外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
7.トロブ地方
道中でアマーリアにトロブ地方の事を色々教えてもらったけど、どうやらこの地方に町といえる町は一つしかなく、人口は千人程度なのだとか。
町の名前はそのままトロブと呼ばれている。
俺たちが到着したのもそのトロブという町だった。
町といっても人口千人では村とほとんど変わりがない。
中心に多少幅広い道が走っていてその周囲に店が数軒建っている、そんな町だった。
その道も石畳が敷かれているわけじゃなく普通に未舗装であちこちに水たまりができていて、たまに通る荷馬車が盛大に水しぶきをあげている。
町は閑散としていて俺たちを出迎えるものもいなかった。
「おかしいな。私たちが来るという連絡はこちらに届いているはずなんだが」
アマーリアがきょろきょろと辺りを見渡している。
その時、通りの向こうから太った男がよたよたと近づいてくるのが見えた。
「すいませ~ん、お待たせしてしまいました」
口ひげを生やした人の良さそうなその男はヨーデンと名乗った。
この町で宿屋を経営しながら町長も兼任しているらしい。
「申し訳ありません!こんなに早く来られるとは思っていなくて…何の準備もできておりませんで」
ヨーデンは平謝りに謝りながら俺たちを案内してくれた。
確かに普通の馬車だったら一週間以上かかる旅になっていたからそれは仕方がないかも。
ヨーデンに案内されながら町を歩いているとソラノが耳打ちしてきた。
「テツヤ、この町は何かおかしくないか?」
「おかしいって、どこが?」
「なにか歓迎されていないというか、よそよそしい空気を感じるのだ」
「流石は風属性使いだな。そういう空気も感じられるのか」
「茶化すな!」
実際の所ソラノの意見ももっともだった。
通りを歩いているだけで値踏みをされているような、監視するような視線を四方八方から感じる。
「でもまあいきなり新しい領主が来た、なんて言われたら誰だって戸惑うんじゃないか?」
「それはそうなんだが…」
「そんなことよりも…やっぱりこの服着ないと駄目か?」
「当たり前だ。それは我が国の執政者が着る正式な礼服だぞ。テツヤが領主だと知らしめるにはその格好?が一番だ」
「それはそうかも知れないけど、こういう服は肩が凝るんだよなあ」
俺はそう言って肩を回した。
俺が今着ているのは体にぴったり合った覚めるような青色の詰襟の上着にごわごわした分厚い木綿のズボンだった。
上着は金ボタンで留められていて襟や胸元には金糸で豪奢な刺繍が施されている。
「なかなか似合っているぞ」
アマーリアが振り返って微笑んできた。
アマーリアとソラノも同じように詰襟の軍装だが流石に着慣れているだけあって様になっている。
それに引き換え俺の方はどうも服に着られている感がぬぐえない。
キリはアマーリアの屋敷でもらってきた可愛らしいフリルのドレス姿だ。
町自体は非常に小さく、ものの数十分で全体を回れてしまう広さだった。
「とりあえず今夜は我がヨーデン亭にお泊りください。なに、こんな田舎町なので年中開店休業状態ですから」
ヨーデンがそう言って愛想笑いを浮かべた。
ヨーデン亭は小さいながらもこざっぱりした宿だった。
風呂がないことにアマーリアがぶーぶー文句を言っていたけど俺としては部屋に水桶を持ってきてもらっただけでもありがたい。
宿屋の食堂でパンとスープ、肉料理という簡素ながらなかなか美味しい食事をとった後で俺は一人町を歩いてみることにした。
領主といっても何をしたらいいのか皆目見当がつかない以上まずは自分の脚で確かめないと。
日が暮れると町は一気に闇に包まれる。
ゴルドは王都だけあって夜になっても大きな通りは光の魔石を使った街灯が明るく照らしていたけどこの町では街灯もわずかしかない。
そんな中で明かりのついているお店があったので入ってみることにした。
想像通りそこはバーを兼ねた料理屋で、中に入るなり先客が一斉にこちらに視線を向けてきた。
獣人、ドワーフ、ハーフリング、カエル頭のフロッグ族までいる。
この町はずいぶん魔族が多いんだろうか?
店主も鳥の頭と翼を持った有翼鳥頭族の女性だ。
「なんかお勧めの飲み物と軽く摘まめるものをくれないか」
俺はカウンターに座って店主に話しかけた。
店主は黙って頷き、まもなく陶器のコップに入ったエールとチーズが目の前にやってきた。
エールもチーズも悪くない味だ。
「よおよお、あんた新しい領主なんだってな」
一人飲んでいるとテーブルに座っていた獣人が近づいてきた。
猪頭のバグベアだ。
「ああ、これからよろしく頼むよ」
「じゃあ俺から領主様へ奢りだ」
言うなり頭に冷たいものが降ってきた。
バグベアが持っていたエールを俺の頭に注いできたのだ。
奥のテーブルから笑い声が響き渡り、店主がため息をついた。
「悪いことは言わねえ、さっさと王都に帰った方が身のためだぜ」
バグベアが顔を近づけ酒臭い息を吹きかけてきた。
まあ歓迎されていないとは思っていたけどね。
「ご忠告ありがとう。お礼に俺からも奢らせてもらおうかな」
言うなり俺は持っていたカップをバグベアのマズルに被せた。
カップの形状を外れないように変化させる。
「むぐっ!?むごごごご!」
エールがたっぷり入ったコップで口と鼻に塞がれてバグベアは悶絶している。
「てめっ…!」
ただならぬ状況を察して残りの魔族が立ち上がろうとしたものの、直前でその動きが止まる。
俺が彼らの使っていたナイフとフォークでシャツの袖とテーブルを縫い付けていたからだ。
「い、いつの間に……?」
俺は床の上でもがいているバグベアの口からカップを取り外した。
「これからよろしく頼むよ」
そう言ってカップとバグベアの牙を鳴らす。
「……チッ!おいてめえら、さっさと行くぞ!」
しばらくぽかんとしていたバグベアだったが、やがてその顔を羞恥心で歪ませると仲間と共に荒々しい音をたてながら店から出ていった。
「あんた、大変なことをしちゃったよ」
店主が再びため息をついた。
俺がその言葉の意味を理解したのは翌日だった。
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