外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
6.テナイト村のもう一つの問題
ランメルスは微笑みながら村人たちを見渡している。
村人たちもまるで英雄が凱旋してきたかのような扱いだ。
「ランメルス様!ようこそお越しいただきました!」
「ランメルス様!まさか本当に来ていただけるなんて!」
感極まって泣きだしている女性すらいる。
「山賊が暴れているという報告を受けてやってきたのだが、どうやら既に君たちが解決してしまったようだね」
「こちらのテツヤさんというお方のお陰ですじゃ!」
村長が俺を手で示した。
「ほう、君があの悪名高いザークとその一味を!」
ランメルスが驚いたように俺を見つめた。
「私の名前はランメルス・ベルク。この村は私の領内でね。そこのザークの被害が増えていると各地で報告があったからこうして討伐にきたのだけれど、君のお陰でそんな必要はなかったようだね」
そう言ってにこやかに微笑みながら右手を差し出してきた。
俺はその手を握り返す。
「俺の名前はアラカワ・テツヤ。テツヤが名前なんだ。山賊退治はこの村の子に頼まれてね」
「良かったら私の屋敷に来ないか?ぜひ今回のお礼をさせてくれ。どうやってザーク一味を捉えたのか詳しい話を聞かせて欲しいしね。私の領地で採れる豚肉は絶品だぞ」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど、この村でまだやる事が残っていてさ。残念だけどそのお誘いはまた今度にしてもらってもいいかな?」
俺はちょっと考え込んでその誘いを断る事にした。
ランメルスは誘いを断られて呆気に取られていたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「もちろんだとも!この村の用事が済んだら是非寄ってくれ!私はここから馬で一日ほどのところにあるベルク庄にいるから気兼ねなく訪れてくれたまえよ!」
ランメルスはそう言うと踵を返して部下たちの元へ戻っていった。
捕縛された山賊たちも一緒に連行されていった。
◆
「なあ、あのランメルスって領主はこの辺で評判が良いのか?」
ランメルス一行が村から立ち去ってしばらくしてから村長に尋ねてみた。
「もちろんですとも!あのお方はこのフィルド王国一の領主様じゃ!」
村長は口角泡を飛ばしながら説明し始めた。
「儂らのような村人にも分け隔てなく接してくださるし、不作の年には税金も免除してくださる。それに今回だってほれ、山賊を退治に来?てくださった!」
「ふーん、領民から人気の領主って訳か」
俺は独り言ちた。
その割には……
「ねえねえ、テツヤさん。なんで領主様と一緒に行かなかったの?山賊退治はもう終わったんじゃないの?」
その時、足元でシャツの裾を引っ張りながらステラが聞いてきた。
「ああ、そのことなんだけどな」
俺はステラの元にしゃがみ、両手をその頬にあてた。
「?」
呆気に取られているステラだったが、俺はそのステラの、その体内へと意識を集中した。
やはり。
ステラはヒ素に冒されている。
この村に来る前からステラの爪に横溝が入り、色素が沈着しているのに気付いていた。
これは典型的なヒ素中毒の症状だ。
「あ、あの、一体何を?」
ステラの母親が心配そうに尋ねてきた。
村人みんなのやつれた様子を見るにおそらくこの村の住人みんなそうなのだろう。
俺は更に意識を集中し、ステラの体内にあるヒ素を一か所に集めていく。
ついでにヒ素中毒でダメージを受けている内臓も回復させておこう。
生物の体が炭素などミネラル分からできているなら俺に操作可能なはずだ。
やがてステラは軽く咳きこんだかと思うと、口の中から鈍く光る銀色の小さな塊を吐き出した。
ヒ素だ。
「こ、これは?」
ステラの母親が驚きの声を上げる。
「ママ……私……」
ステラが母親を見上げた。
「なんか元気になったみたい!」
そう叫んで母親に抱きつく。
「これは一体?」
「これはヒ素だ。おそらく井戸水がヒ素に汚染されているんだと思う。村人の具合が悪いのはこのヒ素のせいだろうな」
驚く村長に俺は説明をした。
「な、なんと!し、しかし確かに村人の具合が悪くなったのはこの井戸を掘ってからのこと。怪しいと思ってはおったが……」
「まずは村の人みんなの様子を診るのが最初だ。みんなこっちに集まってくれ」
俺は村人総勢五十名全員をチェックした。
そして全員がもれなくヒ素に冒されていた。
皮肉なことに力仕事で水を大量に飲む若い男性ほど重いヒ素中毒にかかっていた。
これでは山賊の襲撃に耐えられるわけもない。
「ありがとうございます!あなたはこの村の恩人だ!山賊を退治するだけじゃなく我々の体まで治してくれるなんて!」
「この村の救世主様だ!」
体調が戻った村人が口々にお礼を言ってくる。
しかし俺の仕事はまだ終わったわけじゃない。
俺は村長に案内してもらって井戸へとやってきた。
「この村は川から離れている事もあって毎年飲み水に悩まされておりましてな。村中総出でこの井戸を掘ったのじゃが、まさかそれがこの村に災禍をもたらすとは……」
そう言って村長は悔しそうに唇を噛んだ。
俺は井戸の側にしゃがみ、地面に手を当てた。
意識を大地へと向ける。
この村周辺の地中の構造が頭の中に流れ込んでくる。
確かに地下水脈の近くにヒ素鉱床がある。
おそらく井戸を掘った時に一緒に鉱床を破ってしまったのだろう。
しかし幸運なことにヒ素鉱床はそこまで大きくないし広く分布もしてないようだ。
これなら何とかなるかもしれない。
更に意識を集中した。
土中のヒ素を地下で集め、一塊にして地表へを持ち上げていく。
やがて大地が盛り上がり、俺の背丈よりも大きいゴツゴツした銀灰色の塊が顔を出した。
「お、おお……」
村長以下村人たちが驚きの声を上げる。
「これはこの村一体の地下にあったヒ素全てだ。これでもう井戸水にヒ素が入ることはないよ」
ありがとうございます、と村長が言ったような気がしたが、本当にそう言ったのかはわからない。
視界が暗転し、俺は気絶したからだ。
村人たちもまるで英雄が凱旋してきたかのような扱いだ。
「ランメルス様!ようこそお越しいただきました!」
「ランメルス様!まさか本当に来ていただけるなんて!」
感極まって泣きだしている女性すらいる。
「山賊が暴れているという報告を受けてやってきたのだが、どうやら既に君たちが解決してしまったようだね」
「こちらのテツヤさんというお方のお陰ですじゃ!」
村長が俺を手で示した。
「ほう、君があの悪名高いザークとその一味を!」
ランメルスが驚いたように俺を見つめた。
「私の名前はランメルス・ベルク。この村は私の領内でね。そこのザークの被害が増えていると各地で報告があったからこうして討伐にきたのだけれど、君のお陰でそんな必要はなかったようだね」
そう言ってにこやかに微笑みながら右手を差し出してきた。
俺はその手を握り返す。
「俺の名前はアラカワ・テツヤ。テツヤが名前なんだ。山賊退治はこの村の子に頼まれてね」
「良かったら私の屋敷に来ないか?ぜひ今回のお礼をさせてくれ。どうやってザーク一味を捉えたのか詳しい話を聞かせて欲しいしね。私の領地で採れる豚肉は絶品だぞ」
「うーん、そうしたいのは山々なんだけど、この村でまだやる事が残っていてさ。残念だけどそのお誘いはまた今度にしてもらってもいいかな?」
俺はちょっと考え込んでその誘いを断る事にした。
ランメルスは誘いを断られて呆気に取られていたが、すぐに穏やかな表情に戻った。
「もちろんだとも!この村の用事が済んだら是非寄ってくれ!私はここから馬で一日ほどのところにあるベルク庄にいるから気兼ねなく訪れてくれたまえよ!」
ランメルスはそう言うと踵を返して部下たちの元へ戻っていった。
捕縛された山賊たちも一緒に連行されていった。
◆
「なあ、あのランメルスって領主はこの辺で評判が良いのか?」
ランメルス一行が村から立ち去ってしばらくしてから村長に尋ねてみた。
「もちろんですとも!あのお方はこのフィルド王国一の領主様じゃ!」
村長は口角泡を飛ばしながら説明し始めた。
「儂らのような村人にも分け隔てなく接してくださるし、不作の年には税金も免除してくださる。それに今回だってほれ、山賊を退治に来?てくださった!」
「ふーん、領民から人気の領主って訳か」
俺は独り言ちた。
その割には……
「ねえねえ、テツヤさん。なんで領主様と一緒に行かなかったの?山賊退治はもう終わったんじゃないの?」
その時、足元でシャツの裾を引っ張りながらステラが聞いてきた。
「ああ、そのことなんだけどな」
俺はステラの元にしゃがみ、両手をその頬にあてた。
「?」
呆気に取られているステラだったが、俺はそのステラの、その体内へと意識を集中した。
やはり。
ステラはヒ素に冒されている。
この村に来る前からステラの爪に横溝が入り、色素が沈着しているのに気付いていた。
これは典型的なヒ素中毒の症状だ。
「あ、あの、一体何を?」
ステラの母親が心配そうに尋ねてきた。
村人みんなのやつれた様子を見るにおそらくこの村の住人みんなそうなのだろう。
俺は更に意識を集中し、ステラの体内にあるヒ素を一か所に集めていく。
ついでにヒ素中毒でダメージを受けている内臓も回復させておこう。
生物の体が炭素などミネラル分からできているなら俺に操作可能なはずだ。
やがてステラは軽く咳きこんだかと思うと、口の中から鈍く光る銀色の小さな塊を吐き出した。
ヒ素だ。
「こ、これは?」
ステラの母親が驚きの声を上げる。
「ママ……私……」
ステラが母親を見上げた。
「なんか元気になったみたい!」
そう叫んで母親に抱きつく。
「これは一体?」
「これはヒ素だ。おそらく井戸水がヒ素に汚染されているんだと思う。村人の具合が悪いのはこのヒ素のせいだろうな」
驚く村長に俺は説明をした。
「な、なんと!し、しかし確かに村人の具合が悪くなったのはこの井戸を掘ってからのこと。怪しいと思ってはおったが……」
「まずは村の人みんなの様子を診るのが最初だ。みんなこっちに集まってくれ」
俺は村人総勢五十名全員をチェックした。
そして全員がもれなくヒ素に冒されていた。
皮肉なことに力仕事で水を大量に飲む若い男性ほど重いヒ素中毒にかかっていた。
これでは山賊の襲撃に耐えられるわけもない。
「ありがとうございます!あなたはこの村の恩人だ!山賊を退治するだけじゃなく我々の体まで治してくれるなんて!」
「この村の救世主様だ!」
体調が戻った村人が口々にお礼を言ってくる。
しかし俺の仕事はまだ終わったわけじゃない。
俺は村長に案内してもらって井戸へとやってきた。
「この村は川から離れている事もあって毎年飲み水に悩まされておりましてな。村中総出でこの井戸を掘ったのじゃが、まさかそれがこの村に災禍をもたらすとは……」
そう言って村長は悔しそうに唇を噛んだ。
俺は井戸の側にしゃがみ、地面に手を当てた。
意識を大地へと向ける。
この村周辺の地中の構造が頭の中に流れ込んでくる。
確かに地下水脈の近くにヒ素鉱床がある。
おそらく井戸を掘った時に一緒に鉱床を破ってしまったのだろう。
しかし幸運なことにヒ素鉱床はそこまで大きくないし広く分布もしてないようだ。
これなら何とかなるかもしれない。
更に意識を集中した。
土中のヒ素を地下で集め、一塊にして地表へを持ち上げていく。
やがて大地が盛り上がり、俺の背丈よりも大きいゴツゴツした銀灰色の塊が顔を出した。
「お、おお……」
村長以下村人たちが驚きの声を上げる。
「これはこの村一体の地下にあったヒ素全てだ。これでもう井戸水にヒ素が入ることはないよ」
ありがとうございます、と村長が言ったような気がしたが、本当にそう言ったのかはわからない。
視界が暗転し、俺は気絶したからだ。
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