外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

24.なぜ脱衣所に服がない?

 大浴場は一階の広間のすぐ隣にあった。


 龍人族は水浴びが好きだと聞くし、お風呂も彼らにとっては大事なものらしい。


 恐る恐る脱衣所に入ってみると他に誰もいる様子はない。


 今のうちなら大丈夫そうだ。


 服を脱いで風呂へと入る。


 巨大な浴室は半分が湯船になっていて日本の温泉とよく似ていた。


 湯船に張られたお湯は天然泉なのか青く濁っている。


 日本で入った温泉を懐かしく思い出しながら浴室の中に入っていった。








 その時、湯気の中に人影が見えた。


 誰か入っているのか?


 脱衣所に他の服なんかなかったぞ!?




 薄らぐ湯気の向こうに見えたのは、柔らかな曲線を描いた腰とその下に垂れる龍人族にしてはやけにほっそりとした尻尾。


 ま、まさか……






「ん、テツヤも風呂に入りに来たのか?」


 そう言って振り向いたのはアマーリアだった。


 当然ながら一糸まとわぬ姿だ。




「な、な、な……」


「どうした?風呂の入り方を知らないのか?」


 言葉を忘れた俺にアマーリアが不思議そうな顔をしながら近づいてきた。


 真っ裸で。


 水を滴らせた二つの球体が俺の眼前で揺れている。


「ご、ごめん!」


 俺は踵を返して風呂場から飛び出した。


 な、なんでアマーリアがここに!


 着るものも碌に着ずに浴場から飛び出すとタオルを持ったフェナクがやってくる所だった。


「もう上がったのですか?お早いのですね」


「な、な、なんでアマーリアが入ってるんだ!」


「そう言えばアマーリア様が入っていることを言うのを忘れていました。それがなにか?」


「なにかって、不味いだろ!男と女が一つの風呂に入るとか!」


「それが何か?」


 フェナクが不思議そうな顔をしている。


「龍人族では当たり前のことですけど?」


 あいた口が塞がらなかった。


 そ、そういうものなのか。


 いや、種族によって風習は違うものだけど、羞恥心も違うものだけど!


「ま、まあそれは良いや。そういうものなのかもしれないな、うん。でもなんで脱衣所に服がなかったんだよ?」


「お嬢様は屋敷内だと裸族なことが多いのです。流石に行儀が悪いと何度も言っているのですがなかなか直らなくて…」


 フェナクがため息をついている。


 いや、ため息で済む問題なのか、それ?


「おーい、フェナク。タオルは持ってきてくれたかい?」


 その時大浴場のドアが開いてアマーリアが出てきた。


 裸で。


「お嬢様、お風呂に入る前にタオルを持っていかないと床が濡れてしまうと何度も言っているのに」


「悪い悪い、早く入りたくてついね」


 二人はまるで何でもないことのように話をしている。


 当然裸で。


「テツヤ、さっきはなんで急に出て行ったのだ?まだ入っていないのだろう?」


 フェナクに頭を拭いてもらいながらアマーリアが聞いてきた。


 やっぱり裸で。




「…お、俺は…あ、後で入るからっ!!」


 叫んで部屋へと駆け戻った


「なんだ、せっかく一緒に入ろうと思ったのに」


「人族と我々では考えが違うようですね。それよりも裸で歩き回るのは流石に無礼ですよ」


 二人がそんな会話を続けている。


 なんなんだ、この屋敷は。


 本当にここで俺は暮らしていけるのか?


 というか今後アマーリアの顔をまともに見れるのか?


 俺は記憶を消さんばかりにひたすら走り続けた。






    ◆






 部屋の中にカチャカチャと食器の立てる音が響いている。


 あれから部屋に戻った俺はすぐに昼食の用意ができたと食堂へ案内された。


 食堂には既にアマーリアとキリが待っていた。


 今のアマーリアはゆったりとしたシャツとボトムを履いているけど、濡れた髪はまだ乾ききっておらず、大きく開けた襟元からはこぼれおちそうな胸の谷間が覗いている。


 さっきの光景を思い出して顔が火を噴きそうなくらい熱くなったがなんとか平静を装った。


 出てきた料理はどれも美味しそうなものばかりだったけど、頭の中にアマーリアの裸体がちらついて正直言って味がほとんどわからない。




「あ~」


 しばらく経ってからアマーリアが口を開いた。


「さっきは申し訳なかった。人族は男女で同じ風呂に入る習慣がなかったのだな。以後気を付けることにするよ」


「…いや、確認しなかった俺も悪かった」


 なんと言っていいのかわからず、辛うじてもごもごと返事をする。


「なに?アマーリアとご主人様一緒に風呂に入ってたの?ずるい!キリも入りたかったのに!」


 やめて、まぜっかえさないで。


「…これからは部屋にあるバスルームを使うことにするよ」


「それは駄目だ!」


 俺の言葉にアマーリアが急に口調を強めた。


「客人にまともな風呂を提供できないとあっては龍人族の沽券にかかわる!それに部屋についているのは沐浴のためのものであって風呂ではないぞ。あれを風呂と呼ばれるのは心外だ」


 う、そんな拘りがあるなんて。


 龍人族の風呂に対する誇りは日本人を思い出すな。


 あの種族も風呂に対して並々ならぬ執着があったっけ。




「じゃ、じゃあせめて男湯を用意してもらえないかな?」


「うちの屋敷にあるのはあの風呂だけだぞ?」


 ですよね~、龍人族は男女一緒に入るんですもんね~。


 うーむ、こうなったら入ってますというプレートを作っておくしかないか。


「そういえばテツヤはこれからどうする?あの家に必要なものがあるなら部下に言って持ってこさせるが」


「うーん、そこまで必要な物はないかな。とりあえず今日は町を散歩しようかな。考えてみたら城下町の方はまだ回ったことがないし」


「キリも行く!」


 巨大なステーキを頬張りながらキリが手をあげた。


「わかった。それでは私が町の案内をしよう。幸い今日はいい天気だから町歩きにはもってこいだ」


 そんなこんなでなんとかアマーリアの屋敷での初めての食事が終わったのだった。


 デザートは桃のシャーベットでした。



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