外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

39.追放魔導士

「ほーっほっほっほ!儂のことを知っている人間がフィルドにおったとは!これは意外、いや愉快愉快!ほっほっほっほっほ!」


 リンネ姫の言葉にワンドが口を大きく開けて笑った。


 開いた口の中はまるで闇のように真っ暗だ。


「リンネ、こいつの正体を知っているのか!?」


「ああ、口にするのもおぞましいほどの呪われた魔導士よ」


 リンネが忌々しそうに口をゆがめた。


「当代一の魔導士と謳われたものの、倫理観が著しく欠如していて魔導の研究と称して魔族やヒト族相手に実験を繰り返してきた悪逆非道の徒よ」


「いやいや、酷い言われようじゃのう。まあ事実じゃからしょうがないが」


 リンネ姫の侮蔑に、しかしワンドは嬉しそうに肯定した。


「噂では魔界の一国を亡ぼすほどの悪行の果てに殺されたとも逃亡したとも言われていたが、まさかカドモイン領に潜んでいたとはな…」


「はっ!あれしきのことで非難される謂れはないわ!」


 リンネ姫の言葉にワンドが吐き捨てた。


「たかだか魔族の小国一つ実験で使い捨てた程度で儂のことを切り捨ておって!儂がワールフィアにどれほどの貢献をしてきたと思っておるのじゃ!」


 言いながら思い出したのか青筋を立てて地団太を踏んでいる。


「てめえ…正気かよ。たかだか魔法のために国一つだと…」


「たかがじゃと!?」


 俺の言葉にワンドが激高した。


「魔法、いや魔導こそが全ての生命が追及すべき究極へと至る道じゃぞ!魔導のためならそれ以外の全てが些末事じゃ!むしろ木っ端魔族の命が魔導の礎になるのじゃから感謝してほしいくらいじゃ」


「聖滅術式!」


 リンネ姫の発動した魔法だったが、これもワンドに届く寸前で霧散してしまった。


「ほっほっほ、聖属性の魔法か。これはちと惜しかったのう」


 ワンドが愉快そうに笑った。


「化け物めっ」


 リンネ姫が悔しそうに唇を噛んだ。


「目論見としては良かったのじゃがのう。察しの通り儂は姫様と相反する闇属性じゃ。本来であれば姫様の魔法は儂にとって天敵なのじゃがのう」


「本当なのか?」


 リンネ姫が頷いた。


「聖属性と闇属性は相克関係にある。本当ならば奴に私の魔法は防げないはずなのだ」


「同時に儂の魔法も姫様には防げない、そうであろう?」


 言葉を続けたワンドにリンネ姫が頷いた。


「それを防ぐとは…しかも高等魔族ですら一撃で屠る私の最大最強の魔法を」


 リンネ姫の魔力がどの程度かはわからないけど魔具を作ったりあれだけの治癒魔法を使えるのだからその力は並大抵のことではないはず。


 それをあっさり防ぐとは…




「ほっほっほ、然り然り!確かに先ほどの魔法はなかなか良かったですぞ!あれならば魔王と呼ばれるワールフィアの王たちをも退けられたかもしれませぬな」


 ワンドが枯れ木のような体を折り曲げて笑っている。


「しかし儂には効きませぬな。なにせ儂は全ての属性を使えます故」


「馬鹿な!全属性使いエンタイアリ―だと!あり得ない!それは自然の法則に反している!」


「その通り!儂は自然の法則に勝ったのじゃ!」


 驚愕するリンネ姫にワンドが唾をまき散らして吠えた。


「相克する属性をその身に宿せば肉体が崩壊するのは自然の道理!水と土、風と火のように合となる属性同士なら可能じゃが反となる属性同士を身に宿すのは不可能、それが魔導の常識じゃ」


「しかし、儂はその道理に打ち勝ったのじゃ!」


 ワンドががばっと胸元を開いた。


 しわくちゃであばら骨の浮いた体に無数の魔法陣が刻まれている。


「これがその証じゃ!儂は魔導を超えた魔導士となったのじゃ!」


 こいつ、正真正銘の化け物か。


「じゃからこんなこともできるぞい」


 言うなりワンドが俺に手をかざした。


 その手から炎と水流が同時に迸り、俺に向かってきた。


「ちいっ!」


 慌てて土壁を作り出す。


 しかしその土壁が一瞬で崩れた。


 目の前で炎と水が交差し、水蒸気爆発を起こして俺に襲い掛かる。


「がはっ!」


 俺は数メートル吹き飛んだ。


「無駄じゃよ。儂に魔法で対抗しようなどと思わぬ方が良いぞ」


 一瞬で俺の生み出した土壁を破壊するなんて、あらゆる属性を使えるというのは嘘じゃないみたいだ。


 しかも恐ろしく威力が強い。


 だからと言って諦める気はない!


 俺は天井、壁、床から数百本の石槍を生み出して全方向からワンドに向かって発射した。


「分かっておらんのう」


 ワンドのため息とともに俺の生み出した石槍が全て砕け散った。


「しょうがないから教えてやろうかの。儂の周囲二メートルは魔力完全無効術式の範囲下にあるのじゃ。じゃからどんなに魔法を向けても無駄じゃぞ」


 そう言ってワンドが指を鳴らした。


 同時にさっき俺が生み出したのと同じ数の石槍が俺に殺到してくる。


「うおおおおおおっ!!!」


 必死で砕いていったけど数が多すぎる!


 数本が俺の手を逃れて脇腹と胸、肩、足に突き刺さった。


「テツヤッ!」


 リンネ姫が駆け寄り、治癒魔法を唱えた。




「貴様、一体何が目的なのだ!なんのためにカドモインに取り入った!」


 リンネ姫がワンドを睨みつけた。


 そう言いながらも治癒魔法をかけ続ける。


 ひょっとしたら時間稼ぎをしてくれているのだろうか。


「なんのために?」


 ワンドが不思議そうな顔をした。


「そりゃフィルド王国を手に入れるために決まっておろう」



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