外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

10.ルビキュラ

 リンネ姫とルボン大臣は護衛隊と一緒に帰ってもらうことにして、俺たちは男たちの案内で森の中へ入っていった。


 男たちが案内したのは森の中に隠れるように広がる小さな村だった。


 思った以上に平和な村で家事をする女性たちや庭で遊ぶ子供たちの姿も見える。




「へえ、意外とちゃんとしたところなんだな」


「あんた俺たちのアジトを何だと思ってるんだよ」


「いや、もっとこう山賊の根城みたいな」


「ひでえこと言いやがる。まあ否定はしねえけど」


 道中でとりとめのない会話を続けたおかげで少し打ち解けたみたいだ。




「お頭、連れて来やしたぜ」


 俺たちが案内されたのは中でもひときわ大きな家だった。


 丸太造りで木の皮で葺いた屋根を持ったしっかりとした家だ。




「よく来たね」


 部屋の中には一人の女性が待っていた。


 すらりとした長身にぴったりとしたタンクトップを着ていてズボンは男たちと同じように緑のパッチワークで作られている。


 肌は褐色で幾本にも編み込んだ髪を後ろで束ね、目はフラムと同じように真っ赤だ。


 ひょっとしたらこの人も魔族の血を引いているのだろうか。


「あたしはルビキュラ、この村の頭領をしてる。騙したみたいに連れてきて悪かったね」


 差し出された椅子に座るとルビキュラと名乗る女性はそう切り出した。


「別にいいけどさ、来てほしいならわざわざ部下に痛い思いをさせなくてもよかったんじゃないか?」


「それについちゃ申し開きのしようもないね」


 ルビキュラは肩をすくめた。


「ただまあ敢えて言うならあんたの実力をあいつらに分からせたかったことと、あたしらのことを知ってもらいたかった、ってところかな」


「と言うことはあなたは俺のことを知ってるということか」


「あたしのことはルビキュラで良いよ。そしてその質問の答えはイエスだ。テツヤ、あんたがカドモインを倒したことも、この森の魔獣を倒したことも知ってるよ」


 なるほど、魔獣討伐をしていたら時折何かの視線を感じていたのはこういうことだったのか。


「そうは言ってもあんたは道路を作ってばかりで碌に魔獣を倒しちゃいなかったから実際どの程度やるのかはわからなかったからね。あいつらへの自己紹介もかねてちょいと試させてもらったわけさ」




「…まあそれはいいや。こっちもいちいち説明する手間が省けたし。それよりも二番目の説明がまだだよな?つまりあんたらはいつもああいうことをしてるってことなのか?」


「怒りたくる気持ちもわかるけどね、あれはあたしたちにとっては正当な権利さ」


 ルビキュラは咎めるような俺の視線を真っ向から見つめ返した。


 その視線には一欠けらの臆面もない。




「…話を続けてくれ」


 促す俺にルビキュラが頷いて話を続けた。


「あたしたちは代々この森で何百年も暮らしてきたんだ。この国を治めているのが誰であろうとこの森はあたしたちの家だ。だったらそこを通る人間から通行料を取るのは当然だろ?」


「それもずいぶん勝手な話じゃないか?ここがあんたたちの家だっていうならフィルド王国だって千年も前からこの土地を国土としてるんだからそっちの理を通すのも筋じゃないか?」


 俺の言葉にルビキュラが不敵に笑った。


「なかなか舌が回るじゃないか。でもね、あたしらだって無理難題を言ってるわけじゃないんだよ?」


 そう言って腕を大きく広げる。


「テツヤもこの森を見ただろう?御覧の通りうっそうとしていて数メートル先だって見通せやしない。そういう場所は山賊どもの恰好の仕事場になるのさ」


 そして親指を立てて自分を指差した。


「そこで頼りになるのがあたしらって訳さ。この森はあたしらがいる限り山賊どもの好き勝手にさせやしない。その見返りとして幾ばくかの金銭を要求したって罰は当たらないだろ?」


「物は言いようって奴じゃないのか」


 俺が苦笑しながらアイコンタクトで尋ねるとアマーリアは軽く頷いた。


「確かにこの辺りで山賊の被害が出たという話は聞かないな。住民からの苦情も聞いたことがない。しかしそれも数年前までのことで今がどうなっているかはわからないけど」


「そこなんだよ!」


 アマーリアの言葉にルビキュラが机を叩いた。


「今までは上手くやってたんだ!このあたりの道を使う商人たちは気前よく払ってくれたし山賊どもも近寄りゃしなかった。でもこの数年で変わっちまったんだ!」


 ルビキュラは我慢できないと言うように語気を強めた。


「カドモインの奴が周りの治安を全然気にかけなくなったせいで山賊どもが我が物顔でのさばるようになりやがったんだ!おかげでこっちも手が回んないんだよ!」


 俺たちは顔を見合わせた。


 おそらくそれはワンドがやってきた時期と一致するのだろう。




「最近じゃ徒党を組んでこの森を食い物にしやがる始末さ。悔しいけどあたしたちの力じゃ太刀打ちできないんだ」


 ルビキュラが俺を指差した。




「そんな時にテツヤ、あんたの話を聞いたのさ。カドモインを倒して町を解放したっていうね。そしてあんたたちが魔獣を相手に一切引けを取らなかったのも確認した」


 ははーん、話が読めてきたぞ。


「つまり、俺にそいつらをどうにかしてほしいって訳か」


「ご明察」


 ルビキュラがにやりと笑った。



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