外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

26.火神教本部侵入前夜

「とはいえどうやって本部に潜り込むかが問題だな」


 ゼファーが顎をつまみながら首を捻った。


「いっそのこと俺がみんなを連れて飛んでいくってのはどうだ?」


「それだと行けることは行けるが大騒ぎになるぞ。できることなら誰にも知られずに教主のところまで辿り着きたい」


「それならば横井戸カレーズを使っては?」


 エリオンが手を上げた。


横井戸カレーズ?」


「この地域の特徴的な給水方法なんだ。山にある水源から地下道を掘ってそこに水を流していてね。町ではその水路から縦に掘った井戸で水を汲み上げているんだ」


「そしてその水源は火神教ひのかみきょう本部にある。この町の人々の命運は文字通り火神教ひのかみきょうが握っているというわけだ」


 ゼファーが皮肉そうに口角を持ち上げた。


「しかしエリオン、いや今はリオンだったか。我が国のことをよく知っているな」


「何事も勉強です。この国は私の国よりも進んでいますからね。勉強することばかりです」


 エリオンはゼファーの皮肉を涼風のように受け流している。


 意外と似た者同士なのかもしれない。


 それとも王になる人間はみんなこうなのか?




「とりあえずその横井戸を辿っていけば本部まで行けるってわけだな!じゃあ早速行こうぜ!」


「落ち着いて」


 エリオンが苦笑しながらたしなめてきた。


「今日はもう遅い。それに皆さん疲れているはずだからひとまず今夜は交代で見張りを立てながら休憩してはどうかな。乗り込むのは其れからでも遅くないはず」


 その言葉に初めて自分がかなり疲れていることに気付いた。


 そう言えば日中ずっと旅を続けて夜が更けてからもウルカンシアで走り回ってたんだったっけ。


 そう実感すると途端に疲労が襲ってきた。


「それでは出立は早朝、一番人通りの少ない時間に」


 エリオンの提案にみんな異論はなかった。








    ◆








「…きろ。見張りの交代だ」


 誰かが俺を揺すっている。


 ぼんやり眼を開けると目の前にヘルマの顔があった。




「あ、ああ…ヘルマか。なんだ一体?」


「なんだじゃない。見張りの交代時間だ」




 そう言われてようやく今の状況を思い出した。


 ウルカンシアの隠れ家で出発まで休むことになってたんだった。


 いつの間にか眠っていたらしい。




「ああ、悪い、今起きるよ」


 もぞもぞと起き上がるとヘルマがこちらをじっと見ていることに気付いた。




「なんだ?もう起きるぞ」


「話がある。少しいいか」


 そう言うヘルマの顔はいつも以上に真剣だった。








 俺たちは二階の小部屋にやってきた。


 この部屋は通りを見渡すことができるから見張り場所としてうってつけだ。




「さっきも言ったが私は元燼滅じんめつ教団の魔法兵だった」


 通りを見つめながらヘルマが口を開いた。


「私の強さは教団の連中が植え付けたものだ。体の中に魔族の体内から取り出した魔晶を埋め込み、体に刻み込んだ魔法陣で魔族に等しい力を体に宿す造魔術という古代の邪法だ」


 俺には頷くことしかできなかった。


 子供時代のヘルマがそんな目に遭っていたなんて。




「そのこと自体に悔いや恨みはない。私が陛下にお仕えできるのはこの力あってのことだ。その点においては感謝すらしている。しかし…」


 ヘルマはそこで言葉を切った。


「今回我々は燼滅じんめつ教団と対峙することになる。場合によっては教祖のスカルド・フラムナスと決着を付けることになるかもしれぬ」


「と言うか俺はそのつもりだぞ。子供を攫ったり売買するような奴らはもう宗教じゃねえ、ただの犯罪組織だ」


「それが問題なのだ。スカルドは古代の邪法の研究家で特に人心操作を得意としている。奴が造魔術で作り上げた魔法兵は人心操作術によって狂信者となっている」


 だからダリアスとボレアナは己の命も顧みずに襲ってきたのか。


「人造の狂信者か…ぞっとしないな。でもかつての教団はヘルマが潰したんじゃないのか?」


「あれは幾つかの幸運が重なって私の中の人心操作術が解けたのだ。もしそうでなければ今も私は教団の暗殺者として活動していたかどこかで野垂れ死んでいただろう」


 ヘルマが言葉を続けた。


「しかし奴がまだ他の術を仕込んでいないとは言えない。いや、私が知る奴ならば必ずしているだろう」


 だから、と言ってヘルマがこちらを見た。




「もし私が奴の手によって陛下をその手にかけるようなことになればその前に私を殺してくれ」


「そ……」


 そんなことできる訳が、と言おうとしたけど月明かりに照らされたヘルマの顔を見てそれ以上言うことができなかった。










「…わかったよ」


 俺はため息とともに口を開いた。


「済まない、こんなことを頼めるのはテツヤ、お前だけなのだ」


「約束はできないぞ。それにそんなこと起こらないかもしれない、あるいはそうなる前にケリがつくかもしれないしな」


「わかっている。万が一の時だ」


 そう言ってヘルマは立ち上がった。




「それでは私は休憩に入らせてもらう。後はよろしく頼んだぞ」


「ああ、わかったよ。それにしても陛下を手にかけることになればってのがヘルマらしいな。他の人間に対しては何もなしかよ。例えば俺とかさ」


「お主だったら問題ないだろ?苦も無く私を止められるだろうからな」


 そう言って微笑むとヘルマは階下に降りていった。




「簡単に言ってくれるよ」


 俺は苦笑しながら窓から外を眺めた。


 青白い月光が無人の通りを照らしていた。



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