外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

41.狂気の終焉

「行くぞっ!」


 俺は走り出した。


 今度はワンドの周りをまわるように走り、同時に全方向から石槍を、石塊を降り注ぐ。


「無駄な真似を」


 当然それはワンドの術の前に全て無効化される。




「爆炎よ」


 ワンドの言葉に巨大な炎の塊が出現して俺に向かって襲い掛かってきた。




「くうっ」


 石壁を出現させて辛うじてそれを防いだものの、炎の熱であっという間に石壁が崩壊する。


 とんでもない熱量だ。


 どうやら全ての属性において最強クラスの実力を持っているというのは本当らしい。




「雷撃よ」


 襲い掛かる雷撃を剣を投げて何とか逸らす。




「うおおおっ」


 しかし雷の衝撃で吹き飛ばされた。




「時間稼ぎなどさせぬよ。水龍よ」


 ワンドがリンネ姫の方を振り向いて水の一撃を放とうとした。




「んん?」


 しかしその動きが止まる。


 リンネ姫の姿が消えていたからだ。


 先ほどの攻撃と同時にリンネ姫の周りにプリズムと鏡で壁を作り、簡易的な光学迷彩を張っていたのだ。




 この隙を待っていた!


 俺は胸に付けていたバッジを引きちぎった。


 一瞬でダーツへと変化させ、ワンドへ向けて投擲する。


 ダーツはワンドの鎧の隙間から入り込み、その首筋に突き刺さった。




「むおっ!?これは?」


「今だ!」




 狼狽えるワンドを見て俺はリンネ姫に合図を送った。


 魔力を込めたかんざしの影響ですぐには魔力を使えないはずだ!




「聖雷爆滅術式!」


 リンネ姫の声と共にワンドの周りが真っ白な光に包まれ、雷が全身に襲い掛かる。




「ぐ、ぐおおおおおっ!!!」


 ワンドの絶叫が響き渡った。








「やった…か?……そ、そんな……!」




 リンネ姫の言葉はしかし絶望の声に塗りつぶされた。


 そこには全く無傷のワンドが立っていたからだ。




「やれやれ、今のは多少堪えましたぞ。ちょいときつめのマッサージ程度でしたがな」


 絶望の表情を浮かべるリンネ姫を見てワンドが歪んだ笑みを見せた。


「どうしたのですか?もう終わりかな?」




 にじり寄るワンドにリンネ姫が後ずさった。


 だが俺がその肩を押しとどめた。


「いーや、おかげで間に合ったよ」








「なにぃ?」


 訝しむワンドをよそに俺はその背後に手を向けた。




 床が揺れ、地下から巨大な物体がせり上がってくる。


 一辺一メートル、高さ二メートルほどの角柱だ。


「なんじゃ、この何の変哲もないもの……ぬ、ぬおおお、こ、これは?」


 安堵したワンドの声が驚愕のそれへと変わっていく。


 同時にワンドはその角柱へと引き寄せられていった。




「ネオジム磁石、と言ってもわからないだろうな」


 そう、俺が作り出したのは地球上でもっとも強力と言われるネオジム磁石だ。


 ここが地下で土壌にレア鉱物が豊富に含まれていて助かった。




「ば、馬鹿な!」


 今やワンドは、というかワンドが身にまとっていた鉄製の鎧は完全に磁石に張り付けられていた。


 既に磁力によって変形しているために脱ぐこともできないだろう。


 このサイズのネオジム磁石だったら磁性体を引き寄せる力は数十トンを超える。


 いくらワンドが肉体強化をしていたとしても逃れられる強さではないし、魔力はワンドの首筋に突き刺したかんざしが封じている。


 今やワンドは標本にされた昆虫も同然だった。




「で、こいつはただの鉄の塊だ。こいつを磁石に近づけたらどうなるかは研究熱心なあんたなら知ってるよな?」


 そう言って俺は四方一メートルほどの鉄の塊を作り出した。


 それを見てワンドの顔が恐怖にひきつった。


 今から自分の身に起こる出来事を悟ったようだ。


 鉄塊は磁力に引かれ、じわじわとワンドへと向かっていく。


 やがて完全に磁界に捕らえられ、猛烈な速度で磁石へと、ワンドへと突進していった。




「や、止めろ、止めるんじゃ!儂にはまだやる事があるんじゃ!儂がいなければ魔導の研究はどうなる!生命の進化が百年、千年は遅れるのじゃぞ!いやああああああああっっ!!!!」


 それがワンドの最期の言葉となった。


 巨大な衝撃音と共に鉄塊と磁石が衝突し、粉々に砕け散った。


 己の生涯を魔導に捧げ、国すらもその手段にしようとした狂った魔導士の最期だった。






    ◆








「終わった…のか…?」


 俺たちはへなへなと床にへたり込んだ。


 正直言ってこの勝利はかなり運に助けられていた。


 あのかんざしがなければワンドは鉄塊を無力化できていただろうし、ネオジム磁石は熱に弱いから炎魔法を使われていたら磁石の効力もなくなっていた。




「何はともあれなんとか生き残ることができたな」


 俺の腕に抱かれたままリンネ姫が笑いかけてきた。


「ああ、これもリンネのお陰だよ」


「謙遜するな。お主がいなければ私は奴の手に落ち、いずれ王国すら奪われていただろう。お主がこの国を救ったのだ」


「そうでもないさ。みんなの力があってこそだ」


「だがお主が国を救ったのは事実だ。いよいよ救国の英雄となったな」


 そう言ってリンネ姫が立ち上がった。


「リンネ姫様~」「テツヤ~」「ご無事ですか~」


 上からみんなの声が聞こえてくる。


「どうやら向こうも片付いたみたいだな」


「みんなが来るまで待とう。正直もう魔力がすっからかんなんだ」


「ふふ、私もだ」


 リンネ姫はそう言ってワンドの亡骸に振り向いた。


「魔導に魅入られたものの最期か…一歩間違えれば私もこうなってしまうのかも知れぬな…」


 そう呟いて近寄ろうとする。


「ま、待っ…」


 止めようとしたけど遅かった。


 ネオジム磁石の磁力にリンネ姫の服についていた金具が全て引きちぎられて吸いついていった。


 留め具を失ったドレスはするりとリンネ姫の足下に落ちる。




 俺の目の前に下着一枚のリンネ姫が立っていた。




「き、貴様は……」


 顔を真っ赤にしたリンネ姫が拳を握りしめてわなわなと震えている。








「姫様!ご無事でしたか!」


 よりにもよってそこに護衛隊長のセレン含めみんなが降ってきた。




 座り込む俺と半裸のリンネ姫を見て固まっている。


 待て待て待て、これは不可抗力だ!


「ふ、ふ、ふ、不敬である……」


 声を震わせながらセレンが剣を抜いた。






「だから誤解だあああああああ!!!!!」




 カドモインの屋敷の地下に俺の悲鳴が木霊した。



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