外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

12.パレード

「見事な試合であった」


 ベルトラン十五世が機嫌良さそうに口を開いた。


 試合の後、俺たちは再び謁見の間に呼ばれたのだった。




「我が国最強の戦士であるヘルマと互角に渡り合うとは、確かにその強さに偽りはないようだ」


「お褒めに預かり恐悦至極」


「これほどの戦士、フィルド王国にはもったいないな。どうだテツヤよ、我が国に来る気はないか?」


 は?俺がベルトランに?




「我が国に来るのであれば格別の地位を与えよう。名誉も名声も、富も思うがままだぞ。どうだ?悪い話ではなかろう」


 え~と、これはつまりスカウトされてるってことなのか?




「お言葉ですが陛下」


 俺の隣にいたリンネ姫が口を開いた。


 今まで聞いたこともないくらい低い声で心なしか周囲の空気すら歪んで見える。




「この者は我が国の国民であり、また私の臣下でもあります。そのような話はまず私を通していただくのが筋ではないかと」


 これ絶対に怒ってるな。


 リンネ姫の額に青筋が浮かんでいるのが見えた気がする。




「ふむ、確かにそれもそうだな。ではフィルド王国には交換としてマテク地域を譲渡しよう。それならば文句はあるまい?」


 流石にこの言葉には謁見の間がどよめきに包まれた。


 しかし異を唱える者は誰もいなかった。


 つまりそれだけベルトラン十五世の力が絶対ということなのか。




「生憎ですがこのテツヤは金や土地程度で交換できるものではありません。たとえこの謁見の間を全て黄金で満たしたとしても譲り渡すことはできないでしょう」


 いやいやいや、地球で今までに採掘された金の総量ですら競技用プール四杯弱なんだぞ?


 こんなクソ馬鹿広い謁見の間を満たす黄金って、どんだけだよ!


 ベルトラン十五世はリンネ姫の断固とした拒否にも涼しい顔をしていた。




「そうか、それは残念だ。まあよかろう、今の余は機嫌が良い。この話はここまでとしておこう。テツヤよ、気が変わったのならいつでも言ってくるがよい。歓迎するぞ」


「は、はあ」




 こうしてベルトラン十五世との謁見は終了した。




 しかしこれで終わりというわけではなく翌日にはパレードに参加することになっているらしい。


 これは貴族学園の卒業祝賀の他に先日の襲撃事件解決のお祝いも兼ねているのだとか。








「なんなのだ、あいつは!」


 部屋に戻るなりリンネ姫が爆発した。




「テツヤをよこせだと!言うに事欠いて……」


 その後は言葉にもならなかったらしい。


 地団太を踏んで怒りを表している。




「まあまあ、あれはただのリップサービスみたいなものだろ。帝王ともあろうものが直々にヘッドハンティングするわけないって」


「いえ、それはないですね」




 なだめようとした俺の言葉をエリオンが否定した。




「陛下とは何度か話をしたこともありますがお世辞や社交辞令とは最も遠い人ですよ。そして自分が欲しいと思ったものは必ず手に入れる人でもあります」


 マジかよ。


 てことはあの言葉も本気だったのか?




「テツヤ!」


 リンネ姫が俺にしがみついてきた。




「お主はベルトラン帝国には行かぬよな?行かぬと言ってくれ!」


「行かない、行かないって!あんなこと急に言われたから戸惑ったけど、そもそも地位とか名誉なんか興味もないって」


「そうか…そう、その通りであるよな!」


 俺の言葉にリンネ姫もほっとしたようだ。


 何故か周りのみんなも安堵の息をついている。




「そもそも今回もだけどこの国に来ると碌な目に遭わないんだよな。相性が悪いのかな?」


「そ、そう!その通りだ!テツヤはこの国と相性が悪いのだよ!これはもう近寄らない方が良いな!こんな国はさっさとおさらばしようではないか!はっはっはっ!」


「まったく…ともあれ明日のパレードはみんなも参加するように要請が来ているからよろしく頼むよ」


 安心したように高笑いするリンネ姫を見てエリオンが苦笑している。




 とりあえず明日さえ無事に過ぎたらしばらくは落ち着けるのかな。








    ◆








 見物客の歓声と楽団の奏でる音楽、色を付けた麦殻が通りに舞っている。




 卒業生たちは笑顔で見物客に手を振り、見物客は春の花で作った首飾りを卒業生たちにかけていた。


 帝国を代表する学校の卒業記念パレードだけあって都市を挙げての一大イベントとなっているみたいだ。




「しかし、なんで俺がこんな所に」


「お主は件の事件の最大功労者なのだ。これは格段の名誉なのだぞ」




 隣にいるヘルマがたしなめてきた。


 俺はパレードの後尾となる帝王の乗る輿にいた。


 一番上にベルトラン十五世が座り、その下の段にリンネ姫と俺、そしてヘルマがいる。




「そうは言ってもなあ、こうも人に囲まれているとなんだか落ち着かないんけど」


「お主もいずれ慣れるさ。一人一人ではなくそういう一塊だと思えば気にもならなくなるぞ」


 流石にリンネ姫は慣れたものらしく、笑顔で手を振っている。




「それにしても凄い人出だな。毎年こうなのか?」


「今年は特に凄いな。おそらく学園邸宅の襲撃事件のことが人々の耳に入っているのだろう。警備も厳重になっているからなおさら多く感じるのだろうな」




「どうだ、テツヤ!これが我が国の国民だ!活気があるであろう!?我が国に来れば毎日がこうだぞ!」


 上座からベルトラン十五世が愉快そうに叫んできた。


 いや、こんな喧噪は流石にご免こうむりたいんですけど。




 人々の歓声に包まれながらパレードは賑々しくゆっくりと進んでいった。



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