外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

26.パーティーの裏で

「なんか…俺に対する視線が冷たい気がするんだが」


「当然だ。お主は言ってみれば招かれざる客だからな」


 パーティー会場全体から値踏みするような視線が突き刺さってくる。


「諸侯連中にしてみれば突然降ってわいたようにランメルスとカドモインの領土を奪い取った者があらわれたのだ。当然面白くはないだろう」


 そう言われてみればそうかもしれない。




「そんなことよりも分かっているだろうな」


「ああ、任せておけって」


 小声で打ち合わせを済ませるとリンネ姫はパーティーの輪の中に入っていった。


 流石は姫君だけあってあっという間に周囲に人だかりができる。


 俺の存在など一瞬のうちにかき消え、みなリンネ姫へ興味が移ってしまったようだ。




 みな美しく着飾っているけどその中でもリンネ姫は一際美しかった。


 まるでパーティー会場に咲いた大輪の花だ。










「いかんいかん、俺の仕事を果たさないと」


 ついつい見とれてしまいそうになるのを我慢して俺はこっそりとパーティー会場を抜け出した。


 周囲に人がいないのを確認して近くにあった小部屋に潜り込む。


 部屋に入って鍵をかけると床に手を当てて屋敷全体をスキャンした。




 スキャンしてみるとアクダルモ候の屋敷には一点だけ妙な部分があった。


 地下に部屋があるのだ。


 地下室自体はおかしなものではないけどその地下室が地下通路で屋敷の外に続いている。


 敵が来た時のための隠れ場所と避難通路だろうか。


 あまり時間はないけどとりあえずその地下室まで潜ってみた。




「こいつは…当たりを引いたかな」




 その地下室は隠し部屋と言うにはあまりに豪華すぎた。


 ベッドや調度品など人ひとりが十分暮らしていける設備が備えられている。


 しかもつい最近まで人が生活していた痕跡まで残っていた。




 どうやらこの部屋の主は不在のようだけど逃げ出したというわけではないらしい。


 テーブルの上には書きかけの手紙やメモなどが乱雑に残っている。


 手紙の署名は…ヨコシン・ベンズだ。




 ついに見つけたぞ。




 証拠として持っていきたい誘惑をなんとか我慢する。


 今ここで部屋を荒らした痕跡を残すと怪しまれてしまうかもしれない。


 ひとまずはパーティー会場に戻ってリンネ姫と合流だ。








    ◆








「いや、リンネ姫殿下は相変わらずお美しい。今夜の美しさはとりわけですな」


 アクダルモが軽薄な笑顔を浮かべながらリンネ姫の手を取った。




「まあ、お上手ですこと。ここにいらっしゃるご婦人方みなに言っているんではなくて?」


「とんでもない!あなたの美しさに敵う者がどこにいるでしょうか!リンネ姫殿下が初夏に咲き誇るバラであるなら他のご婦人方は秋のしおれたバラのようなものですよ」


 歯の浮くようなセリフを言いながらアクダルモはリンネ姫の腰に手を回したがリンネ姫は拒絶と取られないギリギリの態度でそれをかわす。


「お誘いは嬉しいのですけど、今日は遠慮しておきますわ」


「そんなこと言わずに、どうか私めと踊っていただけませんか?」


 しかしアクダルモはしつこく食い下がった。


 酔っているらしく、赤ら顔でひっきりなしにワイングラスを空けている。




「それにあなたにとっても私と懇意にしておくことは損ではないはずぞ」


 その言葉にリンネ姫の眼が急に冷えた。


「何が仰りたいのです?」


「カドモイン候亡き今、フィルド王国で王家に次ぐ力を持っているのはこの私、そしてこのパーティーに参加している諸侯はみな私の支持者だ。この意味が分かりますね?」


 酒の力を借りてかはたまた己の言葉で自信をつけたのか、アクダルモの態度が急に尊大になった。


 力を誇示するかのように胸をせり出してリンネ姫に迫る。




「王家も旧カドモイン領の救済で財政は厳しいのでしょう?私ならばその力になれますぞ。もちろんそれ相応の見返りはいただきますがね」


「それがあなたの本心なのですね。もう少し体面を取り繕うのが上手い方だと思っていたのですけど」


 リンネ姫の顔は穏やかな表情が張り付いたままだったが既にその声に温かさはなかった。


「体面など力ある者には必要ないのですよ」




「それは同意だ」




 突然リンネ姫の背後から声がした。




「テツヤ!」


 振り向いたリンネ姫が嬉しそうな声を上げる。


 そこにいたのはテツヤだった。








     ◆








「力云々は置いておくとしても体面を気にする必要はないってのは同意するよ」


 俺の姿を認めてアクダルモはあからさまに顔をしかめた。


 リンネ姫がアクダルモを拒絶するかのように俺の腕を取る。


 それを見てアクダルモの顔が更に歪む。




「なんだ貴様は。私は今リンネ姫殿下と話をしているんだ。どこか他に行きたまえ」


「だそうですけど、そうなんですか?」


「いいえ、アクダルモ候との会話はもう終わりました。それよりも踊りに行きましょう。ここは息が詰まってしまいますわ」


 俺の言葉にリンネ姫は首を振ると腕を取って足を進めようとした。




「というわけですので、これで失礼しますよ」


「ふざけるな!貴様のような成り上がりが私のパーティーで好き勝手出来ると思うなよ!」


 アクダルモが怒号をあげた。


 パーティーの参加者が突然の大声に驚いてこちらを見ている。




「どうやって王家に取り入ったのか知らんが、貴様のような…どこの者ともわから…ぬ……」




 尚も悪態をつくアクダルモだったが、突然その額に汗が噴き出した。


 顔が青ざめ、内股になって両手で腹を押さえている。




「あれ?どうかしました?具合でも悪くなったんですか?」


「く、くくぅ…、な、なんでもない!」


 アクダルモは苦しそうに呻くとよたよたと走り去っていった。




「全く、はた迷惑な奴だ」


「でも助かったぞ。あれはお主の仕業なのか?」


 リンネ姫が腕を掴んだまま嬉しそうに聞いてきた。




「ああ、リンネ姫に言い寄ってるのが見えたんで奴のグラスの中に酸化マグネシウムをちょいとね」




 酸化マグネシウムは下剤としても使われている鉱物だ。今頃はトイレで唸っていることだろう。


 間に合っていればの話だけど。




「まったくお主という奴は」


 リンネ姫が呆れたようにため息をついた。




「でもすっきりしただろ?」


「まあな」


 リンネ姫は素直に頷くと満面の笑みを浮かべて俺に抱きついてきた。


「テツヤが来てくれて良かった」




「じゃあ一つ俺と踊っていただけませんか?リンネ姫」


「喜んで」


 俺とリンネ姫は手を取り合って踊りの輪の中へ入っていった。



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