外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
28.幕間
「蛇髪女人族から話を聞いていると思いますが、我々は吸血族のレジスタンスです」
その中の一人 ―名をツョルトナーと言った― がそう言って指にはめていた蛇髪女人族の印章指輪を見せた。
「今後のことについて協議したく思いやってきた次第です」
「少し遅かったようだ。既にここに吸血族の王ツァーニックの使いと名乗る者がやってきたばかりだ」
アマーリアが苦い顔で答えるとツョルトナーの顔が真っ青になった。
「そ、それは本当ですか?皆さん無事だったのですか?」
「ああ、テツヤ、私たちの頭目なのだが、彼が奴らについていったお陰でな」
「そう、でしたか……」
ツョルトナーは沈んだ顔でため息を漏らしたがすぐに顔を上げた。
「こんなことをしている場合ではありません。この場所が知られている以上すぐに移動しましょう!」
「我々もそのつもりだ。どこか身を隠せるあてはあるのか?」
「一旦蛇髪女人国へ向かいます。奴らもそこまでは追ってこられません。そこから我々の基地へと向かいましょう。吸血族に探知できない処置を施しているので見つかることはありません」
「それでしたらゴムの木で筏を作って渡ることにしましょう。私の力を使えばすぐにできます」
フェリエが答えた。
「筏の操舵は私の力を使えば可能だな。よし、すぐに取り掛かろう!」
◆
「それで、お主たちが敵対しているツァーニックとはどのような人物なのだ」
数日かけてレジスタンスの基地へ辿り着き、落ち着きを取り戻したところでアマーリアたちは今後の作戦を練るために会合を開いていた。
「恐ろしい男です。あの男のために我々吸血族が何人犠牲になったことか」
ツョルトナーが怒りに顔を歪めた。
周りにいる吸血族も悲痛な顔で頷き合う。
「しかし同胞なのであろう?なぜそのような凶行に及んだのだ?」
「あの男は狂気に駆られたのです!」
ツョルトナーが叫んだ。
「我々吸血族は魔族の中でも長命であり、更に我々の体質もあって滅多なことでは死にません。とはいえ不死というわけではなくいずれ寿命は来ます」
ツョルトナーが話を続けた。
「あの男、ツァーニックはそれを良しとせず究極の不死を求めました。そして禁断の呪法に手を染めたのです」
「禁断の呪法?それはなんだ?」
「他者の魔晶を己が身に取り込む、太古の昔に失われた邪法です。魔族はみなその体内に魔晶を宿しています。通常は一体につき一個の魔晶ですが強力な魔族は複数持っています」
「それは知っている。魔族にとっては常識だからな」
アマーリアが頷いた。
「魔族が持つ魔晶はその者固有であり、通常であれば体内に埋め込んだところで何も起こりません。せいぜい魔晶の持つ魔素で魔力が増強されるだけです。しかしその呪法は他者の魔晶を自分のものとすることが可能なのです」
ツョルトナーはそう言って歯を食いしばった。
「魔晶は言うなればその者の命そのもの、それを取り込めばその者の寿命を自分のものにすることになるのです」
「つまり、ツァーニックは殺した同胞の命を自分のものにしたということなのか?」
アマーリアの言葉にツョルトナーが頷いた。
「奴が現在その身に宿している魔晶は九千九百九十九個です」
「なっ…!」
その言葉にアマーリア含め皆が絶句した。
「奴は魔晶を喰らう者、咀魔と呼ばれる存在になりつつあります。おそらくその力は魔王をも凌駕しているでしょう」
アマーリアはごくりとつばを飲み込んだ。
ワールフィアに数多いる王の中でも特に力の強い者は魔王と呼ばれている。
アマーリアの叔父、ラングもその一人だ。
しかしワールフィアで魔王と呼ばれている者は数十人いる王の中でも五名しかいない。
その誰もが一人で一国の軍隊に匹敵する力を持っていると言われている。
その力を上回っているというのか?
「しかしその代償として奴は自らの土地から離れて動くことができません。今はそれだけが救いなのですが……」
続くツョルトナーの言葉はアマーリアの耳に届いていなかった。
「テツヤ……」
知らず知らずのうちにアマーリアはその名を呟き、祈っていた。
どうか無事にいてくれ、と。
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