外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

6.三国間会談

「つまり、貴様らは仕方なく奴隷狩りをしていたというわけか」


 タレクの説明を聞いたヘルマが口を開いた。


「そ、その通りです。この辺は人口が少ないために労働力もままならず、奴隷を集めないことには公共を維持することもできないのです。中央に陳情してもなかなか聞き入れてもらえない故の苦肉の策なのです!」


 タレクが汗をかき口角泡を飛ばしながら熱弁を振るっている。




「ふざけるな!そんなのそっちの都合だろうが!力づくで奴隷狩りをする言い訳になってたまるかよ!」


「テツヤ。これは我が国と魔界の問題だ。貴様が口を挟む権利はない」




 憤る俺に対してヘルマが冷たい言葉を投げてきた。


 その眼には何の感情もこもっていない。




「いーや、言わせてもらうぜ。避難してきた連中は俺に助けを求めてきたんだ。それにそいつらの手下を殺したキリは俺の仲間だ。だったらこれは俺にだって関係がある」




 ふう、とヘルマは軽くため息をついた。




「ならば改めて場所を変えて話し合いをするとしよう。ここでは埒が明かん。魔界の人間も交えて三国会談しようではないか。異議はないな?」


 それでいいと俺は答え、タレクも不承不承頷いた。


 現場に来ていたフェリエも不安げながら同意した。




「それでは場所はマテクの行政館で行うことにしよう」


「ちょっと待てよ、そこはベルトラン帝国内じゃないか!それじゃこいつらに有利すぎる!」


「テツヤよ、先ほども言ったがこれはまず我が国と魔界との問題だ。貴様の言い分を聞いて会談を認めた以上、次は貴様が私の言い分を聞く番ではないのか?」


「っ!」


 ヘルマの言葉に俺は言葉を詰まらせた。


 視界の端でタレクがほくそ笑んでいるのが見える。




「話は決まったようだな。ではマテクへ向かうぞ」


 話の主導権をヘルマに握られてしまい、結局俺たちはマテクへと向かうことになった。








    ◆








「それではこれより地域レベルでの三国会談を行う。その前に書記へ言っておくことがある」


 行政館の会議室でヘルマが開口一番に切り出した。




「私は休暇中の身であるが一時的に軍属へ復帰する。その上でこの会議の議長を務めることにする。タレク行政長官も異論はないな?」


「もちろんですとも、全てヘルマ様におまかせいたします」


 タレクは今すぐ揉み手をしそうな勢いだ。


 ヘルマが自分の側についたとあってすっかり自信を取り戻している。


 しかしヘルマが軍属に戻ったのは厄介だぞ。


 これはベルトラン側に着くという意思表示に間違いないだろう。




 ベルトラン帝国はタレク、先ほど倒されていた奴隷狩りの隊長のマフィドという男の他に役員と思しきメンバーが数名参加していた。


 フィルド王国からは俺とアマーリア、そしてキリ、ワールフィアからはフェリエとバーチという名のドライアドが列席している。


 まず人数の時点で不利なのは否めない。


 ソラノとフラムも参加したがっていたが断られてしまった。


 これもまず数で優位に立とうという策略なのだろう。


 向こうは既にこの会談をものにしたと思っているのか余裕の顔で談笑すらしている。


 それでも引くわけにはいかない。


 これにはキリの未来が、フィルド王国とゴルドの今後の関係がかかっているのだ。








「それではこれより会談を始める。まず最初にベルトラン帝国では奴隷の所持は法的に認められているということを言っておく」


 ヘルマが口火を切り、会談が始まった。


「だからって我々を狩るなんてあまりにも横暴すぎます!あなた方に何の権利があるというんですか!」


 フェリエが悲痛に叫んだ。


「タレク、貴様は人手が足りないから奴隷狩りをしていると言っていたな」


 その言葉に耳を貸さずヘルマがタレクに尋ねた。


「仰る通りでございます」


 タレクがニヤニヤしながら答えた。




「我が国は奴隷所持を認めている。認めてはいるがそれは従属させた国の国民に限っているはずだ。しかし貴様は他国に侵入して奴隷狩りを行っている。その理由を説明せよ」


「そ、それは…先ほども言った通り人手が足りないのでございます。我々としても不本意ではあるのですが、こうでもせねば行政が立ちいかないのでございます」


「つまり、貴様は陛下が配分した予算では足りない、そう言っているのだな?陛下はあまねく国土全てに目を配り、適切な予算を配分をしている。それに対して異議を唱えるというのだな?」


「そ、それは…」


 なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ。


 俺は元より当事者であるフェリエやバーチまで呆気に取られて事の成り行きを見守っている。




「予算に異議があるのであれば然るべき者がこの地域の財務を調査することになる。もう一度聞くぞ。本当に人手が足りないのだな?」


「そ、それは…その……いえ、予算に不満は…」


 タレクが汗をかきながらしどろもどろになっている。


「そ、そういう訳ではないのです…ただ我々としても生きるためには何かと入り用になるものでして。こ、これはその、ほんの小遣い稼ぎだったのですよ」


 愛想笑いを浮かべながらタレクが答えた。




「小遣い稼ぎだと!」


 その言葉にフェリエが憤って机を叩いた。


「ほら、ヘルマ様だってたまには酒を飲んだりバカ騒ぎしたいことがあるじゃないですか?そういう時のための予算っていうんですか?そういうのをねん出する必要があったんですよ」


「つまり、予算に不備はない、ただ単に自分たちが遊ぶための金が欲しくて奴隷狩りをしていた、そういうことなのだな?」


「仰る通りでございます。この通り反省しておりますのでどうかお許しください」


 タレクがそう言って机に頭をこすりつけた。


 この野郎、奴隷狩りをただのちょっとした悪ふざけ程度で片付けようとしてやがる!






「なるほど、貴様の言い分はよく分かった。反省しているというその言葉に偽りはないのだな」


「も、もちろんでございます!これからは心を入れ替え誠心誠意国に尽くす所存です!」


 タレクが殊勝そうに頭を下げた。しかしその瞬間にほくそ笑んでいたのを俺は見逃さなかった。




 ふざけんじゃねえ!と立ち上がろうとした時、タレクの頭が机の上に転がった。


 同時に机の上に鮮血が広がる。






 誰も言葉を発しない。


 みな机の上で虚空を見つめるタレクの首とヘルマを見ていた。






「反省の必要はない。陛下を謀った時点で貴様に生きる価値はない」


 静まり返った部屋の中でヘルマが冷たく言い放った。



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