外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
36.聖女
どれほどの人たちの体内からタリウムを排出させただろう。
それでもまだまだ終わりは見えなかった。
タリウムの毒が体内に影響を及ぼすのは早くて半日、それまでの間に全てを終えなくてはいけない。
体内の魔力も着実に減ってきている。
果たして俺の体力はあとどれだけ持つのだろうか。
心の中にそんな暗い考えが暗雲のように広がっていく。
駄目だ!今はやれることをやるんだ!
俺はそんな考えを振り払って作業に没頭した。
そんな俺の目の前に別の信徒が置かれた。
眼を上げるとそこにはゼファーとヘルマがいた。
「仕方のない奴だ」
ゼファーが呆れたようにため息をついた。
「これは余に逆らったうえでこ奴らが選んだ道だ、好きなようにさせてやれ…と言いたいところだが、こ奴らは曲がりなりにも我が国の国民でもあり余はこ奴らの王でもある。救おうとしている手に力を貸すくらいはせんとな」
「お前はそこにいるがいい。こいつらは私が運んでやる」
ヘルマはそう言って解毒の済んだ信徒を別の場所へ運んでいった。
「すまない、助かるよ」
「あ、あの…」
後ろで声がした。
振り向くとそれはエイラだった。
「な、何故そこまでするんですか、あなたは火の神を信じているわけでもないですよね。それどころかこの人たちに大変な目に遭わされてきたたのに、なんで助けようとするんですか?」
俺はエイラの眼を見た。
その眼が迷いに震えている
「実を言うとさ、俺もはっきりした考えがあるわけじゃないんだ。でもこれはあんまりじゃないか。神様の教えだかなんだか知らないけどみんな苦しんでいる。子供だっている。そんなのは見過ごすことができない、それだけなんだよ」
「そいつに答えを求めるのはやめておくのだな。その時その時の感情で動く奴だ」
信徒を運びながらゼファーが笑い飛ばした。
「うるせえよ。こっちはお前みたいに天下国家を見渡す目なんか持ってないんだ。せめて目の前でやれることをやるだけだっつうの」
「まあそれが主の良いところでもあるがな。感情大いに結構ではないか。それが人の原動力であり人を人たらしめているとも言えるのだからな」
余はついぞそのことを忘れておったようだ、とゼファーが呟いたのが聞こえた気がした。
「…わ、私も、何かできないでしょうか!」
エイラが叫んだ。
「わ、私は火の巫女です。苦しむ人がいたら救うのが火の神の教えです。私にもお手伝いさせてください!」
悲惨な光景に足が震え、顔が青ざめている。
それでもその眼に先ほどの迷いはなかった。
そして俺の目には不思議な光景が映っていた。
今、俺の目にはエイラの体内から迸る魔力が見える。
その魔力の流れは網のように広がり、床で苦しむ信徒たちに繋がっていた。
火の花嫁は火神信奉を統べる存在になる、とカミウス司祭は言っていた。
ひょっとしてこれがそういうことなのだろうか。
火の花嫁となる人物は信徒と魔力で結びつく力を持っているのか?
「…わかった。じゃあ手伝ってくれないか?」
「はい!」
エイラは力強く頷くと俺の元に近寄ってきた。
「私は何をすればいいんですか」
「エイラは祈ってくれ。ここで苦しむ人たち全員にだ」
「そんなことでいいんですか?」
エイラが不思議そうな顔をした。
「ああ、今必要なのはそれなんだ。エイラの祈りに俺の力を乗せることができるか試してみたいんだ」
「…わかりました。やってみます」
エイラはそういうと床に膝をつき、目の前で手を組んだ。
エイラと信徒を結ぶ魔力の繋がりが更に強くなるのがわかる。
俺はエイラの背中に手を当てた。
「いくぞ」
かつて俺はアマーリアと力を同調させて土石流を防いだことがある。
同じことができるかもしれない。
意識をエイラと同調させ、魔力の流れに乗せていく。
エイラ越しに人々の苦しみが流れ込んできた。
「ぐぶっ」
強烈な吐き気に思わず手を離しそうになるのを必死にこらえた。
逆流してくる意識になんとか抗いながら俺は信徒たちの身体へ意識を集中させた。
一人一人の身体に力を注ぎこみ、細胞内に溶け込んでいきつつあるタリウムを集めて体の外へ排出させる。
まるで自分の意識が二千人の意識の中に溶け込んでいきそうな感覚になってくる。
自分という存在がどんどん希薄になっていく。
俺は一体何のためにこんなことをしているのか…そもそも俺は一体何者なんだ…
その時温かな何かが手のひらを通じて流れ込んできた。
それはまるで炎が液体となって体を巡っているようだった。
これは…エイラ…なのか?
薄れていた意識が再びはっきりしてくる。
背中に当てた手を通してエイラの祈りを感じた。
それはここで苦しむ燼滅教団の信徒だけでなく、火の神を信じる全ての信者へ対しての祈りだった。
その祈りが力となり、俺の身体に流れ込んでいる。
(ありがとう)
俺はエイラに感謝して再び意識を集中させた。
エイラの力は信徒へも流れ込み、毒に侵された体を回復させていた。
信徒たちの苦しみの声が次第に小さくなり、やがて驚きと喜びの吐息へと変わっていった。
体を起こし、お互いの顔を見合わせて無事を確かめ合っている。
やがてその顔が一心不乱に祈りを続けているエイラへと向いていった。
祈り続けるエイラの身体から溢れた魔力は光となって広間を照らしている。
それはまるで暗闇をともす一筋の炎だった。
「聖女様」
誰かがポツリを漏らした声が聞こえた。
「聖女様だ」
「あの人こそ我々を導いてくれる聖女様だ」
その声がさざ波のように広間を広がっていく。
やがて信徒たちはみなエイラの方へ向き直り、涙を流して拝んでいたという。
俺はその光景を見ていない。
その頃には力を使い果たして気絶していたからだ。
それでもまだまだ終わりは見えなかった。
タリウムの毒が体内に影響を及ぼすのは早くて半日、それまでの間に全てを終えなくてはいけない。
体内の魔力も着実に減ってきている。
果たして俺の体力はあとどれだけ持つのだろうか。
心の中にそんな暗い考えが暗雲のように広がっていく。
駄目だ!今はやれることをやるんだ!
俺はそんな考えを振り払って作業に没頭した。
そんな俺の目の前に別の信徒が置かれた。
眼を上げるとそこにはゼファーとヘルマがいた。
「仕方のない奴だ」
ゼファーが呆れたようにため息をついた。
「これは余に逆らったうえでこ奴らが選んだ道だ、好きなようにさせてやれ…と言いたいところだが、こ奴らは曲がりなりにも我が国の国民でもあり余はこ奴らの王でもある。救おうとしている手に力を貸すくらいはせんとな」
「お前はそこにいるがいい。こいつらは私が運んでやる」
ヘルマはそう言って解毒の済んだ信徒を別の場所へ運んでいった。
「すまない、助かるよ」
「あ、あの…」
後ろで声がした。
振り向くとそれはエイラだった。
「な、何故そこまでするんですか、あなたは火の神を信じているわけでもないですよね。それどころかこの人たちに大変な目に遭わされてきたたのに、なんで助けようとするんですか?」
俺はエイラの眼を見た。
その眼が迷いに震えている
「実を言うとさ、俺もはっきりした考えがあるわけじゃないんだ。でもこれはあんまりじゃないか。神様の教えだかなんだか知らないけどみんな苦しんでいる。子供だっている。そんなのは見過ごすことができない、それだけなんだよ」
「そいつに答えを求めるのはやめておくのだな。その時その時の感情で動く奴だ」
信徒を運びながらゼファーが笑い飛ばした。
「うるせえよ。こっちはお前みたいに天下国家を見渡す目なんか持ってないんだ。せめて目の前でやれることをやるだけだっつうの」
「まあそれが主の良いところでもあるがな。感情大いに結構ではないか。それが人の原動力であり人を人たらしめているとも言えるのだからな」
余はついぞそのことを忘れておったようだ、とゼファーが呟いたのが聞こえた気がした。
「…わ、私も、何かできないでしょうか!」
エイラが叫んだ。
「わ、私は火の巫女です。苦しむ人がいたら救うのが火の神の教えです。私にもお手伝いさせてください!」
悲惨な光景に足が震え、顔が青ざめている。
それでもその眼に先ほどの迷いはなかった。
そして俺の目には不思議な光景が映っていた。
今、俺の目にはエイラの体内から迸る魔力が見える。
その魔力の流れは網のように広がり、床で苦しむ信徒たちに繋がっていた。
火の花嫁は火神信奉を統べる存在になる、とカミウス司祭は言っていた。
ひょっとしてこれがそういうことなのだろうか。
火の花嫁となる人物は信徒と魔力で結びつく力を持っているのか?
「…わかった。じゃあ手伝ってくれないか?」
「はい!」
エイラは力強く頷くと俺の元に近寄ってきた。
「私は何をすればいいんですか」
「エイラは祈ってくれ。ここで苦しむ人たち全員にだ」
「そんなことでいいんですか?」
エイラが不思議そうな顔をした。
「ああ、今必要なのはそれなんだ。エイラの祈りに俺の力を乗せることができるか試してみたいんだ」
「…わかりました。やってみます」
エイラはそういうと床に膝をつき、目の前で手を組んだ。
エイラと信徒を結ぶ魔力の繋がりが更に強くなるのがわかる。
俺はエイラの背中に手を当てた。
「いくぞ」
かつて俺はアマーリアと力を同調させて土石流を防いだことがある。
同じことができるかもしれない。
意識をエイラと同調させ、魔力の流れに乗せていく。
エイラ越しに人々の苦しみが流れ込んできた。
「ぐぶっ」
強烈な吐き気に思わず手を離しそうになるのを必死にこらえた。
逆流してくる意識になんとか抗いながら俺は信徒たちの身体へ意識を集中させた。
一人一人の身体に力を注ぎこみ、細胞内に溶け込んでいきつつあるタリウムを集めて体の外へ排出させる。
まるで自分の意識が二千人の意識の中に溶け込んでいきそうな感覚になってくる。
自分という存在がどんどん希薄になっていく。
俺は一体何のためにこんなことをしているのか…そもそも俺は一体何者なんだ…
その時温かな何かが手のひらを通じて流れ込んできた。
それはまるで炎が液体となって体を巡っているようだった。
これは…エイラ…なのか?
薄れていた意識が再びはっきりしてくる。
背中に当てた手を通してエイラの祈りを感じた。
それはここで苦しむ燼滅教団の信徒だけでなく、火の神を信じる全ての信者へ対しての祈りだった。
その祈りが力となり、俺の身体に流れ込んでいる。
(ありがとう)
俺はエイラに感謝して再び意識を集中させた。
エイラの力は信徒へも流れ込み、毒に侵された体を回復させていた。
信徒たちの苦しみの声が次第に小さくなり、やがて驚きと喜びの吐息へと変わっていった。
体を起こし、お互いの顔を見合わせて無事を確かめ合っている。
やがてその顔が一心不乱に祈りを続けているエイラへと向いていった。
祈り続けるエイラの身体から溢れた魔力は光となって広間を照らしている。
それはまるで暗闇をともす一筋の炎だった。
「聖女様」
誰かがポツリを漏らした声が聞こえた。
「聖女様だ」
「あの人こそ我々を導いてくれる聖女様だ」
その声がさざ波のように広間を広がっていく。
やがて信徒たちはみなエイラの方へ向き直り、涙を流して拝んでいたという。
俺はその光景を見ていない。
その頃には力を使い果たして気絶していたからだ。
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