ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
25.第5階層橙エリア - 2 -
オレンジ・ワンの町は活気に満ちていた。
道路には行商人が商品を並べて呼び込みの声を響かせ、食堂や喫茶店も営業している。
「凄いな…ダンジョンの中にこんなに人がいるなんて知らなかった」
「オレンジ・ワンだけで2000人はいるんじゃないかな。普通に経済活動が営まれているくらいだしね。それよりもちょっと腹ごしらえしていかない?」
「それもそうだな…じゃあどっか落ち着ける場所で買ってきたものでも食べようか」
「そうじゃないってば。折角第5層に来たのにコンビニのおにぎりじゃもったいないでしょ」
ナナはそう言いながら翔琉とオットシを通りに置かれた丸テーブルへと引っ張っていった。
「すいませーん、ここってダンジョン料理置いてますかー?」
「っしゃーい!もちろん置いてるよ!陸ガニ、5層ハーブ、ダンジョンで育てた豚がお勧めだよ!
店の奥から薄汚れたエプロンをつけた店主が現れた。
「じゃあその中からお任せで作ってもらっていい?予算はこれで」
ナナはそう言いながらバックパックの中からおにぎり、カップラーメン、お菓子を適当に取り出すとテーブルに並べた。
「ほほう!いいねえ!最近なかなか入ってこなくて困ってたんだよ。それじゃあちょいと奮発しようかな!」
店主はそう言いながらテーブルの食べ物をエプロンの中に入れると店の奥へと引っ込んでいった。
「あんなんでいいのか?」
「こっちじゃ物々交換も普通に行われてるからね。普通に現金を払うよりも価値が高かったりするんだよ」
オットシが補足する。
「独自の通貨を作ろうという動きのある町もあるけど、今はまだ原始的経済活動が生まれ始めてきたと言ったところかな」
やがて店主が料理の乗った皿と共に戻ってきた。
「はいよ、お待ち!陸ガニの蒸し焼き、5層ハーブとダンジョン豚の香草焼きだ!ご飯はサービスだよ」
「美味!なんだこれ!普通にレストランで金をとれるレベルじゃないか!」
一口料理を頬張った翔琉はその美味さに目を丸くした。
どれも料理としては申し分なく、陸ガニと5層ハーブは地上では食べたことのない味が口いっぱいに広がってくる。
地上で出したら即行列ができそうなくらいの美味しさだ。
「いや、金取ってるし」
ナナは苦笑しながら箸を口に運んだ。
「まあ実際昔は上で料理人してたからね」
三人が舌鼓を打っていると店主がやってきた。
「なんでダンジョンでレストランをやるようになったんですか」
「カケル君、ダンジョンではそう言うことを聞くもんじゃないよ」
何の気なしに尋ねた翔琉をオットシがたしなめる。
「みんな色んな事情があってダンジョンに来ているんだ。ここじゃ立ち入った話は失礼にあたるんだよ」
「あ、すいません、つい…」
「いや、いいんだよ。まあ確かに俺も上にはいられなくなってここに来た口なんだけどね。水が合ってたんだろうな。今は楽しくやらせてもらってるよ。娯楽が少ないのはいただけねえけど、自由にやれるってのは気楽なもんだよ」
店主は謝る翔琉に手を振って笑った。
「そう言えば店主さん、ついでに聞きたいんだけどゲーミングクリスタルがどこで採れるか知らないかな?私たちはゲーミングクリスタルを探しに5層に来たんだ」
「うーん、確かにこの町でも売ってる奴はいるけどどこで採れるかは聞いたことがないな。俺も町の外にはほとんど出ないもんだからさ」
役に立てなくてすまないね、と言いながら店主は店の奥へと戻っていった。
「…色んな人がいるもんなんだね」
「こういう場所だから人に言えない事情を抱えた人が多いんだよ。ま、あまり深入りしないのがお勧めかな」
ナナはそう言うと豚肉を口に運んだ。
「美味しい!これはダンジョングルメレポートにレビューしておかないと!」
食事が終わると三人は再び町に繰り出してゲーミングクリスタルの情報を聞いて回ることにした。
しかしゲーミングクリスタルはよほどレアな素材らしく、通りにダンジョンのアイテムを並べている行商人にも売っている人は一人もいなかった。
尋ねても誰も知らないらしく、逆にあるなら幾らでも買うと言われる始末だ。
結局目ぼしい成果は上げられず、三人はオープンテラスの喫茶店で一休みすることにした。
「やっぱり相当珍しいものなんだな」
翔琉はアイスコーヒーをすするとため息をついた。
「そう簡単に行くとは思ってなかったけどね」
タピオカミルクティーを飲みながらナナが頷く。
結構人気な店らしく周りの丸テーブルには他にも何人もの冒険者が座っていた。
「やっぱり情報屋に聞いてみるしかないかな。でも高いんだよなあ…」
オットシがビールを飲みながらぼやいた。
「いいんですか、こんな時間からビールなんて」
「ダンジョンに法律はないからね。当然酒類販売免許も食品衛生法もなし!全ては自己責任だよ」
「う…そう言われると途端に食事をするのが怖くなってくるんですけど…」
「そんなこと言ってたらダンジョンで生きてけないよ。なんかあったらあたしが治してあげるから安心しなって!…当然お金はいただくけどね」
「結局それかよ…」
翔琉はため息をつくとコーヒーを口に含んだ。
何かがおかしいと感じたのはその時だった。
隣の丸テーブルには一人の冒険者らしき男が座って食事をしている。
その足元には男のバッグが置かれている。
そこへ一人の影が音もなく近寄ってきた。
不思議なくらい存在感が希薄な人物で、ナナもオットシ、丸テーブルの冒険者もまるで気付いていない。
影はまるで自分の物を拾うかのような自然な動作で男のバッグを掴み上げると滑るようにテーブルから遠ざかる。
「ちょっと待った!」
翔琉がその影の手首を掴んだ時、同時にバッグの取っ手を掴む者があった。
それは今しがたバッグを盗られたはずの男だった。
道路には行商人が商品を並べて呼び込みの声を響かせ、食堂や喫茶店も営業している。
「凄いな…ダンジョンの中にこんなに人がいるなんて知らなかった」
「オレンジ・ワンだけで2000人はいるんじゃないかな。普通に経済活動が営まれているくらいだしね。それよりもちょっと腹ごしらえしていかない?」
「それもそうだな…じゃあどっか落ち着ける場所で買ってきたものでも食べようか」
「そうじゃないってば。折角第5層に来たのにコンビニのおにぎりじゃもったいないでしょ」
ナナはそう言いながら翔琉とオットシを通りに置かれた丸テーブルへと引っ張っていった。
「すいませーん、ここってダンジョン料理置いてますかー?」
「っしゃーい!もちろん置いてるよ!陸ガニ、5層ハーブ、ダンジョンで育てた豚がお勧めだよ!
店の奥から薄汚れたエプロンをつけた店主が現れた。
「じゃあその中からお任せで作ってもらっていい?予算はこれで」
ナナはそう言いながらバックパックの中からおにぎり、カップラーメン、お菓子を適当に取り出すとテーブルに並べた。
「ほほう!いいねえ!最近なかなか入ってこなくて困ってたんだよ。それじゃあちょいと奮発しようかな!」
店主はそう言いながらテーブルの食べ物をエプロンの中に入れると店の奥へと引っ込んでいった。
「あんなんでいいのか?」
「こっちじゃ物々交換も普通に行われてるからね。普通に現金を払うよりも価値が高かったりするんだよ」
オットシが補足する。
「独自の通貨を作ろうという動きのある町もあるけど、今はまだ原始的経済活動が生まれ始めてきたと言ったところかな」
やがて店主が料理の乗った皿と共に戻ってきた。
「はいよ、お待ち!陸ガニの蒸し焼き、5層ハーブとダンジョン豚の香草焼きだ!ご飯はサービスだよ」
「美味!なんだこれ!普通にレストランで金をとれるレベルじゃないか!」
一口料理を頬張った翔琉はその美味さに目を丸くした。
どれも料理としては申し分なく、陸ガニと5層ハーブは地上では食べたことのない味が口いっぱいに広がってくる。
地上で出したら即行列ができそうなくらいの美味しさだ。
「いや、金取ってるし」
ナナは苦笑しながら箸を口に運んだ。
「まあ実際昔は上で料理人してたからね」
三人が舌鼓を打っていると店主がやってきた。
「なんでダンジョンでレストランをやるようになったんですか」
「カケル君、ダンジョンではそう言うことを聞くもんじゃないよ」
何の気なしに尋ねた翔琉をオットシがたしなめる。
「みんな色んな事情があってダンジョンに来ているんだ。ここじゃ立ち入った話は失礼にあたるんだよ」
「あ、すいません、つい…」
「いや、いいんだよ。まあ確かに俺も上にはいられなくなってここに来た口なんだけどね。水が合ってたんだろうな。今は楽しくやらせてもらってるよ。娯楽が少ないのはいただけねえけど、自由にやれるってのは気楽なもんだよ」
店主は謝る翔琉に手を振って笑った。
「そう言えば店主さん、ついでに聞きたいんだけどゲーミングクリスタルがどこで採れるか知らないかな?私たちはゲーミングクリスタルを探しに5層に来たんだ」
「うーん、確かにこの町でも売ってる奴はいるけどどこで採れるかは聞いたことがないな。俺も町の外にはほとんど出ないもんだからさ」
役に立てなくてすまないね、と言いながら店主は店の奥へと戻っていった。
「…色んな人がいるもんなんだね」
「こういう場所だから人に言えない事情を抱えた人が多いんだよ。ま、あまり深入りしないのがお勧めかな」
ナナはそう言うと豚肉を口に運んだ。
「美味しい!これはダンジョングルメレポートにレビューしておかないと!」
食事が終わると三人は再び町に繰り出してゲーミングクリスタルの情報を聞いて回ることにした。
しかしゲーミングクリスタルはよほどレアな素材らしく、通りにダンジョンのアイテムを並べている行商人にも売っている人は一人もいなかった。
尋ねても誰も知らないらしく、逆にあるなら幾らでも買うと言われる始末だ。
結局目ぼしい成果は上げられず、三人はオープンテラスの喫茶店で一休みすることにした。
「やっぱり相当珍しいものなんだな」
翔琉はアイスコーヒーをすするとため息をついた。
「そう簡単に行くとは思ってなかったけどね」
タピオカミルクティーを飲みながらナナが頷く。
結構人気な店らしく周りの丸テーブルには他にも何人もの冒険者が座っていた。
「やっぱり情報屋に聞いてみるしかないかな。でも高いんだよなあ…」
オットシがビールを飲みながらぼやいた。
「いいんですか、こんな時間からビールなんて」
「ダンジョンに法律はないからね。当然酒類販売免許も食品衛生法もなし!全ては自己責任だよ」
「う…そう言われると途端に食事をするのが怖くなってくるんですけど…」
「そんなこと言ってたらダンジョンで生きてけないよ。なんかあったらあたしが治してあげるから安心しなって!…当然お金はいただくけどね」
「結局それかよ…」
翔琉はため息をつくとコーヒーを口に含んだ。
何かがおかしいと感じたのはその時だった。
隣の丸テーブルには一人の冒険者らしき男が座って食事をしている。
その足元には男のバッグが置かれている。
そこへ一人の影が音もなく近寄ってきた。
不思議なくらい存在感が希薄な人物で、ナナもオットシ、丸テーブルの冒険者もまるで気付いていない。
影はまるで自分の物を拾うかのような自然な動作で男のバッグを掴み上げると滑るようにテーブルから遠ざかる。
「ちょっと待った!」
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