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外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

7.報復法

 何が起こったんだ?


 すぐには状況が理解できなかった。


 気付けばタレクの首が斬り落とされていた。


 タレクが頭を下げた瞬間に横に座っていたヘルマの腕が動いたのは見えた。


 しかし武器もなしにあれほど滑らかに首を斬り落とせるものなのか?


 改めて俺はベルトラン最強というヘルマの能力に慄然とした。




「この男は陛下を、ひいてはこのベルトラン帝国を欺き、己の私欲のためのみに奴隷狩りを行っていたことを自ら自供した。故にここに処刑した」


 静まりかえった部屋でヘルマが淡々と言葉を続けた。




「再び尋ねるがこのマテク地区は人手不足ではないのだな?奴隷を必要としているのなら申してみよ。私が然るべき手続きを踏んだ後に手配させよう」


「……い、いえ、大丈夫であります」


「ここ…ここの人手は十分であります!奴隷は必要ありません!」


 青い顔をした役人が口々にそう叫んだ。


 それはもはや命乞いに等しかった。




「ならばこれでこの会談ですべき議題はなくなったな」


 そう言ってヘルマは立ち上がった。




 俺たちは呆気に取られていた。


 何もしない間に解決…?してしまったのか…?


 ヘルマがこちらへ振り返った。




「これでこの会談は終了だ。手間を取らせたな」


 その眼からはなにも窺い知ることができない。


 最初からこうするつもりだったのだろうか?


 ヘルマに尋ねようとした時、横にいたキリが立ち上がった。




「まだだ!まだ終わってない!」


 そう叫んでマフィドを指差した。


「こいつはキリの父様と母様、家族みんなを殺した!こいつは家族の仇だ!絶対に殺す!」


 その言葉にマフィドの顔が青ざめた。


「その話は本当か?」


「い、いや、そんな昔のことは覚えちゃいねえよ…覚えちゃいませんよ」


 ヘルマの問いにマフィドは視線を泳がせながらしらばっくれようとしている。




「ふざけるな!お前は忘れてもキリは覚えてる!お前がみんなを殺したんだ!」


 キリは今すぐにでも飛び掛かろうという勢いだ。


 どうする?俺としてはキリに加勢することに迷いはないが、この場で殺してしまうと本当に国際問題になりかねない。


 その始末をどうつける?




「それは本当なのだな?本当に覚えていないと、陛下に誓って言えるのだな?」


 ヘルマが射るような視線でマフィドを見据えた。




「…思い出した、思い出しましたよ。確かに俺がその小娘の家族を殺しましたよ!でもそれは殺らなきゃ俺たちが殺られてたからでさあ。言ってみりゃ正当防衛ですよ」


「嘘つくな!お前は逃げる家族を笑いながら殺したんだ!絶対に許さない!」


 キリが涙を浮かべ牙をむきだして叫んだ。


「第一、俺はそこのタレクさんに雇われてただけですぜ。仕方なかったんですよ。役員でもない俺たちはこうやって食っていくしかないんですから」


 どうしようもなかった、とでも言うようにマフィドは肩をすくめた。


 こいつ、このまましらばっくれるつもりかよ。


 どうにかしてキリに仇を討たせてやる、俺はそう心に決めた。




「なるほど、確かに貴様らは依頼されたことをやっただけなのだろう」


 ヘルマが口を開いた。


「しかし貴様がそこにいる娘の両親を殺したのであれば貴様は娘にとっての仇ということになる。それは間違いないな?」


 ええ、まあ、と不承不承マフィドが頷いた。


「ならば今ここでその娘の仇討ちを受けるがいい。我が国は報復法を採択している。これをもってその件についてのケリをつけるというのはどうだ」


 報復法?なんだそれは?


「いわゆる復讐法だ。被害者の親族は政府立会いの下で仇討ちをする権利が与えられている。しかし仮に失敗しても犯人は罪に咎められないのだ」


 アマーリアが説明してくれた。


 ベルトランにはそういう法律があるのか。


 リスクはある、しかしこの機会を逃したらキリはずっと悔やみ続けるに違いない。


 いや、絶対に納得できないはずだ。




「キリ、どうする?」


「やる!あいつはキリが絶対に殺す!」


 聞くまでもないことだった。




「わかった。その申し出を受けることにするよ」


 良かろう、と頷くとヘルマはマフィドの方を向いた


「マフィドとやら、貴様に選択の余地はない。貴様もベルトラン国民であるなら己の行動の責任を果たすがいい」


「へいへい、わかりましたよ。やりゃあいいんでしょ、やりゃあ!」


 マフィドはヤケクソになったのか吐き捨てるように叫ぶと荒々しく立ち上がった。


「それではこれより報復法に則った決闘を執り行う。一同闘技場へ来るように」


 ヘルマがそう宣言した。








    ◆








 俺たちは夕日が差し込むマテクの闘技場へと集まった。


 噂を聞きつけてきたのかそこには数多くの見物客が集まっていた。


 アマーリアが言うにはベルトラン帝国では闘技が人気で大抵の町には闘技場があるのだとか。




「報復法に則った決闘の場合、仇は素手だが親族は武器を持つことが許されている。そちらはどうする?」


「そんなの必要ない!キリは正々堂々と闘う!あいつにも武器を持たせろ!」


 ヘルマの問いにキリは猛々しく答えた。




「良かろう。それでは両者武器を持つように。尚、これは正式な決闘であるため周りの者による肉体及び魔力による支援は一切厳禁とする。もしこれを行った場合はその娘を殺す。それで良いか」


「ああ、それで構わない」


 俺は頷いた。




「それではこれよりオニ族の娘キリとマフィドによる決闘を行う。両者闘技場へ!」


 ヘルマの号令でキリが闘技場へ降り立った。


 武器はいつも手にしている二本の棍棒だ。


 対するマフィドは巨大な戦斧を持っている。


「始めっ!」


 号令を合図にキリが走り出した。



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