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外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

45.反撃開始だ

 頭の上から男たちの声が聞こえてきた。


「おい、良いのかよ、任務中だぜ」


「構わねえって。どうせこの城は既に制圧したんだ。それに腹が減ってはと言うだろ?」


 どうやら反乱兵たちらしい。


 男どものだみ声が近づいてくる。


 俺たちは眼を見合わせた。




「へ、おめえの場合は腹じゃなくて酒の方だろ」


「腹に入れるんだから一緒だろ」


「ちげえねえや!」


 ゲラゲラ笑いながら扉の近くまで来ている。


 扉は開かないようになっているけど下手に開けないでいると不審に思われるのは間違いない。




「どうする?今のうちに行くか?」


「いや、これは逆にチャンスかもしれないぞ」


 アマーリアの問いに俺は辺りを見渡し、床に置かれていた一抱えほどの壺を取り上げた。


 二人も俺の目的をすぐに察し、武器になりそうなものを手にすると扉の陰に潜んだ。


 アマーリアは酒樽、ソラノはハムの原木だ。


 いや、二人とも何か間違ってないか?




「おい、開かねえぞ。どうなってんだ?」


 男の声と共に乱暴にドアが揺すられた。


「ったくしょうがねえな。このドアはちょっとコツがいるんだよ。俺が替わってやる」


 俺は指を立てて二人に合図を送った。


 三、二……一!


 合図とともに扉を内側に開く。


「うわっ!」


 急に扉の抵抗がなくなって男たちが部屋の中に倒れ込んできた。


 その一人の頭に壺を強かに叩き付けた。


 アマーリアは手にした酒樽で(相手は死んだかも)、ソラノは原木ハムでそれぞれ殴りつける。


 こうして俺たちは兵士たちを行動不能にして武器と鎧を奪うことに成功した。


 鎧の一部を使って兵士たちを拘束しておき、ドアを再び封印する。


 ここから先は時間の勝負になるだろう。


 さあ反撃開始だ!








    ◆








 隠し通路は暗く、埃っぽい匂いが充満していた。


 数十年、下手したら数百年使われていないのかもしれない。


 俺たちはそんな埃の積もった隠し通路を歩いていき、ほどなくしてウィゼル国王の居室のある区画へとたどり着いた。


 更に城の内部をスキャンしてみると思った通りこの区画には王の間に続く隠し通路があるらしい。


 おそらく歴代の王の誰かが秘密裏に作らせたのだろう。


 石壁に穴を開けて地下の倉庫へと抜け、そこから更に王の間に続く隠し通路に入っていく。


 幸運なことにこの通路も反乱兵には使われていないらしい。


 この区画は反乱兵がたくさん詰めているからソラノに頼んで音を遮断する魔法をかけてもらう。


 王の間のある塔は五階建てになっていてアマーリアが言うには一番上がウィゼル国王とラウラ王妃が住み、その下にリンネ姫が住んでいるのだとか。


 俺たちは狭い梯子を伝って最上階へと登っていった。


 王の間への隠し扉には監視用の小さな穴が開いていたので覗いてみると確かに以前謁見したウィゼル国王がいた。


 今は部屋の中ほどにある椅子に座っていて、国王の他にエルフのような長い耳をした美しい女性もいる。


 これがラウラ王妃だろうか。


 しかし他にも兵士が二人部屋の中にいた。


 おそらく王と王妃の監視役なのだろう、ドアの前に張り付いている。


「どうする?あの二人を倒したとしても、おそらく塔の中にはまだまだ反乱兵がいると思うぞ?」


 アマーリアが眉をひそめた。


 アマーリアの言う通り、おそらくドアの向こうにも兵士がいるのは間違いないだろう。




「ソラノ、王だけに声を送ることはできるか?」


 しばらく考えてから俺はソラノに聞いてみた




「ああ、任せてくれ。声寄せなら得意だ」


 そう言ってソラノは小さく呪文を唱えた。


「これで大丈夫だ。国王陛下との間に声の道を通した。ただし声を送れるのはこちらからだけで向こうからこちらへ声を送るのは無理なのは注意してくれ」


「ああ、それで十分だよ。ありがとう」


 俺はソラノに礼を言い、ウィゼル国王に話しかけた。








「ウィゼル国王」


 俺の言葉が届いたのか、驚いたようにウィゼル国王が辺りを見渡した。


 やばい、兵士に俺たちがいることをばれないように注意しないと。


「しっ、動かないでください。今あなただけに声を送っています。兵に悟られないように」


 俺の言葉にウィゼル国王はハッとしたように動きを止めた。






「虫がいるようだな」


 ウィゼル国王は突然妙なそぶりを見せたことで訝し気な顔を向けた兵士に独り言のように呟いた。


 物わかりのいい王様で助かった。




「覚えているかどうかわかりませんが俺はテツヤと言います。俺の声が届いていたら右の耳を掻いてください」


 ウィゼル国王が右耳を掻いた。


 よし、これで話をつけることができる。


「一緒に調査隊長のアマーリアと王立騎士隊のソラノもいます。今から国王陛下と王妃様、姫様を助け出します。国王陛下と王妃様二人でしばらく同じ場所にいることは可能ですか?」






「ラウラ、そんなところに立っていては疲れるだろう。こちらへおいで」


 ウィゼル国王がラウラ王妃に話しかけた。


「でも…こんな状況では居ても立っても……」


「大丈夫、こんなことはもうすぐ終わる。だからさあ、こちらへ来て一緒に行く末を見守ろうじゃないか」


 国王の言葉に王妃が頷き、隣に並んでソファに座った。


 よし、これでこっちは大丈夫だ。


「ありがとうございます。今しばらくそこを動かないようにお願いします。すぐに姫様と一緒に助け出しますので」


 国王にそう告げると俺たちは下へと向かった。



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