外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

25.悪意の来訪

 それから数日は平和な日々が続いていた。


 リンネ姫はカーリンの元に出ずっぱりでたまにトロブの町に戻ってきては俺の屋敷かヨーデン亭で温泉に浸かるという日々を送っていた。


 俺の様子を見るとはなんだったのか。


 俺としてはあれこれ突かれることもなかったので気楽なものであり、たまにリンネ姫に付き合って周囲を案内したりしていた。


 そんなある日、再びイノシロウが屋敷に飛び込んできた。




「た、大変だ!ワールフィアからケンタウロスが攻めてくるぞ!」


 ワールフィア、それはトロブのすぐ横にある国で住人がほぼ魔族で構成されていることからヒト族の国からは魔界と呼ばれている。


 現在ワールフィアはフィルド王国とほとんど交渉がないと聞いているけど酷く嫌な予感がする。




「お頭はもう来ているからテツヤさんも付き合ってくれ!」


 言うまでもなく俺はすぐにグランの拠点へと向かった。






「今朝俺がワールフィアに潜り込ませている偵察から連絡があった。奴らは武器を揃えて一両日中にもこっちに攻めてくる算段らしい」


 グランがいつになく険しい顔をしている。


「その、ケンタウロスってのは何者なんだ?いや、ケンタウロスがどんな種族かは知ってるけど、なんでここを狙ってくるんだ?」


 半人半馬族ケンタウロス、魔界に住む種族の一つだけど見たことはまだない。


「ワールフィアってのは国と言っても色んな部族がそれぞれの縄張りを持ってるんでさ。そのケンタウロスってのはバルバルザって奴が仕切っていて、前からこの辺を狙ってちょっかいを出してきやがるんで」


 イノシロウが説明してくれた。


「ここは魔界…ワールフィアからも狙われてるのか。そのバルバルザってのはどんな奴なんだ?」


「最低な野郎ですよ!手前らのためだったら魔族だろうとヒト族だろうとお構いなしだ。女子供だろうと平気で手にかけて売り飛ばしちまう、悪魔だってあいつらに比べたらまだ優しいぜ」


 イノシロウが吐き捨てるように言った。


「……あいつらは…私が殺す」


 フラムが突然立ち上がり、外に出ていった。


「お、おい…」


「ほっといてやれ」


 突然のフラムの豹変に戸惑う俺をグランが制した。


「あいつの両親はバルバルザに殺されてるんだ。あいつにとっては不俱戴天の仇なんだよ」
 そうだったのか。


「それにしてもワールフィアに偵察なんか出していたのか」


「ふん、この辺は物騒だと言っただろ。先に動きを読んだ方が勝つってのは戦いの基本だろうが」


 粗野な割に意外と細かいことを考えるんだな。


 いや、それだけこの地方が戦いを経てきているということなのか。


「それで、そのバルバルザという輩は交渉に応じるようなタイプなのか?」


 リンネ姫が尋ねるとグランは鼻を鳴らして笑った。


「あいつに交渉するくらいならイノブタに畑を荒らすなと交渉した方がまだマシだ」


「…なるほど、交渉の余地はないということか」


 リンネ姫が俺を振り返った。


「テツヤ、お主にとって初めての戦になると思うが、やれるか?」


「やれるかやれないかじゃない、やるかやらないか、だろ?」


 俺は立ち上がった。


「ケンタウロスについてありったけのことを俺に教えてくれ。今から準備に入ろう」








    ◆








 翌日、俺たちはフィルド王国とワールフィアの国境沿いに集まっていた。


 レンガで引かれた国境線が長く伸びているがそのレンガも半ば崩れていて、この二国が長らく没交渉であったことを窺わせる。


「来たぜ」


 グランが遥か地平を見て唸った。


 俺も凄い速度で近づいてくる集団を感知していた。


 二百五十、いや三百体はいるだろう。


 比べてこっちの戦力はグランの兵隊と町からの志願兵の合わせて百名程度だ。


 王立騎士隊は全てリンネ姫の護衛についていて万が一の時には即座に避難する手はずとなっている。


 アマーリアとソラノがいるとはいえ、昨日の話ではケンタウロスというのは機動力、筋力に優れていて戦闘能力が恐ろしく高いらしい。


 しかも魔法耐性がずば抜けて高くて半端な魔法攻撃では傷一つ負わせられないのだとか。


 戦力には圧倒的な差があったけど俺には一つの策があった。








 やがて地平線の彼方に砂ぼこりが出現し、それが徐々にこちらに近づいてきた。


 ケンタウロスだ。


 バルバルザ率いるケンタウロスは全身を鎧で覆い、手に手に武器と盾を持っている。


 完全に戦闘態勢だ。


 しかも恐ろしく早い。




 バルバルザは瞬く間に俺たちの前までやってくると立ち止まった。






 でかい。






 体高は二メートルを優に超え、頭までの高さは三メートル以上あるだろう。


 地球上で最大とされる馬の体高が二百十九センチだそうだけど、おそらくそれよりもでかい。


 ざんばら髪を背中に垂らして髭面の顔には刀傷が走っている。




 俺たちは国境から少し離れたところにいたのだけれど、完全にその国境を無視して入り込んできている。


「グランじゃねえか。まだ生きてたのかよ」


 バルバルザはグランの顔を見て凶悪な笑みを浮かべた。


「手前こそ何の用だ」


 グランが牙をむきだしながら吠えた。


 まるで二頭の巨大な獣が威嚇しあっているようだ。


「はん、最近この辺の羽振りが良くなったと聞いたからよ。ちょいとおこぼれを貰いに来たのよ」


 やっぱりか。


 そんな気はしていたけど、やはり俺が来たことでこういう者を呼び寄せてしまったのか。


 その時俺の手が優しく掴まれた。


 振り返るとソラノが立っていた。


 言葉は交わさなかったけどその顔を見れば気持ちが伝わってきた。


 大丈夫、今の俺のやるべきことはわかっている。


 俺が頷くとソラノも力強く頷き返してきた。






 その時、人混みから一筋の光が煌めいたと思うとバルバルザに向かって飛んでいった。


 ナイフだ。


 しかしバルバルザはそのナイフを見ることすら弾き落とした。


 とんでもない反射神経だ。


「誰だ!?」


 その言葉に人混みをかき分け前に進む影があった。


 フラムだ。


 全身から怒りをみなぎらせている。


「我が両親、トイノとレイシの仇、今ここで果たす!」


 鬼のような形相でバルバルザを睨みつけている。


「誰だあ?そいつらは?あんまり殺しまくったんで覚えてねえなあ?」


 しかしバルバルザは意に介さないと言うように耳をほじくっている。


「貴様ぁっ!」


 怒りを沸騰させながら突っかかっていきそうになるフラムを俺は抱えるように制した。


「放せ!あいつは私が殺す!殺してやる!」


「落ち着け!仇は絶対に討たせてやるから、今は我慢するんだ!」


 俺は暴れるフラムを必死になだめた。




「はん、威勢のいい子娘だな。その元気に免じて生かしておいてやるぜ。ただし俺たちの慰み者としてな」


 バルバルザの下品なジョークに率いるケンタウロスが下卑た哄笑をあげた


 やっぱりこいつらに交渉は無駄みたいだ。




「まあ、いきなり刃を向けられた以上こっちも引くわけにはいかなくなっちまったな」


 バルバルザの言葉を合図に俺はグランに目配せをした。


 いよいよ始まりだ。


 グランが吠えた。


「退却だ!」



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