外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

31.地母神の家

 ぼんやりとした景色が見える。


 いや、俺が目を覚ましただけなのか。


 頭に霞がかかったように上手く働かない。


 確か俺はツァーニックと戦っていて…地下水脈に落ちたはず…


 そうだ!一旦退却してみんなと合流しようと思ってたんだ!




 ここで俺はベッドに寝ていることに気付いた。


 なんだここは?俺は地下で気を失っていたんじゃないのか?




 視線を巡らすとそこは柔らかな光に包まれた見知らぬ部屋の中だった。


 部屋中に植物が生い茂り、かぐわしい花の香りが漂っている。


 どこからか小鳥のさえずる声が聞こえてくる。




「目を覚ましたようですね」


 不意に聞こえてきた声に俺はガバッと身を起こした。


 そこにいたのは一人の少女だった。


 貫頭衣のようなトーガのようなシンプルな服を着ていて細い金のアクセサリをいくつも身につけている。




「あんた、いや君が俺を助けてくれたのか?」


 少女は首を横に振ると持っていたトレイをベッド横のテーブルに置いた。


 トレイには湯気の立ったお粥が入った深鉢の皿と木でできたスプーンが置かれている。


 少女はスプーンでお粥をすくうと俺の口元に持ってきた。


「いや、いいよ、自分で食べられる。ありがとう」


 俺が辞退すると少女は不承不承ながらもお皿を渡してくれた。




 雑穀を蜂蜜と香辛料と一緒に煮たお粥で甘くて優しい味がする。


 一口食べただけで体に力がみなぎってくるのがわかる。


 気が付けば俺は夢中でお粥を食べていた。


 まるで一週間くらい何も食べてなかったような気持ちだ。




「ありがとう、こんなに美味しいお粥は生まれて初めてだよ」


 本当に心からそう思った。


 死人も生き返りそうなお粥だ。いや、実際俺は死んでしまってここは天国なんじゃないだろうか…




 俺が食べ終わると少女は何も言わずにお皿を下げ、軽く会釈をすると去っていった。


 結局ここがどこなのか聞けずじまいだった。


 それでも俺への敵意がないことはわかる。


 いや、それどころか命の恩人だ。


 ここがどこで彼女が何者なのかはわからないけど、早くレジスタンスと合流しなくては。


 首尾よくことが進んだら改めてお礼に来よう…


 そんなことを考えているといつの間にか俺は眠り込んでいた。




 再び目を覚ますと目の前には先ほどの少女がいた。


 いや、髪型や身につけているアクセサリが違う所を見るとよく似た別人みたいだ。




「目が覚めましたか」


 少女が尋ねてきた。


「あ、ああ、おかげですっかり元気になったよ」


 正直言うとまだ完全回復とはいかないけど、それでも動けるくらいにはなっている。


 それを聞いて少女は頷くと部屋の奥に向かって腕を伸ばした。


 伸ばした先には別の部屋へ続く入り口が開いている。




「それではどうぞあちらへ。地母神様がお待ちです」




 地母神?それが俺を助けてくれた人なのか?


 正直言うとこれからどうなるのかという不安はあったけど少女の後をついていくことに決めた。


 あの先に何があろうと助けてもらったお礼はしないと。




 その部屋は俺が眠っていた部屋よりも更に広く、同じように草花が溢れていた。


 完全に天井で覆われた部屋なのにまるで天井自体が発光しているように光で溢れている。


 部屋の真ん中で噴水が清らかな水飛沫をあげ、その前にある長椅子に一人のふくよかな女性が寝そべっていた。


 周りには数人の少女たちが控えている。


 あれが地母神なのだろうか?


 ゆったりとした薄布を身にまとい、お盆に盛られた果物を指でつまんで口へ運んでいた。


 美しい、というよりも不思議な魅力を放っている。


 小鳥たちもその女性を全く恐れることなく頭や肩に留まってさえずっていた。




「元気になったようですね」


 俺に気付いたその女性は優しく声をかけてきた。


 まるで心のおりが全て溶けていくような温かな声だった。


「お腹は減っていませんか?お一ついかが?」


「いえ、大丈夫です。おかげで助かりました。本当にありがとうございます」


 俺はその女性が差し出してきた果物お盆を丁寧に断ってお辞儀をした。




「俺、いや私はテツヤと言います。お名前を聞かせていただけないでしょうか」


「顔をあげてください、かしこまる必要はありませんよ。私には名前という名前はありません。みなには地母神と呼ばれていますが、もしよければ気楽にアスタルと呼んでくださいな。かつてそう呼ばれていたこともあって気に入っているんです」


「わかりました、アスタル…さん。ところでここはどこなんですか?俺は地下水脈に流されてたはずなんですが…」


 俺の言葉にアスタルは微笑みながら口を開いた。




「ここはあなた方が住む世界と精霊界の狭間にある世界です。ツァーニックもここまでは追ってこれませんから安心なさい」


「ツァーニックのことを知っているのですか!?」


 アスタルは悲しそうに頷いた。




「あなたは一体…何者なんですか?」


「私は土を司る者の一人です。あなた方の世界では神とも呼ばれていますね。あなたの持つその力は私と結びついているのですよ」


「そ、それじゃあっ…!」




 意気込む俺をアスタルは優しく手で制した。


「神と呼ばれてはいても何でもできる訳ではないのです。私の力はあなたのいる世界では魔力や自然現象としてしか顕現しません。見聞きすることはできても手を出すことはできないのです」


「そう…なんですか…」


 俺はがくりと両膝をついた。




「テツヤ、あなたが相手をしているツァーニックは恐ろしい男です。彼はただの吸血族ではありません。自らの同胞を喰らい、その魔晶を己の身に宿しているのです」


「だから魔晶を砕いても死ななかったのか!」


 アスタルが頷いた。


「吸血族は元々自らの魔晶を体内から取り出すことができるのです。彼らが不死と呼ばれているのは隠した魔晶を砕かれない限り何度でも復活できるからです」


 つまり、奴は仲間から奪った魔晶をまだまだ隠し持っているということか。


「吸血族の魔晶が埋まった土地こそがその者の真の身体なのです。今ではツァーニックの城を含めた周囲一帯が彼と言えるでしょう」



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