外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
20.がっかり豆
それから数日はしばらく嵐の復旧のために領地を回っていた。
嵐の被害は小さくはなかったけど幸いにも取り返しがつかないような被害はなく、風で崩れた家や土砂崩れで塞がった道を復旧させる程度で済んでいた。
そしてその復旧は俺がトロブ地方の住民に顔を覚えてもらえるという効果もあった。
更に言うと各地を回ることでトロブ地方の状況を知ることもできた。
回ってみて分かったのだけど、トロブ地方にはこれといった産業がないらしかった。
土地が痩せているために蕎麦などの雑穀や豆しか育たず、さらに山地であるために農耕面積も少なかった。
ヨーデンに話を聞いたところ、この地域は魔界に近いために土中の魔素が濃く、そのせいで通常の作物が育ちにくいのだとか。
何とか産業を見つけて地域全体の収益をあげる、それが領主としての当面の仕事になりそうだ。
そんなある日、トロブの町外れにある農村地帯を回っていると不意に頭が痛くなるような甘い匂いが漂ってきた。
「な、なんなのだ?この匂いは?」
アマーリアとソラノが鼻をつまみながら顔をしかめている。
その匂いは畑の脇に積み上げられた枯草から漂っていた。
俺の背丈ほどもある灌木のような植物で豆のような莢をびっしりつけている。
甘い匂いはその莢から漂っていた。
「おーい、これは何の匂いなんだ?」
俺は近くにいた農民に声をかけた。
「そいつはがっかり豆でさあ。甘い匂いはする割に味が全然しねえ、だからがっかり豆っていうんで。枯れてくると特に匂いがきつくなるんでいつもは燃やしてるんですが、嵐の片付けてすっかり遅れちまって…」
なるほど、こいつは雑草なのか。それにしてもこの匂い、どこかで嗅いだことがあるような……
そこで俺はハタと気付いた。
「おじさん、この豆を少し貰ってっていいかな?あと燃やすのはもう少し待ってくれないか?」
「へ、へえ、そんなもの持っていってもらった方がありがたいくらいですが、いったい何に使うんで?」
「そいつはこれからのお楽しみだよ」
俺はその足で森に住む魔女、カーリンの元へ向かった。
「これはこれはテツヤさんようこそいらっしゃました」
カーリンは相変わらず森の奥の家に住んでいた。
「お陰様ですっかり元通りになりましたよ。あの節は本当にありがとうございました」
家にやってきた俺たちにカーリンがお茶を出して迎えてくれた。
どうでもいいがなんでこのお茶は紫色をしてるんだ?
「いえいえ、そんな大したことは。それよりもこれを見てほしいんです」
俺はそう言ってがっかり豆の莢をテーブルの上に置いた。
「これはがっかり豆と呼ばれているものですね、正式な名前はまだなかったはずですけど、魔素の濃い土地で一定条件の気候でしか育たないのでこの辺にしか生えていない植物ですよ」
「やっぱりそうだったのか。これって何か薬草とかそういう使い道はないですかね?」
「うーん、ここに移り住んだ時に調べてみたんですけど、匂い以外にこれといった特徴があるわけじゃないんですよねえ。匂い自体は乾燥させればさせるほど強くなりますよ」
そう言ってカーリンは部屋の奥の棚からガラス瓶を取ってきた。
「何かの研究に使えるかと思って持ってるんですけど匂いが強いからガラス瓶に入れてるんです」
そう言ってガラス瓶の蓋を開けると凄まじいほどの甘い香りが部屋を満たした。
「こ、これは、凄いものだな」
「甘い香りは嫌いじゃないけど、これはちょっと」
アマーリアとソラノはその匂いを嗅いで目を白黒させている。
「カーリンさん、それをガラス瓶ごといただけませんか?代わりにさっき貰ってきたこれを全てあげますので」
俺はそう言ってテーブルの上にがっかり豆の莢をどっさり置いた。
「別にそれは構いませんけど、何に使うんですか?」
「それはこれからのお楽しみです」
俺はさっきと同じ台詞を言ってウインクをした。
◆
数日後、俺たちは屋敷の台所に集まった。
カーリン、ヨーデンにも来てもらっている。
テーブルにはキリの作ったホイップクリームが入ったボウルが鎮座している。
「これはカーリンさんからもらった乾燥させたがっかり豆の莢をアルコールに漬け込んだものです」
俺はテーブルの上にガラス瓶を置いた。
中には少し褐色がかった液体とがっかり豆の莢が入っている。
「こいつをホイップクリームの中に一たらし入れます。キリ、こいつを更に攪拌してくれ」
キリがその液体を入れたホイップクリームをかき混ぜると部屋中に何とも言えない甘い香りが漂ってきた。
「こ、これは……!」
ソラノが驚きの声をあげる。
「まるで甘さを匂いにしたみたいだ!
俺は頷いた。
このがっかり豆の匂い、その正体はバニラの香りの主成分であるバニリンそのものだ。
味そのものはないというかむしろ不味いのだけど香りは他には代えがたいものがある。
「これは…匂いが変わるだけでこんなにも印象が変わるのか!」
「今までのホイップクリームも美味しかったけど、これはもはや別物だ!」
「これは今まで食べたお菓子の中で一番美味しいですね」
がっかり豆のエッセンスを入れたホイップクリームを食べたみんなが口々に驚きの声をあげた。
「がっかり豆はこの辺でしか採れない。だからこれはトロブ地方の特産品になると思うんだ。これは凄い利益を生むぞ」
「た、確かにこれは凄いですな。まさかそこらの道端に生えているこの草からこんなものが作れるなんて…」
ヨーデンが感心したようにため息をついた。
「でもがっかり豆という名前だとちょっと良い印象はないですね。何か良い名前があればいいんですけど」
「それだったら実はもう決めてるんだ」
カーリンの言葉に俺は笑みを返した。
「この植物の新しい名前はバニラ、そしてこのバニラを漬け込んだものの名前はバニラエッセンスだ」
嵐の被害は小さくはなかったけど幸いにも取り返しがつかないような被害はなく、風で崩れた家や土砂崩れで塞がった道を復旧させる程度で済んでいた。
そしてその復旧は俺がトロブ地方の住民に顔を覚えてもらえるという効果もあった。
更に言うと各地を回ることでトロブ地方の状況を知ることもできた。
回ってみて分かったのだけど、トロブ地方にはこれといった産業がないらしかった。
土地が痩せているために蕎麦などの雑穀や豆しか育たず、さらに山地であるために農耕面積も少なかった。
ヨーデンに話を聞いたところ、この地域は魔界に近いために土中の魔素が濃く、そのせいで通常の作物が育ちにくいのだとか。
何とか産業を見つけて地域全体の収益をあげる、それが領主としての当面の仕事になりそうだ。
そんなある日、トロブの町外れにある農村地帯を回っていると不意に頭が痛くなるような甘い匂いが漂ってきた。
「な、なんなのだ?この匂いは?」
アマーリアとソラノが鼻をつまみながら顔をしかめている。
その匂いは畑の脇に積み上げられた枯草から漂っていた。
俺の背丈ほどもある灌木のような植物で豆のような莢をびっしりつけている。
甘い匂いはその莢から漂っていた。
「おーい、これは何の匂いなんだ?」
俺は近くにいた農民に声をかけた。
「そいつはがっかり豆でさあ。甘い匂いはする割に味が全然しねえ、だからがっかり豆っていうんで。枯れてくると特に匂いがきつくなるんでいつもは燃やしてるんですが、嵐の片付けてすっかり遅れちまって…」
なるほど、こいつは雑草なのか。それにしてもこの匂い、どこかで嗅いだことがあるような……
そこで俺はハタと気付いた。
「おじさん、この豆を少し貰ってっていいかな?あと燃やすのはもう少し待ってくれないか?」
「へ、へえ、そんなもの持っていってもらった方がありがたいくらいですが、いったい何に使うんで?」
「そいつはこれからのお楽しみだよ」
俺はその足で森に住む魔女、カーリンの元へ向かった。
「これはこれはテツヤさんようこそいらっしゃました」
カーリンは相変わらず森の奥の家に住んでいた。
「お陰様ですっかり元通りになりましたよ。あの節は本当にありがとうございました」
家にやってきた俺たちにカーリンがお茶を出して迎えてくれた。
どうでもいいがなんでこのお茶は紫色をしてるんだ?
「いえいえ、そんな大したことは。それよりもこれを見てほしいんです」
俺はそう言ってがっかり豆の莢をテーブルの上に置いた。
「これはがっかり豆と呼ばれているものですね、正式な名前はまだなかったはずですけど、魔素の濃い土地で一定条件の気候でしか育たないのでこの辺にしか生えていない植物ですよ」
「やっぱりそうだったのか。これって何か薬草とかそういう使い道はないですかね?」
「うーん、ここに移り住んだ時に調べてみたんですけど、匂い以外にこれといった特徴があるわけじゃないんですよねえ。匂い自体は乾燥させればさせるほど強くなりますよ」
そう言ってカーリンは部屋の奥の棚からガラス瓶を取ってきた。
「何かの研究に使えるかと思って持ってるんですけど匂いが強いからガラス瓶に入れてるんです」
そう言ってガラス瓶の蓋を開けると凄まじいほどの甘い香りが部屋を満たした。
「こ、これは、凄いものだな」
「甘い香りは嫌いじゃないけど、これはちょっと」
アマーリアとソラノはその匂いを嗅いで目を白黒させている。
「カーリンさん、それをガラス瓶ごといただけませんか?代わりにさっき貰ってきたこれを全てあげますので」
俺はそう言ってテーブルの上にがっかり豆の莢をどっさり置いた。
「別にそれは構いませんけど、何に使うんですか?」
「それはこれからのお楽しみです」
俺はさっきと同じ台詞を言ってウインクをした。
◆
数日後、俺たちは屋敷の台所に集まった。
カーリン、ヨーデンにも来てもらっている。
テーブルにはキリの作ったホイップクリームが入ったボウルが鎮座している。
「これはカーリンさんからもらった乾燥させたがっかり豆の莢をアルコールに漬け込んだものです」
俺はテーブルの上にガラス瓶を置いた。
中には少し褐色がかった液体とがっかり豆の莢が入っている。
「こいつをホイップクリームの中に一たらし入れます。キリ、こいつを更に攪拌してくれ」
キリがその液体を入れたホイップクリームをかき混ぜると部屋中に何とも言えない甘い香りが漂ってきた。
「こ、これは……!」
ソラノが驚きの声をあげる。
「まるで甘さを匂いにしたみたいだ!
俺は頷いた。
このがっかり豆の匂い、その正体はバニラの香りの主成分であるバニリンそのものだ。
味そのものはないというかむしろ不味いのだけど香りは他には代えがたいものがある。
「これは…匂いが変わるだけでこんなにも印象が変わるのか!」
「今までのホイップクリームも美味しかったけど、これはもはや別物だ!」
「これは今まで食べたお菓子の中で一番美味しいですね」
がっかり豆のエッセンスを入れたホイップクリームを食べたみんなが口々に驚きの声をあげた。
「がっかり豆はこの辺でしか採れない。だからこれはトロブ地方の特産品になると思うんだ。これは凄い利益を生むぞ」
「た、確かにこれは凄いですな。まさかそこらの道端に生えているこの草からこんなものが作れるなんて…」
ヨーデンが感心したようにため息をついた。
「でもがっかり豆という名前だとちょっと良い印象はないですね。何か良い名前があればいいんですけど」
「それだったら実はもう決めてるんだ」
カーリンの言葉に俺は笑みを返した。
「この植物の新しい名前はバニラ、そしてこのバニラを漬け込んだものの名前はバニラエッセンスだ」
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