外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
40.冬の終わり
トロブに積もっていた雪はほとんど消え去り、雪解け水が山間に小さなせせらぎを作っている。
「ん~、やっと目立たなくなってきたかな?」
俺はようやく顔から消えかかりつつある紋様を鏡で確認していた。
日焼けが次第に消えるように数か月かけて体と顔の紋様も薄くなり、角と牙も目立たなくなっていた。
結局ベルトラン帝国はワールフィアへの進攻を諦めたらしい。
リンネ姫が言うにはワールフィアに対しての政策方針から見直しが入ったことで向こうは大混乱になり、フィルド王国に対しての圧力も弱まったのだとか。
いい気味じゃ、とリンネ姫は笑っていた。
俺はというとカーリンさんから元の姿に戻りたいなら魔法は厳禁だと言われていたこともあり冬の間はほとんどだらだらと過ごしていた。
たまにワールフィアに行ってフェリエたちと打ち合わせをする以外は家でゴロゴロしたり山で雪遊びをしたりしていた。
こんなにのんびりできたのは地球にいる時も含めて数年ぶりかもしれない。
退屈しのぎにスノーボードとスキーを作ってグランの村の子供たちに教えたらやたら好評でちょっとしたブームが起きてしまった。
そのうちトロブ地方はウィンタースポーツの名所になるかもしれないな。
ワールフィアの方はあれからすっかり落ち着きを取り戻し、ドライアド国も順調に国としての体を成してきているらしい。
龍人国、蛇髪女人国、吸血国同士は今までと変わらず不干渉を貫いているけどこの三国はそれぞれドライアド国と協定を結んでいるためにドライアド国がハブの役割を果たしている。
一月ほど前にベルベルヒに会った時は人がよく来るようになったと喜んでいた。
蛇髪女人族の作る瘴気麻の生地はドライアド国を通じてフィルド王国が独占契約を結んでいる。
リンネ姫の目下の興味はこの生地で、上手く魔力を付与することができれば普通の服に鎧に匹敵するだけの防御力を付けることができると熱っぽく語っていた。
蛇髪女人族は蛇髪女人族でドライアドの提供するゴムのお陰で生活がかなり向上したらしい。
今までは瘴気のせいで木製家具はすぐ壊れてしまい寝床も硬い石を使うしかなかったのだけど、ゴムの木で作った家具は瘴気に強く、ゴムで作ったハンモックのお陰で気持ちよく眠れるようになったのだとか。
ただしうっかり石化してしまう問題はまだ未解決なようで頻繁に遊びに来てくれと連絡が入ってくる。
吸血族はと言うと、ツョルトナーが正式に王となって国を挙げての復興が始まっている。
フェリエが地中の魔素を吸い上げたことで普通の植物が育つようになって農業に力を入れているのだとか。
吸血国もバット・グアノが大量に採取されるからいずれはそれを特産物にできるかもしれない。
ともあれ概ねワールフィアは平和な日々を取り戻したみたいだ。
そんなこんなでだらけきった日々で緩んだ体に喝を入れようと外に出ると屋敷の前に人が立っていた。
「久しぶりだな」
「ヘルマ?」
それはヘルマだった。
「久しぶりじゃないか!どうしたんだ?急に」
「なに、しばらく軍の方が暇になったから休暇でな。それよりもそれはどうしたのだ?」
ヘルマの切れ長の瞳がすぐ目の前まで迫ってきた。
「その顔、それに体から発散されているその魔力、前に会った時とはまるで別人だ。お主、なにをしたのだ?」
いかん、下手なことを言ったら俺のやったことがばれてしまう。
「い、いやあ、冬の間暇だったもんでちょっと特訓をね…うちの領地にいる魔族に鍛えてもらったらこうなっちゃって…やっぱ魔族の特訓は一味違うよな、ハハ、ハハ」
我ながら苦しい言い訳だと思う。
「そ、そんなことよりヘルマの方はなんで急に暇なんかに?」
「ああ、本来ならば今頃は魔界で最前線にいるはずだったのだが、何者かが我が国と魔界の間にとんでもないものを作ってくれたせいでな」
ヘルマがそう言って南の方を見た。
地平線の端に俺の作った渓谷がうっすらと見えている。
まさか、気付いているのか?俺がやったということに。
いやいや、あれはワールフィアでも秘密になっていることだ、そう簡単にばれる訳が…
ヘルマが振り向いてこっちを見てきた。
切れ長の瞳は何も物語っていないが同時に疑いの揺らぎも全く見えない。
やべえ、これ絶対に気付かれてる。
まだ肌寒いというのに汗が出てきた。
「い、いやあ…あれは本当にびっくりしたよなあ。誰がやったんだろうなあ」
微妙に声が上ずっているのが自分でもわかる。
「全くだ。おかげで我が国の対魔界政策は完全に白紙に戻ってしまった。軍も元老院も人事改編の嵐が吹き荒れたぞ」
ま、まさか、その恨みを晴らしに…?
背中に汗が伝ってくる。
「正直言うとなテツヤ、私はあれをやった者に感謝しているのだ」
ヘルマの視線がふっと和らいだ。
へ、そうなの?
「魔界との戦争になれば負けはしないだろうが我が国にとっても大きな被害が出ていただろう。それこそ現王政を揺るがしかねないほどに」
そう言って再び彼方の渓谷に目をやった。
「私としては今回の遠征はどうしても回避したかった。なのであれは私には救いの手に見えたよ」
「そうだったのか…ベルトラン帝国にも色んな考えがあって複雑な力関係になってるんだな」
「ああ、その通りだ。まだ戦場で戦っている方が気楽なくらいだよ」
ヘルマは自嘲するように笑った。
「今日は一言それを言いに来ただけだ。休暇とはいえ既に次の任務も決まっているからな」
そう言うとヘルマは踵を返した。
「そう言えばまだ借りを一つ返してなかったな。あれはどうするんだ?」
「ああ、それか。それならもういい」
俺の問いにヘルマはどうでもいいという風に手を振ってきた。
「もういいって…本当にいいのか?」
「ああ」
ヘルマは親指で渓谷を指差した。
「お主にはああいう風にベルトランと魔界との戦争を止めてもらおうと思っていた。それはもう叶ったからいいのだ」
それでは息災でな、と言ってヘルマは去っていった。
「本当に、気付いてない…のか?」
いや、そんなわけはないだろう。
ヘルマ程の人物ならおおよそであっても俺がやったと分かっているはずだ。
ひょっとして分かったうえで俺に伝えに来たのか?
今のベルトラン帝国にワールフィアを攻める意思はないと。
「まあいいか。とりあえずしばらくは平和に過ごせそうだもんな」
俺は大きく息を吸い込んで空を見上げた。
春の息吹を感じる空気だった。
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