外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

17.いざ魔界へ

 リンネ姫の行動は早かった。


 俺たちがトロブに着いた時には既にミシングはリンネ姫の依頼で風景画を描くべくトロブから遠く離れた山村に飛ばされたらしい。


「ミシングが懇意にしている画商がベルトランの密偵の元締めなのだがそれもこちらで対処する。しかし押さえておけるのは一か月が限度だろう。早急に頼むぞ」


 リンネ姫からの言葉通り、俺たちはすぐに魔界に向かった。




「魔界に行ったはいいがどうするのだ?」


「それなんだけど、まずはフェリエに会ってみようと思う。ベルトランと一番関わりがあるのは彼らだろうし」


「?」


 アマーリアとソラノが怪訝な顔をしている。


「まずは魔界の現状を把握しないと。さあ出発だ!」


 こうして俺たちは魔界へと旅立った。




 まずはフェリエたちが住むドライアドの郷が目的地だ。




「テツヤさん!よくいらっしゃいました!」


 フェリエは満面の笑顔で迎えてくれた。


 フェリエたちの村は大きな森の際にあった。




「ドライアドの他にノームやハーフリングも住んでいるので森の中よりも開けた場所の方が都合が良いんですよ」


 フェリエが村の中を案内してくれた。


 トロブの国境沿いで目にした魔族も何人かいるみたいだ。


 村は奴隷狩りによって荒らされた痕跡が残ってはいたけどみんなの眼は活き活きとしている。




「テツヤさんのおかげです。こんなに安心して眠れる日は何日ぶりか…」


 そう言ってフェリエは目尻をぬぐっている。




「貧しい村ですので大したおもてなしもできませんが、どうぞ我が家だと思ってくつろいでください!」




 その日の夜は村総出で歓迎会を開いてくれた。




 小麦で作ったパンや様々な野菜を使った料理が所狭しと並んでいる。




「凄いな!貧しい村だなんて謙遜も良いところじゃないか!こんな食事はトロブでもなかなかお目にかかれないぞ!」


 俺はテーブルに並ぶ料理を見てびっくりした。




 料理はシンプルだけど使っている材料はどれも見事なものばかりだ。




「そんなに褒めていただかれると照れますね…」


 フェリエが頬を染めている。


「これは全部フェリエのお陰なんですよ。フェリエは植物使いプランツマスターなんです」


 ドライアドのバーチが説明してくれた。


植物使いプランツマスター!それはまた稀有な能力を!」


 アマーリアがそれを聞いて驚いた。




「そんなに珍しいのか?」


「珍しいなんてものじゃないぞ!属性はテツヤと同じく土属性になるのだが植物使いプランツマスターは顕現することが滅多にないスキルなのだ。おそらく大陸広しといえどもこのスキルの使い手は片手で数えるほどしかいないだろう」


「お恥ずかしい」


 感心したようなアマーリアの言葉にますますフェリエの顔が赤くなった。




「そのスキル、ちょっと見せてもらってもいいかな?植物使いプランツマスターなんて初めて会ったし同じ土属性使いとして興味があるんだ」




「ええ、構いませんよ」


 フェリエは快く答えると手近に生えていた一塊の草に手をかざした。


 その手がほのかに光り、それが草へと移っていく。


 俺たちが見守る前でその草はぐんぐんと成長して小さな花を咲かせた。




「凄いな!同じ土属性だけど俺にはできないぞ。こんなスキルもあるのか!」




「ただ、木や草を急に成長させたり操る場合は地中の魔素を消費してしまうので使いすぎるとその地の魔素が枯れてしまうんです。なので普段の私にできることといえばせいぜい野菜の成長を助けたり実りをよくする程度ですけどね」


「それで十分じゃないか!この力があれば飢えずに済むから素晴らしい力だと思うぞ!」


「あ、ありがとうございます…そう言っていただけると…嬉しいです」


 フェリエが更に顔を紅くした。耳まで真っ赤になっている。






「さあさあ、冷める前にどうぞ食べてくださいな」


 バーチの言葉に俺は目の前のスープの椀を持ち上げた。


 湯気と共に立ち上るスープの香りが鼻腔をくすぐる。


 その時、俺の脳裏に電撃が走った。


 この匂いは!?


 やみくもに椀の中へ匙を突っ込む。


 持ち上げた匙には溶けかけた赤い塊が乗っていた。


 間違いない。


 俺は熱さも構わずにその塊を口に運んだ。


 口に入れた瞬間、グルタミン酸の強烈なうま味が爆発する。






「これはトマトじゃないか!」






 思わず叫んだ。


「トマト?」


 フェリエが不思議そうな顔をしている。




「トマト!このスープにはトマトが使われている、そうだろ?ほら、この赤い実だよ」


 俺はスープの中に入っていた溶けかけのトマトの実を取り出した。


 まさかこの世界にトマトがあったなんて。


 この味は忘れるわけがない。




「これはそちらではトマトと呼ばれているのですか?こっちでは赤茄子と呼んでいるのですけど」


「いや、こんな野菜を見るのは初めてだ。ひょっとしてテツヤが行った世界でそう呼んでいたのか?」


「ああ、俺が行った日本ではそういう名前だったんだ」




「…世界?…行った?…ひょっとして、テツヤさんは帰還者リターナーなのですか!?」


 フェリエが驚いたように立ち上がった。




「ああ、実はそうなんだ。俺は地球という世界に行って戻ってきたんだ。でもこれはあまり広めないで……」


 言い終わるよりも先にフェリエが俺の手を掴んだ。


「私もです!私も帰還者リターナーなんです!」



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