外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道 一人

13.オニ族の子

「テツヤ!」


 俺を呼ぶ声がする。


 振り向いた先にいたのはアマーリアだった。


 その顔は今まで見た事もないくらい険しい顔をしている。


 アマーリアの顔を見て俺は自分のしたことを悟った。


「これは……貴様が一人でやったのか?」


 ソラノが信じられないというように呟いた。


「すまない……つい怒りにかられて……」


 急に全身の力が抜け、地面に膝をついた。


 やったことに後悔はない。


 だがこれで組織を追う手掛かりがなくなってしまった。


「いや、いいんだ。言った通りこれは調査隊からの正式な依頼ではない。だからテツヤは規律違反を犯したことにならない。なにより被害者の子供たちを救うのは最優先事項だ。お主は何も間違ってはいない」


 アマーリアが慰めてくれたが、気分は晴れなかった。


 唯一無事に残っていた、囚われていた少年少女たちがいる地下室を振り返る


 まだ自分たちが解放されたという実感がないらしく怯えたようにこっちを見ていた。


 それも当然か。


 あれだけの暴力を目の当たりにしたんだ、トラウマにならない方がおかしい。


 そういう意味でも己の浅はかさが嫌になる。




「あの子たちはどうなるんだ?」


「おそらく一旦はどこかの孤児院に預けることになるだろうな。その後に家族や親族を探すことになるが、どこまで見つかるかどうか……」


 アマーリアがやるせない顔で説明してくれた。


 やはりそうか。


 俺もかつては似たような経緯で孤児院に送られたからそれはわかっている。




「それだったらベルンという町にあるカルノー孤児院に連絡を取ってみてくれないか。院長はおっかないおばちゃんだけど子供の面倒はしっかり見てくれる。俺が保証するよ」


「……それは……わかった、必ず連絡すると約束しよう」


「ああ、頼む」




 アマーリアもわかってくれたらしい。


「ともかくまずはここを片付け、それから今後の方針を決めることに……」


「待ってくれ!」


 その時、地下室の奥から声が響いてきた。


 振り返ると奥から歩いてくる人影があった。




「俺を、あんたの弟子にしてくれ!」


 そう叫ぶなりその人影が俺の足下に跪いた。


 それは赤い肌と赤褐色の髪を持ったオニ族の少年だった。


 年は十代前半くらいだろうか、額から二本の赤黒い角が生え、ボロボロの服を着て痩せこけ、顔中に大きな傷が走っている。


 傷は完全には塞がっておらず、醜く腫れて今もじくじくと血が滲み続けている。


「俺の名前はキリ!俺もあんたのように強くなりたい!何でもするから弟子にしてくれ!」


 キリと名乗るその少年が俺を見た。


 炎のように赤く煌めく瞳が俺を見ている。


「あんたの戦いを見た!凄い強さだった!何者も寄せ付けない圧倒的な力……俺もああなりたい!他人に屈服させられない力が欲しいんだ!」


 いや待て待て待て。


 いきなり弟子にしてくれと言われても困るぞ。


 アマーリアとソラノも呆気に取られている。


「あ~、その、弟子にしてくれと言ってくれるのは嬉しいんだが、今はそういうの受け付けるつもりはないんだ……ごめんな」


 俺の言葉にキリが泣きそうに顔を歪め、すがりついてきた。




「頼む!俺には力が必要なんだ!なんでもする!金だって要らない!どんなことでもやるから、俺を側に置いてくれ!俺の家族はベルトランからの難民でみんな死んでしまったんだ!もう帰る場所なんかないんだ!」




 キリの言葉に俺は目を見張った。


 隣国ベルトランの悲惨な状況は地球に転移する前から噂で聞いた事がある。




 アマーリアが頷いた。


「やはりそうだったのか。ベルトランは異種族排斥の勢力が強く、異種族融和政策を進めるこのミネラシアを目指す難民も多いと聞く。途中で魔獣や山賊に襲われるものがほとんどで、運よくたどり着いてもこういう奴隷商に捕まってしまう者も多いと聞いてはいたが……」


 俺は歯ぎしりした。


 おそらくこのキリという子は俺には想像もできないような地獄を見てきたはずだ。


 それでもなお、いや、だからこそ強くなりたいと願っている。


 そんな子を、俺は自分に都合が悪いからと突き放そうというのか。




 俺はキリの前に膝をついた。


「さっきも言ったが、俺は弟子は取らない。まだ俺にそんな資格があるとは思えないからだ」


 キリの眼に涙が溢れる。


「だけど身の回りの世話をしてくれる助手は欲しいと思ってたんだ。助手なんだから当然給料だって出す。それだったらどうだ?」


 最初は何を言ってるのかわからないようだったが、次第にその言葉の意味を飲み込んでいったようだ。


 キリの顔から絶望の影が消えていった。


「じゃ、じゃあ、側に置いてもらえるのか?あんたと一緒にいても良いのか?」


「ああ、その代わりちゃんと働いてもらうけどな?料理だって作ってもらうぞ」


「も、もちろんだよ!ちゃんと働く!なんだってする!こう見えても料理は得意なんだ!」


 俺はアマーリアの方を見た。




「まあ、その子が望んでいるならば無下には出来まい。手続き関係は私に任せておいてくれ。いいようにしておこう」


「助かるよ」


 俺はアマーリアに礼を言ってキリに右手を出した。


「俺の名はテツヤ、アラカワ・テツヤだ。これからよろしく」


「俺の名前はキリ、こっちこそこれからよろしくな!ご主人様!」


 ご、ご主人様あ?


「だって、テツヤが俺の雇い主なんだろ?だったらご主人様だ!」


 いや、雇用者と被雇用者はそういう関係ではないんだが……


 後ろでアマーリアがおかしそうに笑っている。


「この国で奴隷制は十年前から禁止されているがベルトランでは今もその風習が残っているらしい。諦めてその呼び名に慣れるのだな」


 他人事だからって好き勝手言っちゃって。


 でもキリの嬉しそうな顔を見ていたらそんなことはどうでもよくなってきた。


 しばらくは慣れそうにないけど、まあいいか。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品