外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
39.魔界進攻の日
今日はいよいよワールフィアへの進軍が行われることになっている。
フォージャスのゴブリンを討伐したことで幾日か時間は稼げたが所詮は大河に投げられた小石程度の影響しかなかった。
おそらくこの戦いはベルトラン帝国にとって厳しいものとなるだろう。
こちらの勝手が通じない魔界の地で兵站も乏しく、長期戦は避けられない。
帝国の国力は著しくそがれてしまうはずだ。
それでもヘルムはベルトラン帝国軍人である以上、命令には従うと決めていた。
その時扉をノックする音が聞こえた。
「開いているぞ」
扉を開けて入ってきたのは今回の進攻で総大将を務めるザフィル中将だった。
「これは失礼いたしました!ザフィル総大将殿!」
「良い、私とお主の仲だ。気楽にしてくれ」
起立して敬礼をするヘルマにザフィルは穏やかに手を振った。
「いよいよ今日だな」
「はっ」
ザフィルは椅子に座るとヘルマが差し出したお茶を一口すすった。
「お主には苦労をかけるな」
たわいのない雑談の後にザフィルが呟くように言葉を漏らした。
「とんでもございません」
ヘルマにはその言葉の意味が分かっていた。
今回の進攻でヘルマの部隊は先鋒を務めることになっている。
表立ってではないが魔界進攻へ反対していたことへの意趣返しとして元老院から圧力があっての配置だということはヘルマも理解していた。
「なるべく時間をかけずに終わらせられるといいのだが」
「全くです」
ベルトラン軍の重鎮であるザフィル中将も今回の進攻を良しとしていないのはヘルマにとって救いだった。
「とにかく決定してしまった以上、命令には従わねばならん。厳しい戦いになるだろうがよろしく頼んだぞ」
そう言ってザフィルは部屋を去っていった。
それはヘルマにとっても同意見だった。
どんな命令であろうとベルトラン帝国軍人として最善を尽くす、それが自分の生きる道だと決めていた。
その時、頭の中にどこからともなく不思議な言葉が響いてきた。
「…我は…ドライアド国王フェリエ・プランテー…今…この時を持ってワールフィアにドライアド国の建国を宣言する…」
「これは…魔導通話か?」
ヘルムは驚いて立ち上がった。
魔導通話は魔族が広範囲にメッセージを伝える時に使われる魔法で魔界でも国王クラスが使うものと暗黙の裡に決まっていると言われている。
つまりあれは魔界の王である誰かが宣言をしたということなのか?
「た、大変です!」
その時ファウェイズが飛び込んできた。
「わ、我が国と魔界の間が斬り裂かれました!!」
「??何を言っているのだ?もっとわかりやすく話せ」
「そ、それがその通りなのです。先ほどの魔導通話はお聞きになられましたか?気になって国境沿いを遠隔視したのですが両国の間に巨大な渓谷ができていたのです!まるで誰かが巨大なナイフで斬ったかのような!」
「…すぐにフォージャスに向かうぞ!」
ヘルマは剣を掴むと部屋を飛び出した。
◆
「こ、これは…夢でも見ているのか……?」
フォージャスに着いたヘルマはかつてテツヤたちと登った採石所の眼下に広がる光景を見て絶句した。
そこには大地を断ち割る巨大な渓谷ができていた。
その渓谷はちょうどテツヤが作った岩壁のワールフィア側に、国境の線を引くように地平線の彼方まで伸びていた。
渓谷の幅は広いところで数十メートル、深さもざっと見て同じくらいあり、底には地下から流れ出たであろう激しい水流が渦巻いている。
それは国境沿いに連なる山脈をも断ち切っていた。
山々はまるでケーキのように奇麗に切り分けられている。
不思議なことにベルトラン帝国側には何の変化もなく、魔界側だけ地形が変わってた。
まるでベルトラン帝国には一切手を出さない、そう言っているかのようだ。
「馬鹿な!こんなことがあり得るのか?何故誰も気づかなかったのだ!?」
「そ、それが、これは急にできたそうなんです。現地の人間に聞いてみたのですが、今朝方小さな地震があったかと思ったら突然山が割れていたと」
「そんな世迷言を誰が信じるというのだ……」
その時ヘルマの脳裏に一人の男の姿が浮かんだ。
まさかあの男が?いや、一人の人間にこんなことができる訳がない!
確かに魔力は高かったが、ここまでできるのは魔族でもそうはいないはずだ。
これは……まるで魔王の所業だ。
先ほどの宣言、あれを行った魔族がやったのだろうか?
だが…
ヘルマはどうしてもその考えを否定しきれなかった。
「ヘ、ヘルマ隊長、戦争はどうなるのでしょうか?」
ファウェイズが心配そうに聞いてきた。
「どうもこうもない、これでは進軍のしようもあるまい。飛竜なら越えられるだろうが、飛竜部隊だけ進ませてもどうしようもないからな」
「そ、それでは!?」
「まずは報告だ。どちらにせよ計画を練り直さなければならないだろうな」
そう言ってヘルマは踵を返した。
採石所から降りる前にヘルマは再び振り返って目の前の光景を眺めた。
誰がやったのかは知らないがお陰で戦争は回避されるだろう。
いや、魔界に対しての政策そのものを見直す必要が出てくるから戦争どころの話ではない。
脅威はむしろ増えたのかもしれないが、元老院の拡大派もこれでしばらくは大人しくせざるを得ないだろう。
それに不思議とこれを行ったものが敵意を持っているようには感じなかった。
ただの勘でしかないが、ベルトラン帝国が侵攻するのを知っていてそれを防ぐためにやったような気がしてならなかった。
この天変地異に対してベルトラン帝国がどういう行動をとるのか、それはまだわからない。
それでもヘルマはこれを行った何者かに感謝の念を抱かずにはいられなかった。
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