これを作ったら飛ぶように売れると思うぞ。フィルド王国の交通だって一気に効率的になると思うんだけど」
「だからだ」
リンネ姫がこっちを睨んできた。
「お主の作り上げるものは確かに便利だ。しかし便利過ぎるのだ。こんなものを世に出したらどうなると思う?皆がこぞって求めるだろう。それはベルトラン帝国だって同じことだ」
そこでようやくリンネ姫が言おうとしていることに気付いた。
「お主はベルトラン帝国のアスファルト道路のことを忘れたのか?彼の国で実現している空中浮揚術のことを?こんなものを世に出したらすぐにベルトラン帝国が飛びつくに決まっているではないか」
リンネ姫がそう言いながら詰め寄ってくる。
そ、そう言えばそうでした…
「ゲーレンもこのことは他言無用、私が良いというまで一切の開発は許さぬ」
「仰せのままに」
ゲーレンが深々とお辞儀をした。
「そもそもここへ連れてきたのも他の者に知られぬためなのだ。ここは私の試験場だからな」
そういう目的でここを作ったのかよ!
「この魔動車もここで開発していたのだぞ。ここならだれの目にも触れずに自由に研究できるからな」
リンネ姫がそういって笑った。
そうだったのか、全然気づかなかったぞ。
「お主を驚かせたかったからな。とは言っても今回もお主には驚かされてしまったのだがな」
そう言ってリンネ姫は笑いながら俺の胸を拳でつついた。
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