外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

25.四人で城下町へ

「待たせたな」


 屋敷の扉の外で待っている俺とキリのところへアマーリアがやってきた。


 今日のアマーリアは七分丈の開襟シャツと上半身は体にぴったりして足下は緩やかに広がる臙脂色の袖なしのワンピースといういでたちだ。


 ワンピースの襟部分には金糸で複雑な刺繍が施されていて、剣をつるした金のベルトと共にアクセントになっている。


 正直言ってかなりゴージャスだ。


 アマーリアの美貌も伴って近寄りがたいオーラを放っている。


「どうしたのだ?ぼうっとして」


 思わず見とれているとアマーリアが不思議そうに聞いてきた。


「ああ、いやなんでもないんだ」


「変な奴だな。さあ町へ行くとしよう」


 俺たちはアマーリアに連れられて門の外へ出た。


 今日はキリも屋敷でもらった刺しゅうを施したチョッキとスカート、フリルの付いたシャツとお洒落な格好をしている。


 俺が買った何の変哲もないシャツとスカートとは大違いだ。


 やっぱりこういうのは女の人に見立ててもらった方が良いな。




「アマーリア様、どうなされたのですか?」


 門を出た時、聞いたことのある声がした。


 嫌な予感がしたが、その予感通りその声の主はソラノだった。


「貴様、何故ここにいる?アマーリア様、これはどういうことなのですか!」


 案の定ソラノも露骨に嫌な顔をしている。


「うん、テツヤは今日から我が屋敷に住むことになったんだ」


「はあああああああああっ!?」


 ソラノの絶叫が門の外に響き渡った。


「こ、この男がアマーリア様の屋敷に?何故?何故なのです?こいつに何か弱みでも握られているのですか?」


 相変わらず失礼だな。


 今日のソラノは今まで見てきた鎧姿と違って青色の緩やかなドレスを着ている。


 騎士の嗜みなのだろう、ソラノも私服であっても腰にレイピアを差していた。


 胸元が大きく開いているけどアマーリアのような谷間が姿を現していないのが物悲しい。


 編み込まれていた髪は今はほどかれ、緩やかなウェーブを描いている。


 見てるだけならアマーリアに引けを取らないくらい美人なんだけどな。


 胸はまあ、七回コールド負けという感じだけど。


「何を見ている」


 俺の視線に気づいたのかソラノが睨みつけてきた。


「あ、いや、その服似合ってるな、と思ってさ」


 俺の言葉にソラノの顔が瞬時に紅く染まった。


「ば、ば、ば、馬鹿か!貴様に褒められても嬉しくな……って違う!この無礼者!」


 やばい、レイピアを抜いて迫ってきた。


 「まあ待ちたまえ。今日はこれからテツヤに城下町を案内するところなのだ。それよりもソラノは何の用でここに?」


「それは、せっかく同じ日に非番になったから一緒に町に行こうと……って、この男に町を案内ぃぃぃ?」


「ああ、聞けばテツヤはまだ城下町をあまり見て回っていないらしい。いい天気だしみんなで回ろうということになってな」


「そそそ、それって、つ、つまり、デ、デートじゃないですか!だ、駄目です!こんな奴とアマーリア様がデートなど!」


 いや、キリも一緒だからデートではないと思うんだが。


 その辺はちょっと惜しくもあるんだけど。


「はっはっは、何を言ってるんだ。ただ町を案内するだけだぞ。まあ私はデートでも一向に構わんのだけどな。たまには殿方と一緒に町を回るのも悪くないだろう?」


 そう言ってアマーリアが俺の腕を組んだ。


 マシュマロのような柔らかな感触が二の腕に伝わってくる。


 これはやばい。


 俺は必死に頭の中で素数を数えだした。




「そういうわけで今日はソラノの誘いには乗れないのだ。申し訳ないが一緒に町に行くのは次の機会にさせてくれ」


 それでは、という言葉と共にアマーリアが俺とキリを連れ立って歩き始めた。


 後ろでソラノがわなわなと震えているのがわかる。


 あのままにしていいんだろうか?




「わ、私も行きますわ!」


 ソラノが叫んだ。


「こ、このような男とアマーリア様を一緒にさせておくわけにはまいりません!私もお供します!」


 そう叫んでツカツカと俺たちの横で歩き出した。


「それは構わないが、テツヤはどうなのだ?」


「まあ俺としては人が一人増えるくらいどうってことないけど……」


「貴様の許可は求めていない!」


 やれやれ、と俺はため息をついた。


 なんだか賑やかな散歩になりそうだ。


 キリはそんな騒ぎを我関せずと町の様子に夢中になっている。






    ◆






 ゴルドは丘の上に堀で囲まれた王城があり、その周囲はアマーリアの屋敷のある貴族や名家が住む一等住宅区と名店や大手商店が立ち並ぶ一等商業区がある一等区になっている。


 一等区は塀で囲まれていて、その周囲に更に塀で囲まれた城下町がある。


 城下町の塀の外に広がるのが俺の家のある城外町だ。


 王城から城下町に延びる大通りは基本的に一本しかなく、そこがゴルドで最も賑やかな通りであるゴルド通りだ。


 俺たちは今、一等区から出て城下町のゴルド通り、通称”下ゴルド通り”を歩いていた。


 察しの通り、一等区を走るゴルド通りが”上ゴルド通り”だ。


 通りを歩く俺たちは……はっきり言ってめちゃくちゃ目立っていた。


 ただでさえ美人のアマーリアとソラノが二人揃って歩いているのだ、目立つなという方が無理だ。


 キリだって十分可愛い。


 傍から見たら俺はお忍びで城下町にやってきた名家の令嬢三人の護衛にしか見えないんじゃないだろうか。



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