ダンジョントランスポーター ~ 現代に現れたダンジョンに潜ったらレベル999の天使に憑依されて運び屋になってしまった
15.九頭竜異港
「ん?何か言ったかい?」
「…いえ、なんでもないです」
オットシが不思議そうな顔を向けてきたが翔琉には答えることができなかった。
(大丈夫…なのか?)
少なくとも翔琉自身の身体に変調は感じられなかった。
胸が苦しいとか、吐き気がするとか、そんな感じは全くしない。
(おい、大丈夫なのか?)
身体の中にいるリングに話しかけてみるが返答はない。
(おい!起きてるのか?起きてるんなら返事をしろよ!)
どれだけ問いかけても返事が返ってくることはなかった。
「大丈夫かい?」
そんな翔琉を見てオットシが心配そうな顔をしている。
「あ、いや、大丈夫です」
翔琉は慌てて首を振った。
まさか身体の中に謎の生物を入れたまま帰ってきてしまった、などとは言えない。
「あの…さっきダンジョンの外に生き物を連れて帰ろうとしても死んでしまうと言ってましたよね。あれって誰か試した人いるんですか?」
「ん?ああ、今まで散々実験されてきたよ。その辺のことはダンジョンウィキにも載ってるから読んでみると面白いぞ。眠らせたり、冷凍したり、あるいは薬物で仮死状態にして持ってこようとしたこともあるんだけど全て失敗してしまったらしい」
「そ、そうなんですか…例えば…体の中に寄生するようなモンスターはどうなんですかね?モンスターを生きたままダンジョンから連れ出すことに成功したとしたら?」
「穏やかじゃないことを聞くねえ。もしそんなことになったらまず間違いなく調べられるだろうね。貴重な標本として政府の管理下に置かれるかもしれないな」
「ハ…ハハ…、そんなこと…あるんですかね」
ありえない、とは言えないのが恐ろしかった。
「でもそれも無理だったらしいよ。あえて寄生タイプのモンスターに寄生されて帰ってくるという実験をした人がいるんだけど、戻ってきた瞬間にそのモンスターは死んでいて、結果その人も死んでしまったらしい。なんでもモンスターの死骸が脳の血管に詰まってしまったんだとか」
「そう…ですか…ハハ、ハハハ」
オットシの言葉に翔琉は力なく笑うしかできなかった。
どうやらリングは完全に死んでしまったのだろう。
となるとその死骸は自分の体内に残されているということなのか。
全然そんな感じはしないけど病院で調べてもらうべきなのだろうか?
いや、そんなことをしたら本当に標本にされてしまうかもしれない。
「それよりも早いところ手続きを済ませてしまおう。お互い結構な収入になったことだし今日はパアッといこうじゃないか」
オットシの言葉に翔琉は我に返った。
確かに今はそんなことを悩むよりも家に帰ることを考えないと。
二人はまず銀行窓口によって受け取った200万円をスマホの電子マネーへと交換した。
カウンタースタッフは200万の札束を見ても顔色一つ変えずに処理したところを見るとダンジョン探索ではよくあることなのかもしれない。
それから翔琉は素材買取の窓口に向かうとギガントカマキリの魔石をカウンターの上に置いた。
「これを買い取ってもらえませんか?」
「しょ、少々お待ちいただけますか?」
魔石を見た瞬間カウンタースタッフの顔色が変わり、席を立つと上役っぽい人を連れて戻ってきた。
「すいません、もう少し詳しく拝見したいので奥へ来ていただけますか?」
「は、はい…」
何が起きるのかわからず不安な気持ちになりながら翔琉とオットシは案内されたオフィスへと向かうことにした。
お茶とお菓子が出されて待つことしばし、先ほどの人が二人の前へとやってきた。
渡された名刺には『(株)イセカイ・マテリアル・トレード九頭竜異界出入国管理局分室異界部四課課長 貝取 益夫』と長々しく書かれている。
どうやら結構な役職の人らしい。
「大変お待たせいたしました。早速なのですがこの魔石は一体どこで手に入れられたのかお聞きしてもよろしいですか?」
「それなら第2…」
「この魔石がどのモンスターから取れたものなのかはわかっています。これはギガントカマキリの魔石です。どこで採ったのかは秘密とさせてください」
翔琉が答えようとするところにオットシが言葉を被せてきた。
どうやらあまり詳しく話さない方がいいのだと察した翔琉は黙っていることにした。
「…なるほど。確かにこちらは我々の解析でもギガントカマキリのものだとわかりました。それにしてもレベル10のモンスターをお二人だけで狩ってくるとは…しかもレベル8商人とダンジョンに入って2日目の方で…」
貝取は心底驚いたようにこちらを見つめた。
「まあ詳しい話はいいじゃないですか。それよりも買い取ってくれるんですか?くれないんですか?」
話がややこしい方向に行きそうになったのを察したのかオットシが話題を切り替えた。
「そ、そうですね。お時間を取らせていただいているのに申し訳ありませんでした。私どもといたしましてはこちらの魔石は既定通り1000万円で買い取らせていただきます。もちろんこの額に問題があったり他に売り先がいるのでしたら断わっていただいても結構です」
「いっせ…!」
叫びそうになるのを翔琉はなんとか堪えた。
今日に入ってから金銭感覚がおかしくなりそうな出来事ばかりだ。
「わかりました、それでお願いします。ついでと言っては何ですが、振り込みはこちらの天城のデバイスへお願いします。それから先はこちらで行いますので」
「わ、わかりました。そうしますと源泉徴収は全てこちらの天城さまの名義となりますがよろしいですか?」
「結構です」
「承知いたしました。それでは」
貝取が手元のデバイスを操作し、翔琉のスマホに通知がやってきた。
スマホ内にはダンジョンで受け取った現金200万円と先ほどの魔石に対する1000万円から源泉徴収を引いた1080万円が本当に振り込まれていた。
夢ではないのだ。
「レベル10以上の素材が持ち込まれた時は公開する規則になっています。お名前はいかがいたしますか?」
「匿名でお願いします」
「承知いたしました。それではこれで買い取り手続きは終了とさせていただきます。また何かありましたら遠慮なく名刺の連絡先へご連絡くださいませ」
翔琉が呆然としている間にオットシがてきぱきと処理を進めていく。
こうして翔琉は1日で約4年分の収入を得ることになったのだった。
「…いえ、なんでもないです」
オットシが不思議そうな顔を向けてきたが翔琉には答えることができなかった。
(大丈夫…なのか?)
少なくとも翔琉自身の身体に変調は感じられなかった。
胸が苦しいとか、吐き気がするとか、そんな感じは全くしない。
(おい、大丈夫なのか?)
身体の中にいるリングに話しかけてみるが返答はない。
(おい!起きてるのか?起きてるんなら返事をしろよ!)
どれだけ問いかけても返事が返ってくることはなかった。
「大丈夫かい?」
そんな翔琉を見てオットシが心配そうな顔をしている。
「あ、いや、大丈夫です」
翔琉は慌てて首を振った。
まさか身体の中に謎の生物を入れたまま帰ってきてしまった、などとは言えない。
「あの…さっきダンジョンの外に生き物を連れて帰ろうとしても死んでしまうと言ってましたよね。あれって誰か試した人いるんですか?」
「ん?ああ、今まで散々実験されてきたよ。その辺のことはダンジョンウィキにも載ってるから読んでみると面白いぞ。眠らせたり、冷凍したり、あるいは薬物で仮死状態にして持ってこようとしたこともあるんだけど全て失敗してしまったらしい」
「そ、そうなんですか…例えば…体の中に寄生するようなモンスターはどうなんですかね?モンスターを生きたままダンジョンから連れ出すことに成功したとしたら?」
「穏やかじゃないことを聞くねえ。もしそんなことになったらまず間違いなく調べられるだろうね。貴重な標本として政府の管理下に置かれるかもしれないな」
「ハ…ハハ…、そんなこと…あるんですかね」
ありえない、とは言えないのが恐ろしかった。
「でもそれも無理だったらしいよ。あえて寄生タイプのモンスターに寄生されて帰ってくるという実験をした人がいるんだけど、戻ってきた瞬間にそのモンスターは死んでいて、結果その人も死んでしまったらしい。なんでもモンスターの死骸が脳の血管に詰まってしまったんだとか」
「そう…ですか…ハハ、ハハハ」
オットシの言葉に翔琉は力なく笑うしかできなかった。
どうやらリングは完全に死んでしまったのだろう。
となるとその死骸は自分の体内に残されているということなのか。
全然そんな感じはしないけど病院で調べてもらうべきなのだろうか?
いや、そんなことをしたら本当に標本にされてしまうかもしれない。
「それよりも早いところ手続きを済ませてしまおう。お互い結構な収入になったことだし今日はパアッといこうじゃないか」
オットシの言葉に翔琉は我に返った。
確かに今はそんなことを悩むよりも家に帰ることを考えないと。
二人はまず銀行窓口によって受け取った200万円をスマホの電子マネーへと交換した。
カウンタースタッフは200万の札束を見ても顔色一つ変えずに処理したところを見るとダンジョン探索ではよくあることなのかもしれない。
それから翔琉は素材買取の窓口に向かうとギガントカマキリの魔石をカウンターの上に置いた。
「これを買い取ってもらえませんか?」
「しょ、少々お待ちいただけますか?」
魔石を見た瞬間カウンタースタッフの顔色が変わり、席を立つと上役っぽい人を連れて戻ってきた。
「すいません、もう少し詳しく拝見したいので奥へ来ていただけますか?」
「は、はい…」
何が起きるのかわからず不安な気持ちになりながら翔琉とオットシは案内されたオフィスへと向かうことにした。
お茶とお菓子が出されて待つことしばし、先ほどの人が二人の前へとやってきた。
渡された名刺には『(株)イセカイ・マテリアル・トレード九頭竜異界出入国管理局分室異界部四課課長 貝取 益夫』と長々しく書かれている。
どうやら結構な役職の人らしい。
「大変お待たせいたしました。早速なのですがこの魔石は一体どこで手に入れられたのかお聞きしてもよろしいですか?」
「それなら第2…」
「この魔石がどのモンスターから取れたものなのかはわかっています。これはギガントカマキリの魔石です。どこで採ったのかは秘密とさせてください」
翔琉が答えようとするところにオットシが言葉を被せてきた。
どうやらあまり詳しく話さない方がいいのだと察した翔琉は黙っていることにした。
「…なるほど。確かにこちらは我々の解析でもギガントカマキリのものだとわかりました。それにしてもレベル10のモンスターをお二人だけで狩ってくるとは…しかもレベル8商人とダンジョンに入って2日目の方で…」
貝取は心底驚いたようにこちらを見つめた。
「まあ詳しい話はいいじゃないですか。それよりも買い取ってくれるんですか?くれないんですか?」
話がややこしい方向に行きそうになったのを察したのかオットシが話題を切り替えた。
「そ、そうですね。お時間を取らせていただいているのに申し訳ありませんでした。私どもといたしましてはこちらの魔石は既定通り1000万円で買い取らせていただきます。もちろんこの額に問題があったり他に売り先がいるのでしたら断わっていただいても結構です」
「いっせ…!」
叫びそうになるのを翔琉はなんとか堪えた。
今日に入ってから金銭感覚がおかしくなりそうな出来事ばかりだ。
「わかりました、それでお願いします。ついでと言っては何ですが、振り込みはこちらの天城のデバイスへお願いします。それから先はこちらで行いますので」
「わ、わかりました。そうしますと源泉徴収は全てこちらの天城さまの名義となりますがよろしいですか?」
「結構です」
「承知いたしました。それでは」
貝取が手元のデバイスを操作し、翔琉のスマホに通知がやってきた。
スマホ内にはダンジョンで受け取った現金200万円と先ほどの魔石に対する1000万円から源泉徴収を引いた1080万円が本当に振り込まれていた。
夢ではないのだ。
「レベル10以上の素材が持ち込まれた時は公開する規則になっています。お名前はいかがいたしますか?」
「匿名でお願いします」
「承知いたしました。それではこれで買い取り手続きは終了とさせていただきます。また何かありましたら遠慮なく名刺の連絡先へご連絡くださいませ」
翔琉が呆然としている間にオットシがてきぱきと処理を進めていく。
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