外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

37.パドレスへ

「それで、そのパドレスというのはどっちにあるんだ?」


「パドレスはここから南へ馬で一日半ほどのところにある。私は空を飛んで一足先に戻ってこれたのだが、他の者たちはまだ退避している途中だろう」


 セラが悔しそうに唇を噛んだ。


「わかった、今すぐ行ってアマーリアを助けてくる。俺の力なら一日かからずに着けるはずだ」


「待て、それでは遅すぎる」


 ソラノが俺の言葉を遮った。


「私が連れて行ってやる。というか私も加勢するぞ」


「良いのか?ソラノは騎士隊として向かうんじゃないのか?」


「騎士だからこそ規定よりも護るべきものがある!我が国の兵士が窮地にあることを知って助けに行かずしてなんのための騎士だ!来るなといっても行くからな!」


 その言葉に俺はつい微笑んでしまった。


 どこまでもまっすぐで、実にソラノらしい言葉だ。


「何がおかしい」


 ちょっと顔を紅くしてソラノが突っかかってきた。


「いや、なんでもない。むしろ大助かりだ。よろしく頼むよ」


「ふん、わかればいいのだ」


「でも軍装だとちょっと心もとなくないか?」


「それでしたらこちらに用意があります」


 その時、背後からフェナクの声がした。


 いつの間にいたのか、既に武器と鎧一式を持っている。


 傍らにはキリもいた。


「私からもお願いします。どうかアマーリアお嬢様をお救いください。」


 そう言って俺とソラノに深々と頭を下げてきた。


「もちろんさ。元気な姿で連れ帰ってくるよ!」


 俺はあえて明るく言った。


 もちろんその言葉に嘘偽りはない。


「それにしてもこんな風に勝手な判断で動いたらあとでアマーリアの家が咎められることになったりしないのか?」


「問題ありません。何かありましたら私が全ての責任を取ります」


 フェナクが顔色一つ変えずに答えた。


 この家の人たちはメイドであっても覚悟が完了しているのか。


「ご主人様、戦いに行くの?」


 キリが不安そうな顔で聞いてきたので俺はキリの側にしゃがみこんだ。


「ちょっと行ってアマーリアを連れて帰ってくるだけさ。夕飯には間に合うと思うから、作って待っていてくれよな」


「……分かった。約束だからね!」


 拳を震わせながらも気丈にキリは笑って答えてくれた。


 その約束は絶対に守る、俺はそう自分に言い聞かせた。


「こちらの準備はできたぞ」


 いつの間にかソラノは鎧を身につけていた。


「テツヤ、貴様は鎧を着なくても良いのか?」


「ああ、慣れないものを着こんでも邪魔になるだけだからな。」


「ならばせめて武器は持っていけ」


 そう言ってソラノが長剣を投げてよこした。


 長剣を抜き、軽く振ってみる。


 これなら俺にも扱えるだろう。


 念のため剣の硬度を鍛鉄の硬さから高速度工具鋼の硬さまで変えておいた。


「よし、じゃあさっさと行って片付けてくるか!」


 俺は剣を腰に差し、ソラノに近づいて肩に手を置いた。


「そんな掴み方では振り落とされるぞ。もっとしっかり掴め」


「そうは言ってもなあ。じゃあこれならどうだ?」


 俺は後ろから抱えるようにソラノに抱きついた。


「ば、馬鹿!そんな掴み方があるか!」


「仕方ないだろ、身長が違うんだから」


 俺の方がソラノよりも身長が高いからしっかり掴もうと思うと後ろから胸のあたりに腕を回すかたすき掛けのように掴むしかない。


 胴にしがみつこうとすると膝立ちにならないと駄目だ。


「鎧を着てるからいいじゃないか」


「そういう問題ではない!」


「仕方ないなあ。じゃあこれならどうだ?」


 そう言って俺はソラノを抱き上げた。


「な、何をするんだ!降ろせ!」


「仕方ないだろ。他のやり方だとなんかしっくりこないんだから」


 ソラノが真っ赤になって抗議しているがこれ以外の方法は思いつかない。


 ソラノも諦めたようで顔を朱に染めて黙り込んだ。


「じゃあ行ってくるよ」


「すまない、アマーリア様を頼む。私もすぐに増援の手配をしよう」


 フェナクの肩に支えられながら立ち上がったセラに軽く頷き、俺たちは更に高く舞い上がり一路南を目指して飛んでいった。






    ◆








「ゴアアアアアアアッ!!!!」


 森林に魔獣の咆哮が轟いた。


 猪と象を混ぜ合わせ、体長を二十メートルにしたような巨大な魔獣、レッサーベヒモスだ。


 体高は十メートルを超え、脚一本一本が樹齢数百年の大木のような太さを持っている。


 本来はフィルド王国の遥か南方の密林にしか棲まないと言われているこの魔獣がフィルド王国内を闊歩している。


 しかもその数は二十体をくだらない。


 そのレッサーベヒモスの群れが王都ゴルドを目指そうとしている。


「龍水延刃!」


 アマーリアの叫び声が響いた。


 青龍偃月刀のような形状をした龍人族の伝統武器・龍牙刀を振るう。


 アマーリアの力によって龍牙刀の刀身は水をまとい、十メートルを超える長さになった。
「激流崩山!」


 流れるようにレッサーベヒモスの足下に走り込み、縦横無尽にその巨大な体を切り刻む。


「ブオオオオオオッ!!」


 断末魔の悲鳴を上げ、レッサーベヒモスが崩れ落ちる。


 しかし息つく間もなく別の巨体がアマーリアに襲い掛かってきた。


 直径二メートルを超える足によるストンピングを体を回転させてなんとか逃れる。


 先ほどまでアマーリアがいた地面が五十センチほど凹んでいる。


 あんなものを受けたら一たまりもない。


 改めてアマーリアの背筋を冷たいものが走った。


 もう何体倒しただろうか?


 あと何体残っているのか、まるで見当もつかない。


 携帯していた水も残りわずかだ。


 川のない場所で遭遇してしまったのがアマーリアにとっては不幸だった。


 だが傷つき倒れた部下たちのためにもここで諦めるわけにはいかない。






 気を引き締め直して龍牙刀を構えた時、一体のレッサーベヒモスが巨大な鼻を横に振るった。


 あたりの大木が軒並みなぎ倒されてアマーリアに殺到する。


「くっ」


 とっさに龍牙刀で断ち切るもばらばらの方向から飛んできた枝の一本に体を払われ吹き飛ばされた。


「ぐはっ」


 大木に叩き付けられ一瞬呼吸が止まる。


 そこにレッサーベヒモスの巨大な足が襲い掛かってきた。


 回避しようとするも呼吸が途切れて動くことができない。


 ここまでか……


 半ばあきらめかけてたその時、突然そのレッサーベヒモスが足を崩して横倒しになった。


 瞬間、突風が吹いたかと思うとアマーリアは宙を飛んでいた。


 いや、正確には何者かに胴を抱きかかえられ、空に舞っていた。


「なんとか間に合ったな」


 アマーリアの耳にテツヤの声が響いた。



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