外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
42.ランメルス・ベルグ
「驚いたかい?私も自分以外の帰還者に会うのは初めてだよ」
嬉しそうにランメルスが笑った。
「なんで帰還者のお前がこんなことを……」
「なんでって、帰還者だからさ!」
ランメルスが高らかに叫んだ。
「向こうの世界で私は英雄だったんだ!私の飛ばされた世界はね、テツヤ。剣が全ての世界だったんだよ。私はそこで絶対剣技というスキルを手に入れ英雄になったんだ!」
「誰もが私に従った!地位、金、名誉、女、全てが私の思うままだ!それがどうだ!この世界に戻ってきたらそんなものは一切が無、だ!」
「手に入れた剣技でこっちでも山賊や犯罪者を倒したさ!騎士になって戦で功績もあげたさ!そうしてやっとの思いで手に入れたのが何だと思う!片田舎のちっぽけな領主だ!こんなことが納得できるか!?」
ランメルスがふっと息をついた。
「だから私は私の力に相応しい地位を自分の力で手に入れる事にしたんだよ」
正直言うとランメルスの言いたいこともよく分かる。
おそらく奴も向こうの世界で少なくない時間を過ごし、そこで生活してきたはずだ。
大変だっただろうけど楽しい事も喜びもあっただろう。
その生活をいきなり奪われ、この世界に着の身着のままで戻されたのだ。
戸惑い、絶望や失望もあっただろう。
そんな時に向こうの世界で手に入れた力を心の拠り所とせざるを得なくなることもあると思う。
俺自身、幸運な出会いがなければどうなっていたか、ひょっとしたら全てに絶望して犯罪に走っていたかもしれない。
そういう意味ではランメルスはあったかもしれないもう一人の俺なのだ。
「どうだテツヤ?君も帰還者ならわかるだろう?君がどういう世界にいたのかはわからないが、そこで得た地位や名誉に比べたら今の暮らしなど我慢できるわけがないだろう。私と手を組まないか?」
ランメルスが言葉を続けた。
「力を貸してくれるなら望むものをあげると約束しよう。爵位だって用意する。なんならあの女二人を君の側女として与えてもいいぞ」
「クソくらえだ」
「は?」
俺の言葉にランメルスが困惑したような声をあげた。
「クソくらえ、と言ったんだ。てめえのゲスい願望もくだらない誘いも興味ねえ。俺はてめえをぶちのめす。それだけだ」
そう、気持ちはわかるが同情する気も首肯する気もない。
こいつは自分の欲望のために周りの人間を笑顔で踏みにじる奴だ。同調できる訳がない。
「そうかい。それは残念だ」
全く残念そうじゃない口調でランメルスが言った。
「じゃあ、ここで死んでもらうしかないね!」
そう言った瞬間、ランメルスが薄暗い路地へと飛び込み、俺が横たわっていた暗がりへ剣を突き立てた。
ギィン、と鈍い音が響き渡る。
◆
「これは?」
ランメルスが驚きの声をあげた。
そこにあったのはテツヤではなく、人の形をした土の塊だった。
暗がりだったので見分けがつかなかったが、会話をしながら土を集めて自分の形にし、隙を見て逃げたのだろう。
ギリ……とランメルスが歯を食いしばった。
「やってくれるじゃないか」
怒りに任せてその土人形を蹴り飛ばす。
土人形は形を崩し、土の山へと戻っていった。
「何をしている!さっさと奴を追え!見つけ次第殺せ、容赦はするな!」
後ろに控えていた兵士に怒号を浴びせる。
テツヤ、次に会った時は問答無用で切り刻んでやる。
◆
その頃、当のテツヤは石畳の中にいた。
より正確にいうなら土人形の真下の石畳の下だ。
石畳と土人形に穴を開け伝声管の要領でランメルスと会話をしていたのだ。
ひとまず危機は脱したが、まだ安心はできない。
なによりランメルスに受けた傷が思いのほか深かった。
じっとしているだけで意識を失いそうになる。
だが立ち止まっている暇はなかった。
まずはアマーリアとソラノを助けなくては。
テツヤはそのまま地下へと潜り、地下道にたどり着いた。
幸いこの地下道は反乱軍たちには使われていないらしい。
倒れそうになる体を鞭打つようにテツヤは進んでいった。
目指すはランメルスの別邸だ。
◆
「おい!ここから出せ!我々は王に仕える騎士だぞ!こんなことをしてどうなるかわかっているのか!」
ソラノが吠えた。
しかし返事はない。
「やめるんだ、ソラノ。叫ぶだけ無駄だよ」
隣でアマーリアがソラノを諫めた。
「しかし、こんな仕打ちは許されるわけが……」
「わかっている。だがこれは明らかな謀反だ。ここで王の権威を振りかざしても無駄だよ」
二人がいるのはランメルスの別邸にある地下牢だった。
何故領主の屋敷に地下牢があるのか、それだけでも十分怪しいのだがともかく二人は石造りの地下牢の壁に両手を鉄鎖で拘束されていた。
武器と鎧は全て取り上げられてしまっている。
とりあえず何もされてはいないが、地下牢には監視する者すらおらず怒鳴っても誰かが来ることもなかった。
「叫ぶよりも今は体力を回復させよう。そうすればいつかきっと好機が訪れる」
「しかし、クーデターが起こったとなると助けだっていつ来るか……」
「いるだろう、私たちの場所を知っている人間が一人」
アマーリアが微笑んで手をひらひらさせた。
そこにはテツヤからもらった指輪が煌めいている。
「そ、そうでしたね。確かにあいつなら絶対に来ますね」
「そうだとも。だから今は待とうじゃないか」
絶体絶命の窮地ではあったが、何故か二人は確信していた。
テツヤなら何があっても来てくれると。
その時、突然二人を拘束していた石壁が崩れた。
二人は叫び声をあげる間もなく壁の中に飲み込まれる。
崩れた石壁は二人を飲み込んだ後で再び元に戻り、地下牢は最初から人などいなかったかのように静寂に包まれていった。
嬉しそうにランメルスが笑った。
「なんで帰還者のお前がこんなことを……」
「なんでって、帰還者だからさ!」
ランメルスが高らかに叫んだ。
「向こうの世界で私は英雄だったんだ!私の飛ばされた世界はね、テツヤ。剣が全ての世界だったんだよ。私はそこで絶対剣技というスキルを手に入れ英雄になったんだ!」
「誰もが私に従った!地位、金、名誉、女、全てが私の思うままだ!それがどうだ!この世界に戻ってきたらそんなものは一切が無、だ!」
「手に入れた剣技でこっちでも山賊や犯罪者を倒したさ!騎士になって戦で功績もあげたさ!そうしてやっとの思いで手に入れたのが何だと思う!片田舎のちっぽけな領主だ!こんなことが納得できるか!?」
ランメルスがふっと息をついた。
「だから私は私の力に相応しい地位を自分の力で手に入れる事にしたんだよ」
正直言うとランメルスの言いたいこともよく分かる。
おそらく奴も向こうの世界で少なくない時間を過ごし、そこで生活してきたはずだ。
大変だっただろうけど楽しい事も喜びもあっただろう。
その生活をいきなり奪われ、この世界に着の身着のままで戻されたのだ。
戸惑い、絶望や失望もあっただろう。
そんな時に向こうの世界で手に入れた力を心の拠り所とせざるを得なくなることもあると思う。
俺自身、幸運な出会いがなければどうなっていたか、ひょっとしたら全てに絶望して犯罪に走っていたかもしれない。
そういう意味ではランメルスはあったかもしれないもう一人の俺なのだ。
「どうだテツヤ?君も帰還者ならわかるだろう?君がどういう世界にいたのかはわからないが、そこで得た地位や名誉に比べたら今の暮らしなど我慢できるわけがないだろう。私と手を組まないか?」
ランメルスが言葉を続けた。
「力を貸してくれるなら望むものをあげると約束しよう。爵位だって用意する。なんならあの女二人を君の側女として与えてもいいぞ」
「クソくらえだ」
「は?」
俺の言葉にランメルスが困惑したような声をあげた。
「クソくらえ、と言ったんだ。てめえのゲスい願望もくだらない誘いも興味ねえ。俺はてめえをぶちのめす。それだけだ」
そう、気持ちはわかるが同情する気も首肯する気もない。
こいつは自分の欲望のために周りの人間を笑顔で踏みにじる奴だ。同調できる訳がない。
「そうかい。それは残念だ」
全く残念そうじゃない口調でランメルスが言った。
「じゃあ、ここで死んでもらうしかないね!」
そう言った瞬間、ランメルスが薄暗い路地へと飛び込み、俺が横たわっていた暗がりへ剣を突き立てた。
ギィン、と鈍い音が響き渡る。
◆
「これは?」
ランメルスが驚きの声をあげた。
そこにあったのはテツヤではなく、人の形をした土の塊だった。
暗がりだったので見分けがつかなかったが、会話をしながら土を集めて自分の形にし、隙を見て逃げたのだろう。
ギリ……とランメルスが歯を食いしばった。
「やってくれるじゃないか」
怒りに任せてその土人形を蹴り飛ばす。
土人形は形を崩し、土の山へと戻っていった。
「何をしている!さっさと奴を追え!見つけ次第殺せ、容赦はするな!」
後ろに控えていた兵士に怒号を浴びせる。
テツヤ、次に会った時は問答無用で切り刻んでやる。
◆
その頃、当のテツヤは石畳の中にいた。
より正確にいうなら土人形の真下の石畳の下だ。
石畳と土人形に穴を開け伝声管の要領でランメルスと会話をしていたのだ。
ひとまず危機は脱したが、まだ安心はできない。
なによりランメルスに受けた傷が思いのほか深かった。
じっとしているだけで意識を失いそうになる。
だが立ち止まっている暇はなかった。
まずはアマーリアとソラノを助けなくては。
テツヤはそのまま地下へと潜り、地下道にたどり着いた。
幸いこの地下道は反乱軍たちには使われていないらしい。
倒れそうになる体を鞭打つようにテツヤは進んでいった。
目指すはランメルスの別邸だ。
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「おい!ここから出せ!我々は王に仕える騎士だぞ!こんなことをしてどうなるかわかっているのか!」
ソラノが吠えた。
しかし返事はない。
「やめるんだ、ソラノ。叫ぶだけ無駄だよ」
隣でアマーリアがソラノを諫めた。
「しかし、こんな仕打ちは許されるわけが……」
「わかっている。だがこれは明らかな謀反だ。ここで王の権威を振りかざしても無駄だよ」
二人がいるのはランメルスの別邸にある地下牢だった。
何故領主の屋敷に地下牢があるのか、それだけでも十分怪しいのだがともかく二人は石造りの地下牢の壁に両手を鉄鎖で拘束されていた。
武器と鎧は全て取り上げられてしまっている。
とりあえず何もされてはいないが、地下牢には監視する者すらおらず怒鳴っても誰かが来ることもなかった。
「叫ぶよりも今は体力を回復させよう。そうすればいつかきっと好機が訪れる」
「しかし、クーデターが起こったとなると助けだっていつ来るか……」
「いるだろう、私たちの場所を知っている人間が一人」
アマーリアが微笑んで手をひらひらさせた。
そこにはテツヤからもらった指輪が煌めいている。
「そ、そうでしたね。確かにあいつなら絶対に来ますね」
「そうだとも。だから今は待とうじゃないか」
絶体絶命の窮地ではあったが、何故か二人は確信していた。
テツヤなら何があっても来てくれると。
その時、突然二人を拘束していた石壁が崩れた。
二人は叫び声をあげる間もなく壁の中に飲み込まれる。
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