外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
5.生き残った人々
俺の言葉で全員に緊張が走った。
殺気は感じられないけど人の気配がするのは間違いない。
「ひいいいぃぃぃっ!!」
その時物陰から走り出る影があった。
全員が一斉に武器を構える。
それは一人の男だった。
痩せこけていて丸腰だ。
「た、頼む!殺さないでくれ!」
その男は俺たちの姿を見てへたへたと座り込んで命乞いを始めた。
「ま、待った、俺たちは別に殺すつもりなんかないよ」
「で、でもあの女がいきなりナイフを」
男の背後を見るとフラムが近づいてくるのが見えた。
そう言えばいつの間にかいなくなっていたな。
人の気配がした瞬間に向かっていたのか。
「いや、あの娘なら大丈夫だ。危害を加えるつもりはないよ。それよりあんたはこの町の生き残りなのか?」
俺の言葉に男は無言で首を縦に振った。
「ひょっとしてまだ生き残りがいるのか?」
「あ、ああ、数は少ないけどまだ何人かいるよ。あんたたちは一体?カドモイン様の部下じゃないのか?」
「カドモインならもういないよ。俺たちが倒した」
俺の言葉に男の眼から涙が溢れだした。
「あ、あなた方があの男を?ありがとうございます!ありがとうございます!あの男のせいで俺たちがどれほど苦しめられてきたか…!」
泣きじゃくりながら口づけでもせんばかりの勢いで俺の足にすがりついてくる。
「ま、待ってくれ、俺もこの町の事情がよく分かっていないんだ。まずは詳しく話を聞かせてくれないか?」
◆
「なるほど…そんな事情があったのか…」
その男―名前はハウエルといった―が言うには今のボーハルトには千人ほどの生き残りがいるらしい。
そしてその全てがボーハルトで奴隷だったのだとか。
フィルド王国では奴隷制が廃止されていたけどカドモイン領では今も密かに奴隷制が続いていて、ハウエルたち奴隷は地下に住まわされて悲惨な生活を送っていたという。
それでもそのお陰でワンドによって住人が屍人となった時に免れることができたらしい。
奴隷たちは屍人になった住民たちがカーリンによって排除された後も地下に潜み、時々地上に来ては残った食料を食べて飢えをしのいでいたようだ。
ハウエルの話を聞きながらキリに食事の用意をさせているとその匂いにつれられたのか気付けば生き残った人たちが辺りに集まっていた。
警戒しているのかまだ遠巻きにこちらの様子を窺っているだけだけど、みんな一様にやせ細っている。
「なあ、みんな腹が減っていないか?一緒に食事でもしないか?」
俺の言葉にハウエルが驚いて目を見開いた。
「い、いいんですか?確かにみんな腹をすかしてますが……」
「ああ、もちろんだ。そういえばまだ言ってなかったけど俺はこの辺の新領主になったんだ。まずは親睦の意味もかねてみんなで食事でもしよう」
「あ、ありがとうございます!」
ハウエルは涙を浮かべながら礼を言い、生き残った人たちの元へ走っていった。
「とはいえ千人分の食事か…これはなかなか大変なことになりそうだな」
「でもテツヤならそう言うと思っていたよ」
アマーリアが俺の肩を叩いた。
「でも私たちが力を合わせればなんとかなる、そうだろ?」
ソラノが空から舞い降りてきた。
「少し行ったところに広場がある。そこなら千人くらい集まっても大丈夫だろう」
「よし、じゃあみんな力を貸してくれないか?俺はまず調理道具を作るからソラノは食料をありったけ集めてきてくれ。アマーリアが飲料水の手配を頼む。フラムは火の準備だ!」
三人は頷いて散っていった。
「さて、まずは調理道具だな」
俺は周囲の家に残されていた鍋やらフライパンやらを集めて巨大な鉄板と鉄鍋をいくつも作り上げた。
大人数用の料理なら焼くか煮るかで相場は決まっている。
次に周囲の家の石材を拝借して巨大なかまどを作り上げる。
アマーリアが鍋に清めた水を入れ、フラムがそれを沸かした。
フラムが生き残った人たちを指揮して家々から残っていた食材を集め、キリが先導して料理が始まった。
野菜はほとんどが傷んでしまっていたけど玉ねぎや人参などの根菜は十分使えるし塩漬け肉や堅パンが残っていたのが幸いだった。
やがて辺りにいい匂いが漂い始めてきた。
その匂いに誘われて更に人々が集まってくる。
ヒト族の他にゴブリン、獣人、ハーフリングなど種族は様々だけどみな一様に痩せこけている。
広間はあっという間に人でいっぱいになった。
「よーし!今から料理を配るから順番に並んでくれ!まずは子供と女性が先だ!たっぷりあるから慌てないでくれよ!」
俺の合図に人々が料理の前に殺到してきた。
かなり食べ物に不足していたのだろう、料理の熱さも構わずに口の中に運んでいる。
「ありがとうございます!こんな食事は半年ぶりです!」
「これで子供が飢えずに済みます!本当に助かりました!」
「あなたは命の恩人だ!」
みんな口々にお礼を言い、涙を流している人もいた。
炊き出しは夜中まで続き、俺たちが食事にありつけたのは深夜になってからだったけどみんな文句ひとつ言わず付き合ってくれた。
「今日は本当にありがとうございました。こんなに美味しい食事は久しぶりでした」
ようやく一段落ついて休んでいるとハウエルがやってきた。
「満足してくれて良かったよ」
「それでその…新領主様にお聞きしたいことがあるのですが…」
何やら言いにくそうにハウエルが体をよじらせている。
「?何かあるのか?」
「いえ、私たちはここに居てもよいのかお聞きしたくて…あなたが新領主様になられるのなら、私たちの行き先もあなたがお決めになるのかと…」
「ああ、そのことか。それだったらもちろんここに住んで構わないよ。いや、むしろ住んでもらいたいんだ」
「ほ、本当ですか?」
俺の言葉にハウエルの顔が一気に明るくなった。
「ああ、ここの住民はみんな屍人になってしまっただろ?俺が治めるにしても住民をどうしたらいいのか悩んでたんだ。こんなことになってしまってこの町に良い印象はないかもしれないけど引き続き住んでくれたら大歓迎だよ」
「と、とんでもありません!こちらこそありがとうございます!本当に、本当に助かります!」
ハウエルは何度もお礼を言って去っていった。
殺気は感じられないけど人の気配がするのは間違いない。
「ひいいいぃぃぃっ!!」
その時物陰から走り出る影があった。
全員が一斉に武器を構える。
それは一人の男だった。
痩せこけていて丸腰だ。
「た、頼む!殺さないでくれ!」
その男は俺たちの姿を見てへたへたと座り込んで命乞いを始めた。
「ま、待った、俺たちは別に殺すつもりなんかないよ」
「で、でもあの女がいきなりナイフを」
男の背後を見るとフラムが近づいてくるのが見えた。
そう言えばいつの間にかいなくなっていたな。
人の気配がした瞬間に向かっていたのか。
「いや、あの娘なら大丈夫だ。危害を加えるつもりはないよ。それよりあんたはこの町の生き残りなのか?」
俺の言葉に男は無言で首を縦に振った。
「ひょっとしてまだ生き残りがいるのか?」
「あ、ああ、数は少ないけどまだ何人かいるよ。あんたたちは一体?カドモイン様の部下じゃないのか?」
「カドモインならもういないよ。俺たちが倒した」
俺の言葉に男の眼から涙が溢れだした。
「あ、あなた方があの男を?ありがとうございます!ありがとうございます!あの男のせいで俺たちがどれほど苦しめられてきたか…!」
泣きじゃくりながら口づけでもせんばかりの勢いで俺の足にすがりついてくる。
「ま、待ってくれ、俺もこの町の事情がよく分かっていないんだ。まずは詳しく話を聞かせてくれないか?」
◆
「なるほど…そんな事情があったのか…」
その男―名前はハウエルといった―が言うには今のボーハルトには千人ほどの生き残りがいるらしい。
そしてその全てがボーハルトで奴隷だったのだとか。
フィルド王国では奴隷制が廃止されていたけどカドモイン領では今も密かに奴隷制が続いていて、ハウエルたち奴隷は地下に住まわされて悲惨な生活を送っていたという。
それでもそのお陰でワンドによって住人が屍人となった時に免れることができたらしい。
奴隷たちは屍人になった住民たちがカーリンによって排除された後も地下に潜み、時々地上に来ては残った食料を食べて飢えをしのいでいたようだ。
ハウエルの話を聞きながらキリに食事の用意をさせているとその匂いにつれられたのか気付けば生き残った人たちが辺りに集まっていた。
警戒しているのかまだ遠巻きにこちらの様子を窺っているだけだけど、みんな一様にやせ細っている。
「なあ、みんな腹が減っていないか?一緒に食事でもしないか?」
俺の言葉にハウエルが驚いて目を見開いた。
「い、いいんですか?確かにみんな腹をすかしてますが……」
「ああ、もちろんだ。そういえばまだ言ってなかったけど俺はこの辺の新領主になったんだ。まずは親睦の意味もかねてみんなで食事でもしよう」
「あ、ありがとうございます!」
ハウエルは涙を浮かべながら礼を言い、生き残った人たちの元へ走っていった。
「とはいえ千人分の食事か…これはなかなか大変なことになりそうだな」
「でもテツヤならそう言うと思っていたよ」
アマーリアが俺の肩を叩いた。
「でも私たちが力を合わせればなんとかなる、そうだろ?」
ソラノが空から舞い降りてきた。
「少し行ったところに広場がある。そこなら千人くらい集まっても大丈夫だろう」
「よし、じゃあみんな力を貸してくれないか?俺はまず調理道具を作るからソラノは食料をありったけ集めてきてくれ。アマーリアが飲料水の手配を頼む。フラムは火の準備だ!」
三人は頷いて散っていった。
「さて、まずは調理道具だな」
俺は周囲の家に残されていた鍋やらフライパンやらを集めて巨大な鉄板と鉄鍋をいくつも作り上げた。
大人数用の料理なら焼くか煮るかで相場は決まっている。
次に周囲の家の石材を拝借して巨大なかまどを作り上げる。
アマーリアが鍋に清めた水を入れ、フラムがそれを沸かした。
フラムが生き残った人たちを指揮して家々から残っていた食材を集め、キリが先導して料理が始まった。
野菜はほとんどが傷んでしまっていたけど玉ねぎや人参などの根菜は十分使えるし塩漬け肉や堅パンが残っていたのが幸いだった。
やがて辺りにいい匂いが漂い始めてきた。
その匂いに誘われて更に人々が集まってくる。
ヒト族の他にゴブリン、獣人、ハーフリングなど種族は様々だけどみな一様に痩せこけている。
広間はあっという間に人でいっぱいになった。
「よーし!今から料理を配るから順番に並んでくれ!まずは子供と女性が先だ!たっぷりあるから慌てないでくれよ!」
俺の合図に人々が料理の前に殺到してきた。
かなり食べ物に不足していたのだろう、料理の熱さも構わずに口の中に運んでいる。
「ありがとうございます!こんな食事は半年ぶりです!」
「これで子供が飢えずに済みます!本当に助かりました!」
「あなたは命の恩人だ!」
みんな口々にお礼を言い、涙を流している人もいた。
炊き出しは夜中まで続き、俺たちが食事にありつけたのは深夜になってからだったけどみんな文句ひとつ言わず付き合ってくれた。
「今日は本当にありがとうございました。こんなに美味しい食事は久しぶりでした」
ようやく一段落ついて休んでいるとハウエルがやってきた。
「満足してくれて良かったよ」
「それでその…新領主様にお聞きしたいことがあるのですが…」
何やら言いにくそうにハウエルが体をよじらせている。
「?何かあるのか?」
「いえ、私たちはここに居てもよいのかお聞きしたくて…あなたが新領主様になられるのなら、私たちの行き先もあなたがお決めになるのかと…」
「ああ、そのことか。それだったらもちろんここに住んで構わないよ。いや、むしろ住んでもらいたいんだ」
「ほ、本当ですか?」
俺の言葉にハウエルの顔が一気に明るくなった。
「ああ、ここの住民はみんな屍人になってしまっただろ?俺が治めるにしても住民をどうしたらいいのか悩んでたんだ。こんなことになってしまってこの町に良い印象はないかもしれないけど引き続き住んでくれたら大歓迎だよ」
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