外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

27.火神教本部へ

 翌朝、まだ明けぬうちから俺たちは動き始めた。


 今や人数は総勢6人となっているからかなりの大所帯だ。


「やっぱ俺もいかなきゃ駄目なんすかねえ…」


 キツネが目をこすりながらぶつぶつ呟いている。




「いや、主はここで別れてもいいぞ」


「マジっすか!」


 ゼファーの言葉にキツネが目を丸くした。




「ああ、主には十分世話になったことだ、ここらで開放してやろう」


 ゼファーの目配せでヘルマが革袋から金貨を手づかみして握らせるとキツネがあっという間に相好を崩した。




「へへっこりゃすいませんね。いやはや俺も命を懸けた甲斐があるってもんすよ」


 まったく現金な奴だ。




「ただし最後にもうひと働きしてもらうぞ。町が動き始めたら我々がまだこの町に潜んでいると噂を流すのだ」


 なるほど、少しでも追手をかく乱させようって訳か。




「お安い御用で!」


 キツネが金貨を抱えて敬礼した。




「よし、行動を起こすぞ!」


「待て、その前に主にはこれを渡しておこう」


 家から出ようとした時、ゼファーが俺に一枚の羊皮紙を渡してきた。


 何やら細かな文字と印章が押してある。


「なんだこれは?」


「渡すのが遅れたが余に万が一のことがあればこれを見せるがよい。少なくとも主とフィルド王国は責を免れよう」


「へ、陛下…それは…!」


 エリオンが驚いたような声をあげた。


「…つまりこれは遺書ってことか」


「まあそう取ってもらっても構わぬがな。それは言うなれば余が発行した免状のようなものだ」


「ちぇ、どいつもこいつも俺にあれこれ押し付けてきちゃって」


 俺はぶつぶつ言いながらその羊皮紙を懐にしまった。


「こんなもの必要ねえよ。あんたは五体満足で城に帰してやる」


「ふ、期待しているぞ」




 ゼファーはかすかに微笑むと戸口へと向かい、俺たちは静かに隠れ家を出た。


 先頭はヘルマ、殿しんがりは俺だ。




 町は静まり返り、通りには誰もいない。


 エリオンの話だと元々火神信奉かじんしんぽうの信徒は日没から日の出までほとんど家を出ないのだとか。


 十分ほど歩いた先に小さな井戸があった。




「ここから入るぞ」


 俺たちは釣瓶つるべのロープを手掛かりに静かに井戸の中に入っていった。






 中は意外にも広くて大人ならば腰をかがめれば十分に歩けるくらいの高さがあって水は横井戸の真ん中を流れている。


「なるほど、これならあちこちに井戸を掘らなくても新鮮な水が供給できるってわけか」
「良い仕組みでしょう?しかも水利権を一手に納めることができる。なかなか興味深い仕組みですよ」


「おい、喋ってないでさっさと行くぞ」


 エリオンと一緒に感心したように辺りを見渡しているとヘルマが催促してきた。


「本殿はここから数キロ先だ。町民が起きてこないうちに移動するぞ」




 俺たちは真っ暗な井戸の中を手探りで進んでいった。


「しかし本当によくこんな場所があることを知っていたな」


「できれば使いたくはなかったんだけどね」


 横井戸を歩きながらエリオンが小声で話しかけてきた。


「おかげで陛下に私がこの国に作り上げたネットワークがばれてしまった。また一から作り直しだよ」


 …そんなことまでやっていたのかよ。


「まあ陛下とコネができたことを思えば安いもんだけどね」


 そう言ってエリオンが笑いかけてきた。


 まったく、この人もかなりの食わせ物だな。






 横井戸は暗く、どこまでも続いていた。


 まだ外は暗いから明かりをつけるわけにはいかない。


「止まれ」


 先頭を歩いていたヘルマが突然立ち止まった。




 何事?と思っていると上から釣瓶つるべが降りてきた。




 なんだ、水汲みかよ。


 ほっと胸をなでおろす。




「そろそろ起きてくる住人が出てきたらしい。なるべく急ぐぞ」


 俺たちは上から降りてくる釣瓶つるべに注意しながら先を急いだ。


 キツネが上手いことやってくれたのか追手が来る様子もない。


 横井戸はやがて上り坂になり、やがて石造りの地下道へと変わっていった。


「どうやら火神教ひのかみきょう本部に入ったようだな」


 ゼファーの言葉で全員に緊張が走る。


 ここから先はいよいよ相手の喉元だ。


 地下道を進んでいくとやがて小さな地下室に辿り着いた。




 壁に空いた穴から水が噴き出して地下道へと流れ込んでいる。


 どうやらここが水源みたいだ。






「さて、問題はここが本部のどこかということだな」




「わ、私、この場所知ってます」


 ゼファーの言葉にエイラがおずおずと手を上げた。


「ここは北の水の間と呼ばれている部屋で、本殿はこの上にあります」




「それは都合が良いな。エイラ、主は本殿に行く道も知ってるのか?」


「は、はい…」


 エイラが小さな声で頷いた。


 その手が震えながら俺の服の裾を掴んでいる。


 ひょっとして…


 俺はエイラの前にしゃがみこんだ。


「エイラ、君を燼滅じんめつ教団に売った司祭の名前を教えてくれないか?」


「ユ、ユニウス様、です」


「わかった、そいつは絶対に近づけさせないよ。だから安心してくれ」


 エイラの顔に安堵の色が浮かんだ。


 やっぱり、自分が売られた場所に来るのはエイラにとって不安だったんだな。




「それで、本殿に入ってどこに行くつもりなんだ?」


「我々が向かうのは創火派の長、カミウス司祭長の居室だ」




「カミウス様は本殿南棟の一番奥にお住まいです」


「それはここからどのくらい離れているのだ?」


「そ、それは…」


 ゼファーの質問にエイラが口ごもる。


「だいぶ離れてるな。ここからだと五階くらい上になるしかなり歩くことになるぞ」


「何故わかる」


 俺の言葉にゼファーが怪訝そうに聞いてきた。


「何故って…なんとなくわかるんだよ。本殿の見取り図はこんな感じだな」


 俺はそう言って石壁に本殿の地図を描いた。


「俺たちがいるのがこの一番下で南棟ってのはこっちになる。途中に大聖堂やら他の信徒の居住区画なんかがあるからこっそりそこまで行くのは難しいぞ」


「凄い…本当にこの通りです」


 エイラが目を見開いて驚いている。


「主の力はそんなことまでわかるのか。大したものだな」


「まあなんとなくだけどな。それよりもここまで来たんだったらもうこそこそ行く必要なくないか?どちらにしろいずればれるぞ」


「むう…それはそうだが」


 俺の提案に尚も渋るゼファーだったけど、その時地下室のドアが突然ガタガタと音を立てた。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品