外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
32.フラム
「もう少し」
俺の問いにフラムが言葉少なに答えた。
俺たちは山の中を歩いていた。
夜中だったけど満月が辺りを照らしているから歩くのはさほど苦にならない。
それでも小一時間も歩いていると流石にどういうつもりなのか気になってくるぞ。
「着いた」
フラムの後をついて藪の中から出た俺はその光景を見て一瞬息を呑んだ。
そこは大きな滝のほとりだった。
周りをうっそうとして木々が覆っていて、そこだけ森の中にぽっかりと穴が開いたような場所だった。
天空から差し込む月明かりが水面を照らしてまるで日中のような明るさとなっている。
「凄いな。こんなところがあったなんて」
その美しさに言葉も忘れてしまいそうなくらいだ。
「ここは私たち山魔人の聖地。本当は山魔人以外入ってはいけない禁足地」
振り返るとフラムが服を脱いでいた。
「なっ!何してるんだよ!」
慌てて顔をそむける。
「何って、体を清めるのだけど?」
不思議そうに顔を傾けるとフラムはほとりの中へと入っていった。
全身を水に浸してその身を清めている。
その様子はまるで絵画のように風景に溶け込んでいて、思わず魅入られ 見入ってしまいそうだった。
やがてフラムは水の中から上がってくると濡れたまま持ってきていた襦袢のような真っ白な服を着こんだ。
「テツヤ、こっちを向いて」
む、向いてと言っても、フラムの着ている服は薄い生地で出来てるうえに濡れた体に羽織ってるからその、ところどころ透けてるんだけど……
俺はなるべくフラムの顔だけを見るようにした。
フラムが俺を見上げている。
濡れた髪と長いまつげが不思議な艶めかしさを放っている。
不意にフラムが跪いて両膝と両手、額を地面につけた。
「今この時から私はあなたのもの」
は?今なんて?
「私の命も身体もあなたに捧げると山の神に誓う」
いやいやいや、そういうことじゃなくて!なんでいきなりそんなことを?
「テツヤは私を助けてくれた。それに私の復讐を手伝ってくれた」
フラムが顔を上げた。
その眼が月光を映して紅く輝いている。
「テツヤがいなければ私は死んでいた。私の復讐は成らなかった。テツヤは私の恩人。だから私の命はテツヤのもの」
「待て待て、そう簡単に自分の命を人に預けるもんじゃないだろ」
俺の言葉にフラムが首を横に振った。
「山魔人は命の恩を決して忘れない。その恩には命をもって報いる」
「~~~~」
俺は頭をかきむしった。
これは困ったぞ。
この年で復讐を諦めなかった娘だ、断っても引き下がりっこないだろう。
しばらく考えて俺はフラムに問いかけた。
「フラムが俺のものになるのだとしたら、俺の命令はどんなことでも聞くんだな?」
フラムが頷いた。
「テツヤの意志は私の意志、私の身体はテツヤの身体」
「じゃあ…ここでフラムに命令する。自由に生きるんだ」
俺の言葉にフラムが目を見開いた。
「自由…に?」
「そう、フラムは復讐を済ませた。もう何かに囚われる必要はないんだ。だからこれからは自分の生きたいように生きるんだ。それが俺の命令だ」
フラムは俺の言葉にしばらく悩むように首をひねっていた。
今まで復讐しか頭になかった少女に好きなように生きろというのは突き放しすぎだっただろうか?
「わかった」
そんな風に悩んでいるとフラムがそう答えて立ち上がった。
「私はこれから自由に生きる」
「わかってくれたか!」
「だから私の命はテツヤのもの」
「いや、そうじゃないって!」
ううん、とフラムは頭を振った。
「これは今私が私の意志で決めたこと。私はテツヤのために生きる、そう決めた」
「そう決めた、と言ってもなあ」
「今日は八月の満月、山魔人の私は今日成人を迎えたから私は自分の人生を自分で決められる」
フラムの眼に迷いはなかった。
それに今までその眼の奥に燻っていた闇の炎のような輝きは消え、代わりに今夜の満月のような澄んだ光を放っている。
「……わかったよ。それがフラムの決めたことなら俺は何も言わないさ」
「うん」
フラムが頷いた。
「でも俺のために命をかけたりするのは駄目だ。それだけは絶対に許さないからな」
「わかった」
本当に分かったのだろうか?
「まあいいや。それじゃあそろそろ帰ろうぜ。今日は早く寝ないと」
「待って」
踵を返そうとした俺をフラムが呼び止めた。
「今日は成人の儀式で山の神様に誓いをする日。まだ最後の儀式が終わってない」
「儀式って?」
フラムが唇を噛んだ。
そしていきなり抱きついて血が滴る唇を俺の唇に押し付けてきた。
「フラッ?」
ム、と言おうと開いた俺の唇に小さく鋭い痛みが走る。
フラムが俺の唇を噛んだのだ。
口の中に鉄の味が広がる。
しばらくしてからフラムが唇を離した。
「成人の儀式は山の神様に誓いを立てて見届け人と血を交換をする。それがしきたり」
そ、そういうものなのか。
…待て、じゃあ別にキスする必要はなかったんじゃ?
「それは私がしたかったから」
そう言ってフラムが微笑んだ。
それは屈託のない少女そのものの笑みだった。
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