外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
29.火の花嫁
火の花嫁?なんだそれは?初めて聞いたぞ。
「…火の花嫁…?私が…?」
エイラも初めて聞いたのか目を丸くしている。
「火の花嫁はあらゆる宗派を超えてただ一人しかおりません。前任の火の花嫁が身罷った時に代替わりをします。そして新たな花嫁がそこにいるエイラなのです」
カミウス司祭はそう言ってエイラを見て目を細めた。
「火の花嫁は火神信奉全信徒にとって精神的な支柱です。花嫁を擁する宗派が火神信奉全信徒の頂点に立つと言っても過言ではないのです。それ故に時に度を超えた争奪戦が繰り広げられることもあります」
「ちょっと待て、じゃあエイラは…そういう宗派の都合で攫われたってのかよ。そもそも火の花嫁ってなんなんだよ、エイラがそれを承諾したのかよ!」
「火の花嫁は火の巫女となった者にとって最高の名誉です。火の巫女に選ばれた娘は誰もが花嫁となることを夢見ています」
「そういう一般論を言ってるんじゃねえ!エイラにそれを聞いたのかって言ってるんだ!エイラはどうなんだ?その火の花嫁になりたくて火の巫女になったのか?」
「わ、私は…そんなこと…火の巫女になれたのは嬉しいけど…火の花嫁なんて大役…私には…」
エイラが怯えたように後ずさりした。
「し、しかしこれはもう決まったことなのです。我々が決めたわけではない、これは火神の意思なのです」
「火神もへちまもあるか!子供に大人の都合を押し付けるんじゃねえよ!」
俺はエイラを抱きしめた。
「エイラ、嫌だったら断ってもいいんだ。それを邪魔する奴は俺がぶちのめしてやる。なんだったら俺の住むフィルド王国に来たっていいんだぞ」
エイラは目に涙をためて震えていた。
突然のことにパニック状態になりかけているみたいだ。
「落ち着け。そのようにまくし立てては娘も答えようがなかろう」
椅子に座ったゼファーが俺の方を振り返った。
「火の花嫁になりたいかなりたくないか、それを決めるのは娘自身だ。テツヤ、主が決めることではない」
その言葉に俺は初めて自分がエイラに決断を強いていることに気付いた。
それはまさに俺が非難していたことじゃないか。
「ごめん、俺が焦りすぎてた。でもこれだけはわかってほしいんだ。もしエイラが火の花嫁になりたくなくて大人たちが無理やりそれを押し付けようとするなら俺がエイラを助ける。約束するよ」
エイラが目に涙を浮かべながら小さく頷く。
それを見てゼファーがカミウス司祭に振り返った。
「娘が火の花嫁かどうかは余には関係のない話だ。余と主にとって重要なのは今後どうするのか、その一点であろう?」
「…仰る通りでございます」
カミウス司祭が押し殺した声で頷いた。
「我々はもはや行き場をなくした鼠も同然。この現状を乗り越えられるのであればどんな条件でも飲むよりほかはないでしょう」
それでいい、とゼファーが満足そうに椅子に背中を預けた。
「余を攫うなどという大罪を犯したのだ。これはもはや火神教だけの問題には留まらん。火神信奉の存在そのものを消滅させる理由となりうるだろうな」
ゼファーの言葉にカミウス司祭は首をうなだれた。
「とは言え主には同情する部分もある。そもそも今の事態は余が火神信奉への規制を強めたことも一端であるからな。故に主には一つの選択肢を与えよう」
そう言ってゼファーは身を乗り出して膝に肘をついた。
「此度の余の誘拐に加担した滅火派の司祭、協力している地方行政官、元老院議員の名前を知る限り教えよ。さすれば火神信奉だけでなく火神教の存続を認めよう」
「そ…それは…」
ゼファーの言葉にカミウス司祭が口ごもる。
「宗派が違うと言えども身内は身内、密告するような真似は憚れるか」
ゼファーが嘲笑するように口元を歪めた。
それが目的だったのかよ!
なんでゼファーがすぐに戻りたがらなかったのかこれで分かった。
別に身分を隠して諸国漫遊をしたいわけじゃなかったんだ、こうして黒幕を燻り出すのが目的だったのか。
「いや、そちらも目的ではあったがな」
ゼファーがしれっと答えた。
「ともあれ折角陰謀の震源に来ているのだ、手ぶらで帰るのももったいなかろう。隠れている獣は遠巻きに射るよりも巣穴に潜り込んだ方が狩りやすいと言うしな」
そのために自分の身を囮にしたってのか。
やるにしても無茶すぎるだろ、死んだらどうすんだ。
「なに、主がいるのだから大丈夫であろう?主はこの辺では面が割れていなかったから都合もよかったしな」
そのためにフィルド王国との外交問題まで取引材料に使ったのかよ、やることが無茶苦茶だ。
「そのくらいせんとこの国に溜まった膿は取り除けぬのでな。それに主たちを巻き込んだのだ、余の命くらい幾らでも賭けるさ。そしてそのお陰でここまで辿り着けた」
ゼファーはそう言うとカミウス司祭の方に向き直った。
「カミウス司祭、主に選択の余地があると思うな。このままだと主ら創火派は滅火派に食いつぶされるか余を攫った反逆者として滅火派共々消滅させられるかのどちらかだ。それでもいいというなら止めはせんがな」
「承知…しまし…た」
長い沈黙の後でカミウス司祭はゆっくりと口を開いた。
「全てをお話しします。そのかわりどうか火神教の存続だけは認めていただきたい」
「そうでなくてはな」
ゼファーはそう言うと首から細いネックレスを外した。
「これは契約の魔具だ。これをかけている限り主は今の密約を反故にすることはできぬ」
カミウス司祭は黙ってネックレスを首にかけた。
「これで契約成立だな」
ゼファーが微笑んだ。
爽やかなくせにとんでもなく恐ろしい笑顔だ。
「…火の花嫁…?私が…?」
エイラも初めて聞いたのか目を丸くしている。
「火の花嫁はあらゆる宗派を超えてただ一人しかおりません。前任の火の花嫁が身罷った時に代替わりをします。そして新たな花嫁がそこにいるエイラなのです」
カミウス司祭はそう言ってエイラを見て目を細めた。
「火の花嫁は火神信奉全信徒にとって精神的な支柱です。花嫁を擁する宗派が火神信奉全信徒の頂点に立つと言っても過言ではないのです。それ故に時に度を超えた争奪戦が繰り広げられることもあります」
「ちょっと待て、じゃあエイラは…そういう宗派の都合で攫われたってのかよ。そもそも火の花嫁ってなんなんだよ、エイラがそれを承諾したのかよ!」
「火の花嫁は火の巫女となった者にとって最高の名誉です。火の巫女に選ばれた娘は誰もが花嫁となることを夢見ています」
「そういう一般論を言ってるんじゃねえ!エイラにそれを聞いたのかって言ってるんだ!エイラはどうなんだ?その火の花嫁になりたくて火の巫女になったのか?」
「わ、私は…そんなこと…火の巫女になれたのは嬉しいけど…火の花嫁なんて大役…私には…」
エイラが怯えたように後ずさりした。
「し、しかしこれはもう決まったことなのです。我々が決めたわけではない、これは火神の意思なのです」
「火神もへちまもあるか!子供に大人の都合を押し付けるんじゃねえよ!」
俺はエイラを抱きしめた。
「エイラ、嫌だったら断ってもいいんだ。それを邪魔する奴は俺がぶちのめしてやる。なんだったら俺の住むフィルド王国に来たっていいんだぞ」
エイラは目に涙をためて震えていた。
突然のことにパニック状態になりかけているみたいだ。
「落ち着け。そのようにまくし立てては娘も答えようがなかろう」
椅子に座ったゼファーが俺の方を振り返った。
「火の花嫁になりたいかなりたくないか、それを決めるのは娘自身だ。テツヤ、主が決めることではない」
その言葉に俺は初めて自分がエイラに決断を強いていることに気付いた。
それはまさに俺が非難していたことじゃないか。
「ごめん、俺が焦りすぎてた。でもこれだけはわかってほしいんだ。もしエイラが火の花嫁になりたくなくて大人たちが無理やりそれを押し付けようとするなら俺がエイラを助ける。約束するよ」
エイラが目に涙を浮かべながら小さく頷く。
それを見てゼファーがカミウス司祭に振り返った。
「娘が火の花嫁かどうかは余には関係のない話だ。余と主にとって重要なのは今後どうするのか、その一点であろう?」
「…仰る通りでございます」
カミウス司祭が押し殺した声で頷いた。
「我々はもはや行き場をなくした鼠も同然。この現状を乗り越えられるのであればどんな条件でも飲むよりほかはないでしょう」
それでいい、とゼファーが満足そうに椅子に背中を預けた。
「余を攫うなどという大罪を犯したのだ。これはもはや火神教だけの問題には留まらん。火神信奉の存在そのものを消滅させる理由となりうるだろうな」
ゼファーの言葉にカミウス司祭は首をうなだれた。
「とは言え主には同情する部分もある。そもそも今の事態は余が火神信奉への規制を強めたことも一端であるからな。故に主には一つの選択肢を与えよう」
そう言ってゼファーは身を乗り出して膝に肘をついた。
「此度の余の誘拐に加担した滅火派の司祭、協力している地方行政官、元老院議員の名前を知る限り教えよ。さすれば火神信奉だけでなく火神教の存続を認めよう」
「そ…それは…」
ゼファーの言葉にカミウス司祭が口ごもる。
「宗派が違うと言えども身内は身内、密告するような真似は憚れるか」
ゼファーが嘲笑するように口元を歪めた。
それが目的だったのかよ!
なんでゼファーがすぐに戻りたがらなかったのかこれで分かった。
別に身分を隠して諸国漫遊をしたいわけじゃなかったんだ、こうして黒幕を燻り出すのが目的だったのか。
「いや、そちらも目的ではあったがな」
ゼファーがしれっと答えた。
「ともあれ折角陰謀の震源に来ているのだ、手ぶらで帰るのももったいなかろう。隠れている獣は遠巻きに射るよりも巣穴に潜り込んだ方が狩りやすいと言うしな」
そのために自分の身を囮にしたってのか。
やるにしても無茶すぎるだろ、死んだらどうすんだ。
「なに、主がいるのだから大丈夫であろう?主はこの辺では面が割れていなかったから都合もよかったしな」
そのためにフィルド王国との外交問題まで取引材料に使ったのかよ、やることが無茶苦茶だ。
「そのくらいせんとこの国に溜まった膿は取り除けぬのでな。それに主たちを巻き込んだのだ、余の命くらい幾らでも賭けるさ。そしてそのお陰でここまで辿り着けた」
ゼファーはそう言うとカミウス司祭の方に向き直った。
「カミウス司祭、主に選択の余地があると思うな。このままだと主ら創火派は滅火派に食いつぶされるか余を攫った反逆者として滅火派共々消滅させられるかのどちらかだ。それでもいいというなら止めはせんがな」
「承知…しまし…た」
長い沈黙の後でカミウス司祭はゆっくりと口を開いた。
「全てをお話しします。そのかわりどうか火神教の存続だけは認めていただきたい」
「そうでなくてはな」
ゼファーはそう言うと首から細いネックレスを外した。
「これは契約の魔具だ。これをかけている限り主は今の密約を反故にすることはできぬ」
カミウス司祭は黙ってネックレスを首にかけた。
「これで契約成立だな」
ゼファーが微笑んだ。
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