外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

33.ヘルマ・バハル

「ヘルマ!」


 俺の声にもヘルマは反応を示さなかった。


 その顔からは一切の表情が消えている。




「ではまずその娘を返してもらおうか。命が惜しいのであればな」


 スカルドが嘲るように話しかけてきた。




「エイラをどうする気だ!?なんでこんな怪しげな儀式をしていやがる!」


「怪しげ?これだから無知蒙昧な者は困る」


 スカルドが困ったと言うように頭を振った。




「これは降臨の儀式だ。その娘はその依り代なのだよ」


 スカルドが手を広げて魔法陣を示した。




「この娘は火の花嫁となる存在!ウルカン様をこの世に顕現させることができるのは火の花嫁だけなのだ!」


「馬鹿な!精霊をこの世に呼び出すだと?」


 精霊界の者はこの世界には顕現できないというアスタルさんの言葉が頭をよぎる。


 こいつはエイラを依り代にそれを実現させようってのか!




「それで、そのウルカンとやらを顕現させてどうしようってんだ?」


 ヘルマの切っ先から目をそらさずに俺は質問を続けた。


「決まっている!ウルカン様の御力によって全ての異教徒、邪教徒どもを燼滅させるのだ!それが成った暁には我々ウルカン様の忠実なる信徒もその命を絶つ。死をもって火の神の真の信徒となる、それこそが我ら燼滅じんめつ教団の究極使命なのだ!」


 スカルドは陶然とうぜんとした眼差しで虚空を見ながら滔々と語った。




「…狂ってやがる」


「貴様に何が分かる!ウルカン様の御言葉に耳を傾けぬ痴れ者が!」




 スカルドが目をぎらつかせ、口角泡を飛ばしながら叫んだ。


「本来火とは神聖なものであり火によって命を奪うことは禁忌とされている。しかし貴様ら異教徒は別だ。貴様ら咎人たる異教徒はウルカン様の炎によって浄化されることでようやく許されるのだ!」




 駄目だこいつ、全く話が通じねえ。




「…滅火派の連中はどうすんだよ。お前たちと手を組んでるんじゃなかったのか。火神信奉かじんしんぽうを掌握するための火の花嫁じゃなかったのかよ」


「は、あ奴らはそう思っているようだがな!」


 スカルドが嘲笑した。


火神信奉かじんしんぽうを支配する?小人しょうじんが抱くくだらぬ野望だ!そのような矮小な欲望に火の花嫁を利用するなど言語道断!我らの純粋な信仰心こそが火の花嫁を所有するにふさわしいのだ!ウルカン様もそれを望んでおられる!」




 そう叫ぶスカルドの目は既に焦点が合っていなかった。


 完全に自分の世界に入り込んでいる。




「…わかったよ」


 俺はため息をついた。




「ようやく覚悟を決めたか。クロエリアよ、まずはこ奴らの手足を切り落として身動きできなくするのだ。その後に神聖なる火によって浄化してやろう」


 俺はその言葉に構わずスカルドの方へ足を進めた。


「どうしたのだ!クロエリア!こやつをたたっ斬るのだ!何故動かん!」


 しかしヘルマは動かない。


 その眼や耳、鼻から血が流れ落ち、体が小刻みに震えている。


 それでも剣を構えたまま動くことはなかった。




「何をしているっ!さっさとこやつぶっ!」


 俺の拳がスカルドの顔面にめり込んだ。




「お前の術ごときでヘルマが操れるわけないだろ」




「な、何故だ?何故私の命令が届かん!こ奴の魂は儂の魂に縛り付けられている!逆らうことはそれこそ己の存在を削られるのと同じ苦痛のはず!」


 鼻血を流しながらスカルドが信じられないと言うように吠えた。




「あのなあ…」


 俺はため息をつきながらヘルマに近寄った。




「こいつが魂を捧げてるのはお前じゃねえよ。そこにいる王様だ」


 俺は親指でエイラの傍らにいるゼファーを指差した。


「ヘルマはあの男を手にかけるくらいなら喜んで死ぬだろうよ。まあ死なれちゃ困るんだけどさ」


 そう言ってヘルマの額に手を当てた。


 明かりが消えるように身体に浮かんだ紋様が消え、同時にヘルマは力なく地面に崩れ落ちた。


「おっと」


 地面に落ちる前にその体を抱きとめる。




「ななな…」


 スカルドが目を飛び出しそうにして口をパクパクさせている。


 まるで釣り上げられた魚だ。




「何故貴様が儂の術を破れる!これは数百年間誰も再現できなかった古代の魂縛術だぞ!この術を使えるのは世界広しと言えど儂だけのはずだ!」


「ちょいとした事情で体内の魔力の流れなんかがわかるんだよ。つか、お前の術ってそんな大層なもんじゃないぞ。体と魂の間に魔法陣を噛ませてるだけじゃん。魂を縛り付けるとか大げさだな」


 アスタルさんに力を開放してもらったおかげで俺は生物の体内に流れる魔力の流れや魂との繋がりを感覚的に捉えられるようになっている。


 なので土属性の力を使ってヘルマの肉体の肉体に刻まれた魔法陣を操作してスカルドの術を解除したのだ。




 俺はヘルマを抱え上げるとエイラと一緒にいるゼファーに預けた。


「ほらよ、ちゃんと持っとけよ」


「言われるまでもない。だがヘルマを救ってくれたこと、感謝するぞ」


「ま、俺もヘルマには世話になってるからね」


 ゼファーは俺と笑みをかわすとスカルドに向き直った。




「スカルドよ、余が目撃者である以上もはや逃れることはできぬぞ。貴様も燼滅じんめつ教団もこれで終わりだ」


「ぐ、ぐぬぬぬぅ…」


 ゼファーの言葉にスカルドがギリギリと歯ぎしりをする。




「年貢の納め時だぜ、スカルドさんとやらよ」


 スカルドは顔に脂汗を浮かべながら後ずさった。




 その時、背後から凄まじい殺気が襲ってきた。




「危ねえっ!」


 とっさに三人を抱えて横っ飛びで逃げる。




 そこを猛烈な熱波が襲ってきた。


 同時に一つの影が広間に突っ込んでくる。




「おおっ!」


 その姿を認めてスカルドが歓喜の声をあげた。




「アグリッパ、よくぞ来た!」


 それは燼滅じんめつ教団死を撒く四教徒の一人、灼熱のアグリッパだった。



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