外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
30.リュースという女2
「そ、あの辺一体魔力が封じられてるんだよね。だからあそこから先は魔法が使えないよん」
俺の問いにリュースが先ほど捕まえた野兎の肉を頬張りながら答えた。
俺たちは森の中で焚火を囲んでいた。
すっかり日が落ち、辺りを闇が包んでいる。
「でもさっき俺の力は使えたぞ?」
「それはたぶん魔力障壁が空間に対して張られてるからだと思うな。さっきのテツヤの力は地面に対して使ってたから大丈夫だったんじゃないかな」
そういうこともあるのか。
オーガウルフに突っ込んでいった時は慣性の力だったから気付かなかったな。
今は魔力障壁の範囲から抜け出ているために魔法が使えるようになっている。
「それよりもさ、テツヤあたしを助けに来てくれたんだ」
「勘違いすんな。お前にはまだ聞きたいことがあるから助けただけだ。お前、誰の指図で動いてるんだ?」
俺はにじり寄ってきたリュースの顔を手で押し返した。
「ん~、それはちょっと言えないんだよね~」
リュースは顎に指を抑えて目を逸らした。
「ふん、だと思ったよ」
俺は焚火の中に薪をくべた。
「あれ、尋問しないの?」
「女を痛めつける趣味はねーよ。それにしたところでお前は喋らないだろ」
「それはそうなんだけどね~。でもあたしとしてはテツヤとだったら多少アブノーマルなボディコミュニケーションでも全然オーケーだよ?」
「くだらないこと言ってないでさっさと寝ろ」
「ちぇ、つまんないの」
リュースはごろりと寝転がった。
リュースの柔らかな曲線を描く体のラインが焚火の光に浮かび上がる。
「全く、こんなところでお前と一夜を明かすことになるなんて」
俺はリュースの身体から目を逸らしつつ焚火に薪をくべた。
結局リュースを連れて戻ろうとしたものの、途中で日が落ちてしまったから森の中で一夜を明かすことになったのだ。
「それよりもさ、テツヤってば帰還者なんでしょ?どんな世界に行ったの?」
リュースが目をキラキラさせながら聞いてきた。
「そんなこと聞いてどうすんだよ。っていうかどっから知ったんだよ」
「それはね~、秘密♥」
「全く、都合のいい奴だな」
俺はため息をついた。
◆
「……まあこんな感じでこっちに戻ってきたって訳だ」
結局俺は地球での日々をリュースに話した。
他にやる事もなかったし。
「いいな~あたしもそういう異世界に行ってみたいな~。そうしたらもっと自由に生きられるんだろうな~」
いつの間にか横に座っていたリュースが天を仰いだ。
空には無数の星が煌めいている。
「お前以上に自由な奴なんか見たことないぞ。つーか地球でもお前より自由な奴はいなかったっての」
「あたしにだって色々あるんだよ」
焚火の薪が爆ぜて辺りに火の粉を散らした。
「自由か…自由ってそんなに良いもんでもないと思うぞ」
「え~、そう?」
「自由っていうのは何でもできるってことかも知れないけど、それは結局のところ自分以外の意志が全く介在しないってことだろ?それは孤独じゃないか?」
「そうかなあ?誰にも指図されずに生きていけるって素敵じゃない?」
リュースが不思議そうな顔でこちらを見てきた。
「確かにな。俺だって誰かに無理やり動かされるのは嫌さ。でも俺のことを信じてくれる人がいて、その人たちの期待に応えようと動くのは指図されるのとは違うだろ?」
「自由に生きるというのはそういう人たちの気持ちよりも自分の気持ちを優先することだ。その行動の果てには孤独しか待っていないだろ」
「それは…そうかもしれないけど」
「どんなに自由でも近くにそれを見て知ってくれる人がいないんじゃその行動に意味なんかないと思う。俺の行動に意味を持たせてくれるのは人との繋がりなんだ…と思う」
そうかな…とリュースは呟いた。
「でもあたしにはそういう人がいないや…」
「それはお前が今までそういう行動をとってきたからだろ。誰かのために動けばお前を信じれくれる人だって現れるさ」
「じゃあさ、あたしがテツヤのために何かしたらテツヤはあたしのことを信じてくれる?」
リュースががばっと身を起こしてこちらを見てきた。
「それはどうかな。お前は散々迷惑かけたからな。その評価を覆すのは並大抵のことじゃ無理だぞ?」
「ちぇ、意地悪」
舌打ちをしてリュースは再び寝転がった。
「そんなことよりもさっさと寝ろよ。明日は早くに戻るからな」
「テツヤは寝なくていいの?一緒に添い寝してあげよか?」
「うるせえっての。お前を放って寝られるかよ。ここで見張っててやるからさっさと寝ろ!」
「もう、いけずなんだから。でもテツヤのことを教えてくれてありがとね?」
「はん、そう思うんだったらお前の黒幕を教えやがれってんだ」
「それは無理」
リュースは屈託のない笑みを浮かべた。
「でも、お礼にこうしてあげるね」
そう言った途端、俺の顎が軽く摘ままれたかと思うと唇が塞がれた。
塞いでいるのはリュースの唇だ。
舌が俺の口の中に侵入してくるとともに俺の脳裏に次々と映像が浮かんできた。
目の前にやせ細った老人が見える。
カドモイン辺境伯だと何故か理解した。
リュースに俺を殺すように命令している?
リュースが唇を離すと映像は途切れた。
「て、てめ…これは、どういう……?」
「話すことは禁じられてるだけどねえ?そう言えば見せるのは禁じられてなかったかなあと思って」
リュースがいたずらっぽく舌を出した。
これは本当のことなのか?それともリュースがまた俺を欺こうとしているのか?
俺はリュースを見た。
リュースの顔からは何もうかがい知れない。おそらく聞いても無駄だろう。
だが俺にはさっきの映像が本当だという不思議な確信があった。
そしてリュースがカドモインに強烈な制約を課せられているということも。
魂と縛り付けられているような強力な制約だ。
リュースが俺を執拗に狙っていたのはこれが理由なのか?
俺は頭を振った。
今はそんなことを悩んでいる暇はない。
「どうするつもり?」
踵を返した俺にリュースが聞いてきた。
「トロブに戻る」
「こんな夜に?」
「もうすぐ夜が明ける、それに方角は大体わかってるしな。それよりもお前はどうするんだ?一緒に来るか?」
俺の問いにリュースは困ったような笑みを浮かべた。
「一緒に行くわけにはいかないんだよねえ。そしたらテツヤを殺さないといけなくなっちゃう」
「良いさ、教えてもらうことは教えてもらったからあとはお前の好きにしろよ。でも俺たちの邪魔をするんならその時は容赦できないぞ?」
「わかってるって。あたしはここから徒歩で帰るよ。カドモインは遠いからしばらくかかっちゃうだろうなあ。でもまた会ったら遊んでよね?」
リュースが満面の笑みで応えた。
「全く、食えない奴だな」
俺は苦笑して宙に舞い上がった。
「いまさら言うことじゃないけど、気を付けろよ!」
「じゃーねー」
リュースの声を背に俺はトロブへと向かった。
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