外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

2.マンドラゴラの漬物はたくあんに似ている

「マンドラゴラは魔法薬の材料になるんですけど、直接食べても美味しいんですよ。それに魔力が増大する効果もあるんです」


 家に戻った俺たちにカーリンは壺を持ってきた。




「採ってきたばかりのマンドラゴラは苦いから少し熟成しないといけないんですよね。保存方法は色々あるんですけど、これは干してから麦ぬかに漬けたものです」


 そう言って壺の中からマンドラゴラの漬物を出してきた。




「お茶受けにちょうどいいですよ」


「ふむ、変わった味だけど、意外といけますな」


「ちょっと癖があるけど美味しいですね!」


「もっと食べたい!」


 どうやらみんなにも評判が良いみたいだ。




「どうだテツヤは?気に入った…?な、何を泣いているのだ?」


 俺に感想を振ってきたアマーリアが仰天している。


 それも無理はない、俺がマンドラゴラを食べながらボロボロ涙を流していたからだ。




「これは…日本で食べたたくあんそのものだ!」


 そう、マンドラゴラの漬物は見た目も味も食感もたくあんそのものだった。


 つい地球のことが懐かしくなって泣けてしまったのだ。




「…そうか、テツヤは地球という世界でこういうものを食べていたのか」


「そう言われるとまた味わいが変わってくるな」


「異なる世界で同じ味のものがあるんて不思議で興味深いですね~」




 あれからしばらく俺たちは地球の話に花を咲かせ、みんな目を輝かせながら俺の地球での話を聞き言っていた。




「しかしこうなるとご飯が欲しくなるな。そういえばグランの村は雑穀の粥を食べていたっけ。それも良いかもしれないな!」


 俺はグランの村に行くことにした。


 目指すは雑穀粥にマンドラゴラのたくあんの付け合わせだ。




「みんなも行くか?」


「いや、私はこれから少し事務仕事を片付けなくてはならなくてな」


「私も町のみんなに剣術を教える約束をしていて」


「…そうか、じゃあキリは行くか?」


「うん!」


 キリが勢いよく頷いた。




 なんだかんだ言ってグランの村に行くのは嬉しいらしい。


 俺はカーリンさんからマンドラゴラのたくあんを分けてもらい、キリと共にグランの村へ向かった。








    ◆








「ったく、久しぶりに来たかと思えば飯をくれとか、お前だんだん図々しくなってねえか?」


「まあまあ、細かいことは言いっこなし。お土産を持ってきたんだからいいだろ」


 呆れたようなグランの小言を聞き流しながら俺はマンドラゴラのたくあんを齧り、雑穀粥を胃に流し込んだ。


 うん、やっぱりたくあんには穀物がよく似合う!




「しかしこいつは確かに美味えな」


 グランが感心したようにたくあんを齧っている。


「それ一本で金貨一枚分の価値があるんだから味わってくれよな。それはそうとマンドラゴラはこの辺に結構生えてるらしいけど採って売るつもりはないのか?」


「いや、そいつはあまり気乗りがしねえんだ。金になると分かれば色んな奴らが寄ってくるからな。良いことばかりでもねえんだわ」


「それもそうか」


 確かに下手に知られると気苦労の方ばかり多くなってしまうかもしれない。


 マンドラゴラの扱いに関してはグランの方針に従った方が良さそうだ。




「そんなことよりも折角来たんだからちょっと付き合えや」


 グランがにやりと俺に笑いかけた。








 グランに連れられてきたのは天然の露天風呂だった。


「この村にこんな場所があったのか!」


「こいつはオニ族の隠れ湯だ。村人以外を入れることはねえんだが、ま、お前さんは特別だ」


 そのお湯は俺たちの屋敷の温泉と同じようにとろりとした緑色をしていた。


 それでもやっぱり露天風呂に入るというのは格別で、心身ともにほぐれていくのがわかる。


 ふ~、お湯に浸かっていると俗世の色んな些事を忘れてしまうな……


「で、お前そろそろ子供は出来たのか?」


 唐突なグランの言葉に全身がお湯の中に滑り込んだ。




「ぶあっ!こ、子供って…、そんなの作るわけないだろ!」


「おいおい、あんだけ女と一緒に暮らしてるのは子作りのためじゃねえのかよ?」


「そそそ、そういうグランの方こそどうなんだよ?」


「俺?俺はかみさんが五人?子供が十八人いるからもう十分だな。しばらく女はいらねえよ」


 五人だあああ?




「この辺じゃ別に珍しいことじゃねえぞ。なあ?」


「ええ、この人くらいたくさんの妻がいるのは珍しいですけどね」


 頭上から声がした。


 振り仰ぐとそこには……オニ族の女性がにこやかな笑顔で立っていた。


 先ほどおかゆを作ってくれた人で、確か名前はミンレといったはず。


 おっとりと物静かで料理上手な人だ。


 ただし今は全裸で俺の前に立っている。


 そしてその後ろにはこれまた全裸のフラムが。






「でええええ!!!なななな、こ、ここって混浴なのかよ!」


「当たり前だろ。村人はみんな家族みたいなもんだぞ」


「そうですよ。仕事上がりにはみんなここに入りに来るのが習わしなんです」


 そう言ってミンレとフラムが湯船に入ってきた。


 お湯が緑に濁ってるとはいえ、め、目のやり場に困るぞ。




「まあゴルドの方じゃ一夫一妻制らしいがこの辺はワールフィアに近いからな。ワールフィアじゃ多夫多妻なんてところもあるらしいぜ?」


 そ、そうなのか……世界は広いな。


「と、ともかく俺はまだ二十歳はたちなんだ、結婚とかそういうのは考えたこともねえよ!」


「あら、そうなんですか?テツヤさんが年上でもいいなら私も立候補したかったのに」


 にこやかな笑顔のままでミンレがにじり寄ってくる。


 不味い、こういう話題は非常に不味い!




「お、誰か入ってるじゃん」


「一番風呂だと思ったのに~」


 不意に複数の若い娘たちの声が聞こえてきた。




「そろそろ娘っ子たちの入浴時間だな」


 グランがのんきにそんなことを言っている。


 あ、あんた自分の妻が人に粉かけてるのに平気なのかよ!


「ああ?別にそんなこと気にするかよ。まあ許すのは俺が見込んだ相手だけだがな。かみさんもちょっとやそっとの奴にはなびかねえよ」




 そうこうしている間にこっちへやってくる人の気配がどんどん増えてくる。


「…お、俺…、これで上がるから!」


 俺は風呂桶で前を隠しながら飛び出した。


 これ以上ここに居たら色んな意味で死んでしまう。








    ◆








「ミンレ、あんまりからかうんじゃねえよ」


「だって、テツヤさん可愛いんだもん。ついつい苛めたくなっちゃうのよね」


 グランの傍らでお湯に浸かりながらミンレが微笑んだ。




「え~、テツヤいたの?もっと早くこればよかった~」


「まだ近くにいるなら捕まえてくる?」


「入るなら入るって言ってくれればいいのにい」




 温泉に浸かりに来た村の娘たちが口を尖らせながらさえずっている。




「しっかしあの調子じゃあ多少強引に行かねえと道は遠いんじゃねえか?なあフラムよ」


 グランが近くの岩に腰かけていたフラムに話しかけた。


「…」


 無言で頷くフラム。


 その眼には何かを決意した光が輝いていた。



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