外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

18.乾きのダリアス

「終わったか?」


 戸口からゼファーが顔を出した。




「あのなあ、少しは手伝うということをしたらどうなんだ」




「こういうのは下手に手助けせんほうが良いだろ。しかし相変わらず大した手際だな」


 ゼファーは床に伸びている男たちを感心したように見下ろしている。




「それはそうなんだけど……って、イネス?」


 物音に振り返るとそこには鍬を握りしめたイネスが立っていた。




「気になってきてみたらやっぱり…これ全部あんたたちが?」


「正確にはテツヤ一人だがな」


「凄い…でもこんなにやっちゃって大丈夫なの?」




 イネスは信じられないものでも見たようにおっかなびっくり部屋に入ってきた。




「まあその辺は大丈夫だと思うよ。こう見えて俺たち上の方に結構顔が利くから。なあ、そうだよな?」


 俺はそう言ってゼファーの肩に肘を置いた。




「うむ、これくらいならいつでも揉み消せるから大丈夫だ」


 ゼファーは俺の皮肉にも全く動じていない。




「こういう奴らはとことん叩いておかないと必ず仕返しに来るからさ。まあこれでこいつらも半年は動けないと思うよ」


「そう…なの…」


 イネスは尚も半信半疑という顔だった。




「それよりもイネスはさっさとここから離れた方が良いぞ。俺たちと繋がりがあると思われたら厄介なことになるからさ」


「そうそう、我々もすぐにここから離れる。何か聞かれてもあの二人は逃げ出したというのだ」




 イネスと共に宿舎を出ようとした時、猛烈な殺気が襲ってきた。




「あぶねえ!」


 二人を抱えてドアの陰に飛び退る。


 何かが飛んできて床に伸びている男の一人を両断したのはほぼ同時だった。




「誰だ!」


 振り返るとドアには一人の男が立っていた。






 ゆったりとした服を着こんだ大男で背中にでかい土で出来た瓶を背負い、両手に長い布を持っていた。


 服越しにもわかる位筋肉が盛り上がり、服や手にした布から水が滴り落ちている。




 あの布で攻撃してきたのか?でもどうやって?




「う…うう…一体何が…あ、あの瓶、あれはまさか…渇きのダリアス!」


燼滅じんめつ教団の死を撒く四教徒が何故ここに?」




 衝撃で意識を取り戻した徴税官たちが男を認めて恐怖の悲鳴を上げた。




 燼滅じんめつ教団?ダリアス?あいつは燼滅じんめつ教団の手の者なのか!?




 ダリアスと呼ばれた男は何も言わず、何の表情も浮かべず手を振るった。


 手にした布がまるで生き物のように動き、徴税官たちに襲い掛かった。




「ぎゃあ!」


「な、何故俺たちを…。俺たちもウルカンを信じる者なのに!」


「た、助け…!」




 男たちの悲鳴が部屋の中に響き渡る。


 ものの数秒で部屋の中は再び完全な沈黙に包まれていた。


 先ほどと違うのは徴税官たちが全員骸に変わっていることだ。




「どうやら目撃者は全て殺す腹積もりのようだな」


 ゼファーが呟いた。






 徴税官全員を殺し終わったダリアスがこちらを見た。


 相変わらず何の表情も浮かんではいないがその眼は俺の後ろにいるゼファーに注がれている。




「どうやら余が狙いのようだな」




 イネスを抱きかかえたゼファーが不敵に笑った。


 飛び退った衝撃でターバンがほどけ、銀髪が部屋に差し込む月の光に煌めいている。




「そ、その銀髪…あんた、あなた様は…」


 イネスがゼファーの銀髪を見て口をあんぐり開けている。




「しっ、今はまだそれを言う時ではない」


 ゼファーは人差し指でその口を塞ぐとこっちに振り向いた。




「テツヤ、そ奴はダリアスという名の燼滅じんめつ教団で暗殺を専門としている信徒だろう。水魔法を使い手にした布が乾く前に全ての殺しを終えることから乾きのダリアスと呼ばれている。できるか?」




 まあ大体想像はついていたよ。


 あれだけ水を滴らせていたら嫌でもわかるというか。




「ま、俺がやるしかないんだろうな」


 地面に手を当てて周囲をスキャンする。


 どうやらダリアスの他に追手はいないみたいだ。


 一人で来るなんてよっぽど自信があるのかそれとも本当に強いのか。




「任せたぞ」


「しゃーなしだな!」


 俺は壁に穴を開けるとゼファーとイネスを宿舎の外に逃がし、全ての入り口を閉ざした。


 今や宿舎の中にいるのは俺とダリアスだけだ。




「背中の瓶を下ろしたらどうだ?重いだろ?」


 ダリアスは俺の挑発にも全く表情を変えない。


 言葉を続けようとした時、いきなり布が襲い掛かってきた。


 早っ!


 襲い掛かる布をかわしながら部屋中を駆け回った。


 手にした布だけでなく体をまとう服までもが刃となって向かってくる。




「そおいっ!」




 隙を見て徴税官の持っていた剣を投げつけた、けれどそれはダリアスの着ている服を貫通することなく弾かれた。


「なるほどね、水魔法で布が鎧にもなるし武器にもなるってわけか!」


 そして背中に背負っている瓶には水が入っているのだろう。


 あの水がなくなるまでは無敵の鎧と剣を手にしていることになるのか。




「だったらこれはどうだ!」


 俺の力でダリアスの背負っていた瓶が砕け散った。


 流石にこれは驚きだったらしくダリアスの動きが止まった。


 今や水は全て床に流れ落ち、足元で水たまりを作っている。




「自慢の水もこれで使えなくなっちまったな」




 俺の言葉に全身びしょぬれで立ち尽くしたダリアスの身体がピクリと動き、やがてその体がぶるぶると震えだした。


 なんだ?怒っているのか?


 その瞬間、体が総毛だった。


 やばい、こいつは何かをしようとしている!


 床石で壁を作るのとダリアスの身体を濡らしていた水滴が無数の水の針となって襲い掛かってきたのはほぼ同時だった。



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