外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

8.肥料を探せ

 数日後、俺たちは以前魔獣討伐中にソラノが発見した洞窟へ向かった。


 今回はリンネ姫に頼んでフィルド王国の農業大臣にも来てもらっている。






「く、臭い!こんな所に連れてきてどうするつもりだ!」


 洞窟に近づくだけでリンネ姫は顔をしかめていた。




「ここは蝙蝠の巣になってるから仕方ないんだ。ソラノ、また頼めるかな」


 ソラノが頷いて風の魔法を唱えた。


 その途端に洞窟から漂っていた悪臭が消えうせる。


「これで大丈夫です。洞窟の中は有毒ガスが溜まっているところもありますが私のそばを離れない限り安全です」


 ソラノの魔法に守られながら俺たちは洞窟の中へと入っていった。




 思った通りだ。


 足元には長い年月をかけて岩石のように固くなった蝙蝠の糞が堆積している。


「こんな気味の悪いところに来て何をしようというのだ?」


「これが目的だよ」


 俺は足元の土くれを拾い上げた。




「こいつはバット・グアノといって蝙蝠の糞が堆積して岩になったものなんだ。これは肥料として最高なんだよ」


「本当なのか?」


 それでもリンネ姫は疑わしそうな態度を変えない。




「ああ、こいつには肥料にとって重要な窒素、リン酸、カリウムが豊富に含まれてるんだ。と言ってもすぐには信じられないだろうから農業大臣のルボンさんにも来てもらったという訳さ」


 俺は農業大臣のルボンに持っていた土くれを渡した。




「あなたは土属性でも鑑定のスキル持ちだとか。これを見てもらえませんか?」


「…ふむ、俄かには信じられんが、姫様の頼みであれば断るわけにもいくまい」




 白髪の髭を蓄えたルボンは疑わしげな顔で俺からそれを受け取った。


 節くれだち、ひびの割れた爪を持つその手はルボンがただ役職を持っているだけでなく現場での経験も長いことを物語っている。


 ルボンは懐から魔法陣の描かれた羊皮紙を取り出し、真ん中に土くれを置いて詠唱を始めた。




 やがて魔法陣に描かれた五芒星のそれぞれの頂点から緑、青、赤、白、黄の光が立ち上ってきた。


 それを見たルボンの表情が驚愕へと変わっていく。




「そ、そんな馬鹿な…こんなことが…こんなことはあり得ぬぞ…」


「どういうことなのだ?わかりやすいように言わぬか」


 その反応を見てリンネ姫も興味を惹かれたみたいだ。






「し、失礼しました。ただいま行ったのはこの土が作物を育てるのに適しているかどうかを調べるための魔法術式です。驚くべきことにこの土には作物を育てるのに必要な五肥が全て備わっているのです!」


 ルボンが驚いたように言った。




「五肥とは葉を育てる緑肥、作物を強靭にして病気になりにくくさせる青肥、実の付きをよくする赤肥、根の育成を促す白肥、四つの肥料の吸収を助ける黄肥のことを言います。この土はその全てが含まれています。こんなものは見たことがない!」


 ルボンはまるで信じられないものを見た、とでも言わんばかりにバット・グアノを見ている。




「こいつは俺が行った世界でも肥料に使われていたんだよ。これを使えば来年の収穫はなんとかならないかな?」


「なるなんてものじゃない!今から追肥に使うだけでも大違いですぞ!これは今すぐ使うべきです!必要ならば私が責任をもって国王陛下に掛け合いましょう!」


 ルボンが興奮したように叫んだ。




「ふむ、ルボン殿がそこまで言うのであれば間違いはないか」


 リンネ姫は顎をつまんで考え込んだ。




「テツヤ、ここへ来る時に通った道をここまで伸ばすことは可能か?できれば荷馬車が通れるくらい広いと助かるのだが」


「当然だ。なんなら今日中にやっつけてしまおうか?」


「よろしく頼む。しかしそうなると結構な人手やそれに付随する施設が必要になるか…」


「それだったら集積地にボーハルトを使ったらどうだ?ここからなら馬車で半日ほどだし場所ならいくらでも余ってるぞ」


「それは良いな!ボーハルトの復興は私としても懸念だったのだがこれならば一時的かも知れぬがボーハルトの景気を高めることができるだろう」




「採掘に関しては私の方で手配しましょう」


 ルボンが手を挙げた。




「ついでと言っては何ですがこのバット・グアノですか、これの研究もさせていただけませんかな。肥料としてどれだけの可能性を秘めているのか非常に気になりますからの」


「是非お願いするよ!実は農業の方はあまり自信がないんで専門の人に任せたかったんだ」


 地球にいた頃に家庭菜園くらいは作っていたけど大規模にやるのならやっぱり専門の人がいた方が心強い。


 農業大臣のルボンが興味を持ってくれて助かった。




「なんのなんの、この年になってこれほど興奮することに巡り合えるなど思ってもいませんでしたぞ。こちらこそテツヤ殿に感謝しますぞ」


 俺たちは固い握手を交わした。




「さて、話もまとまったし、そろそろ出ぬか?いい加減蝙蝠の糞の上にいるのはうんざりなんだがの」


 リンネ姫の言葉を合図に俺たちは出口に向かうことにした。




「旧カドモイン領に関してはどうするべきかと思案しておったのだが、何やら面白くなってきたな」


 歩きながらリンネ姫が笑いかけてきた。



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