外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

2.異世界の砂糖作り

 連れていかれたのは煙突から煙が立ち上る大きな納屋のような建物だった。


「ここが砂糖の精製工場なのだ」


 中に入ると強烈に甘い砂糖の匂いが鼻を突いた。




「砂糖作りはまずスライムを刻むところからはじまる」


 リンネ姫が指差した奥に目をやると巨大な鉄檻の中にスライムがぎっしり詰まっていた。


 エプロンを付けた作業員が鉄檻の中からスライムを取り出すと包丁で細かく切り刻んで風呂桶のような容器の中にそれを投げ込んでいく。




 リンネ姫がそれを一切れ取るとこっちに突き出してきた。


「食べてみよ」


「えぇ…」


「良いから食べてみよ。この程度では死にはせん」




 この程度ってことはたくさん食べたらどうなるんだよ!?


 リンネ姫の押しに負けて恐る恐るスライムの欠片を口に運んでみた。


 なんかまだ細かく震えてるんだけど…


 意外にもスライムは口に入れるとすっと消えるように溶けていった。


 口の中に甘さと同時に草というか土というか何とも言いようのない青臭さが広がっていく。




「どうだ?」


 リンネ姫が興味津々という顔で聞いてきた。




「あ~、甘いは甘いんだけど…なんというか…何とも言えない味だな」


「であろう?砂糖スライムは確かに糖分を含んではいるがそのままではとても食用にはならぬのだ」


 ならないものを食べさせたのかよ!




「しかも放っておくといずれスライムとして元に戻ってしまう。なので一旦灰汁に浸けて不活性化させるのだ」


 構わずに説明を続けるリンネ姫の言う通り刻んだスライムを放り込んでいた風呂桶のような容器には液体が満たされていて、そこにスライムの破片が沈んでいる。


「しかし全てを砂糖作りに使ってしまうといずれスライムがいなくなってしまう。そのためにああしている」


 リンネ姫が指差した先にはバケツに入ったスライムの切れ端があった。


「切った一部はああやって草原に放してやる。そうすると一週間程度でまた元のサイズに戻るのだ」


「へえ~、こういう風に養殖してるのか」


「まず灰汁に浸けたスライムをそのまま煮てドロドロに溶かす。それを酢で中和させてから木炭などで濾過し、結晶化させたのが砂糖なのだ」


 言われて辺りを見渡すと確かにあちこちで何かを煮たり絞ったりしている。




「ここシュガリーで育つ砂糖スライムは純度が高く糖分の含有率が高いので高品質な砂糖が作れるのだ」




 工場の一角では大きな釜から真っ白な砂糖の結晶を掻き出してる所だった。


「そう言えばこういう作り方をするなら黒糖なんてのはないのかな」


「あるぞ。ここでは作っていないがな。砂糖スライムに特別な木を食べさせると黒糖が採れるようになるのだ。なので黒糖を作っているのはもっと山奥だな」






「なるほどね、フィルド王国で砂糖がふんだんに使われている理由が分かったよ」


 砂糖工場の外にあるベンチでお茶を飲みながら俺は辺りを見渡した。


 お茶にも砂糖がたっぷりと入っている。




「我が国の砂糖はベルトランにも輸出している。魔石と並んで我が国の主要産業なのだ」


「魔石もなのか?」


 リンネ姫が頷いた。


「フィルド王国は山が多いからな。鉱物資源は豊富に採れるのだ」


「だから小国であるフィルド王国がベルトラン帝国とも渡り合えてるわけか」


「小国は余計だ。だがまあ否定はせんがな」


 リンネ姫はそう言って笑った。




「ともかくあの線路が使えないと砂糖生産が滞る所だったから助かった」


「いいってことさ。俺も良いところに連れて来てもらったことだし…」




「た、大変だぁっ!」




 その時、一人の男が走ってきた。


「山岳羆の群れが来たぞ!!スライムたちがやられてる!」




「なんだと!」


「おい、てめえら武器をありったけ持ってこい!」




 男の声に工場からわらわらと男たちが出てきた。


 みな手に武器を持ち、鎧で身を固めている。




「な、なんだ?どうしたんだ?」


「厄介なものが来てしまったな。久しくなかったというのに」


 リンネ姫が歯噛みをしている。




「ここの者だけでは危険だ!私たちも行くぞ!」


 リンネ姫の声を合図にセレンを含めリンネ姫の護衛隊も一斉に動き出した。


 当然俺もついていく。




 向かったのは山裾に広がる牧草地帯の一番奥だった。




「で、でけえ…」


 一目見て俺は思わず息を呑んだ。


 巨大な茶色い獣が俺たちには目もくれずに砂糖スライムを貪っている。


 姿かたちは地球の羆によく似ているけどサイズが一回り以上違う。


 立ち上がったらオークよりもでかいんじゃないだろうか。




 そんなのが十数頭も群れになってスライムに襲い掛かっているのだ、おそらくあっという間に一帯のスライムが食いつくされてしまうだろう。


 工場の人間が武器で威嚇しても全く恐れる様子がない。


 それどこか面倒くさそうに前腕を振るうだけで数人がまとめて吹き飛ばされていた。




「あれは山岳羆と言ってな、普段はもっと山奥に住んでいるのだが山の餌が少ない年はああやってここまで下りてくることがあるのだ。一度スライムの味を覚えてしまうともう他の餌には目もくれなくなってしまう。そうなるとこの一帯の砂糖産業は壊滅だ。それだけは防がねばならぬ」


「そういうことね!」


 俺は土から槍を生み出して一番近くにいた山岳羆の心臓を一突きにした。


 山岳羆は絶叫すら上げる暇もなく絶命する。


 それを見て群れの殺意が一気にこちらに向いた。




 大地を揺るがすような方向と共に地響きを上げながらこちらに突進してくる。




「いっちょ熊退治と行きますか!」


 俺たちはリンネ姫を囲むように陣形を組んで武器を構えた。



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