火事場の超・馬鹿力~絶対に負けない超逆転劇~

ハクセイ

氷結の姫

「全員捕らえろ!!!」
そう言って、大きな爆発音と共に現れたのは、ハゲの人だった。
ハゲの人は護衛と思わしき人を五十人引き連れていた。


だけど、僕にとってそんなことはもう、どうでもよかった。


僕は目を奪われていた。前回よりも、より一層テカテカと輝く「ソレ」に。


「ハァ、ハァ、ハァ」


苦しそうに呼吸するハゲの人。見る限り、ここまで走ってきたようだった。


息を切らしながら爆発と共に現れて、さらに
「全員捕えろ!!!」この台詞だ。


普通に言葉だけを聞くと、正義のヒーローの登場みたいだった。


だというのに、悪役がそれをするなんて……邪道にも程がある。
しかし、予想の斜め上を行くこの行動は、僕のツボに入ってしまった。


とはいえ、ここで笑っては失礼だろう。


笑わないように、笑わないように、笑わなーー…


「……ぷっ」


「貴様ァ!何が可笑しい!?」


しまった!堪えきれなかった!
このままでは、僕が笑ったとバレる。


真顔になろう。


――スっ……よし。完璧だ。




「それでバレないと思っているのか!金髪ゥ!」




……ったく、誰だよ。
隠れても金髪なら、超目立つから無駄だよ?
どうせ、すぐにバレるんだから。


「何をスカした顔をしている!」


ーーハゲは激怒した。


ハゲの人がツルツルテカテカの額にうっすらと青筋を浮かべて、こちらに向かって歩いてくる。


ほら、早く出てこないからキレたじゃん……。凄い怒ってる。


ったく、しょうがない。僕が探してあげよう。


金髪、金髪っとーー……
だ、誰もいないだと!?


「そ、そんなバカな!?」


「何が『そ、そんなバカな!?』だ!ふざけているのか!?良いだろう。初めは、あの憎たらしい奴の子からやろうと思ったが、気が変わった!まずは貴様からだ!ユーリ・フィリドール」


「えェ!?」
なんの話ですか!?


「ぐわぁははは!流石の貴様も手錠をされては身動き取れまい!せいぜい今のうちに後悔しておくことだな!」


もうすでに後悔してるよ。
だって、汗掻いててヌルヌルしてそうだし、テカってるし、オマケに太ってるから蒸し暑そうだし。


こんなのに捕まるなんて嫌に決まってんじゃん!


……ここは逃げるしかない。


そう、思った僕は駆け出した。


この場にいる誰よりも早く。


日々エリノラ姉さんから逃げる訓練をしているせいか、僕のスピードは速かった。


自分でも予想外の出来事に僕は確信する。


これなら、「逃げられる」と、


そして、それはこの場にいる全員の総意でもあった。


そう思った瞬間だった。


「ガッ、バタン!」


…………。


(あ、お兄さん、こけちゃった)
(……コケたな)
(お、驚かせおって。しかし、まさかコケるとは)


自分の足に引っ掛かり、コケた本人は、まるで何事も無かったかのように、ゆっくりと、静かに立ち上がる。


その背中には「何も、言うな」の言葉が書かれているようだ。


「「「「「……………………………」」」」」


……何か言ってよ!!
コケたとこを見られて、無言で居られたら、たまったものじゃない!


……めっちゃくちゃ恥ずかしい!!


ここは、僕自身がどうにかして切り抜ける他ないだろう。


「あー、えーっと…ど、ドンマイ?」


「ど、どんまい!お兄さん」


あー、本当にドンマイじゃん。


こんな小さな子供に励まされる日が来るなんて……泣きそうだ。


「ーーッ!?貴様ら!何をしている!早くコヤツを捕らえろ!!」


ーーあ、しまった!?


本来の行動を思い出すが、時すでに遅し。
僕の周りを衛兵が囲っている。
逃げ道は……くそ。もうどこにでもない。


仕方ない。
こうなったらあの手段を使うしかない。


「や、やだなぁ。そんなに本気にしなくても、ちょっとした冗談ですよ。


それに、僕が逃げきれるわけないじゃないですか。手錠されたままですしね!


それにしてもこの部屋を凄く素敵ですよね!白を基調に造られていて、中央には男心をくすぐる謎の黒布!
いやぁ、ここを作った人はセンスがあるなぁ!!


あと、ずっと言おうか迷ってたのですが、その頭とても男らしくてカッコいいです!


一目でファンになりました!サインください!」


くらえ!僕の秘技!
褒め殺しだ!


「ほう。少しは見る目があるようだな。貴様にもこの頭の良さが分かるか?」


「……ええ。……もちろん、、、、!」


「そうだろう!なにせ毎日ケアを欠かしたことはないからな!当然の結果ーー…」


「ブフォ!!」


「……貴様はアレか?私を怒らせたいのか?いや、怒らせたいんだな!ふざけおって!アーーー!!!!」


……笑うに決まってるじゃん。
だって、だって、毎日ケアしてんだよ!
髪、ないのに!頭ツルツルなのに!


当然の結果ってなんの結果?
ケアの結果がハゲなの?
いや、もう無理だって!
笑うなって言う方がキツイって!






……ん?なんで僕しか笑ってないの?


そう思い、ルイ君たちを見る。


そこには、笑ってる僕を不思議そうに見つめる二人がいた。




「……何がおかしいんだ?」
「お兄さん、どこか、おかしいところあった?」




あ、あれ?
僕がおかしいのかな?
これが世間の常識なのかな?


念のために周りにいる護衛の人たちにも確認しておこう。
返事は、うん。と。


……まじか、どうしよう。
まさか、これが常識だなんて。
今のうちに心のメモに刻んでおこう。


(ハゲにはケアが必要。っと)




「そこまでケアするなら髪一本ぐらい生えますよ!きっと!」


「……貴様、私の頭のみならず、私のをも愚弄するか」


「え!?!?一緒じゃないんですか!?」


髪の毛を生やすためにケアしてるんじゃないの?


「もういい。貴様には呆れた。最初の生け贄にしてやろうかと思ったが、貴様のような奴を神に捧げるわけにはいかない。衛兵!コヤツを始末しろ!」


「ーーーなっ!?ま、待ってください」


「くどい!黙って死ね!」




ーーーーーあ、ヤバイ。


槍の矛先が徐々に僕に近づいてくるのが、ハッキリと見える。


それも、近くにつれてゆっくりに。


人は死ぬ時に、走馬灯や、ゆっくりとした時間を感じることできると本で読んだことがある。


この場合、後者だろう。
僕は死ぬその時までこの景色を眺めているって訳だ。


……むちゃくちゃ嫌だな。


もういっそのこと、目を瞑ってしまおうか。
そんなことを考えてると、急に寒気がした。


……ん?寒気?


「待たせたな。ユーリ」


この涼しさを感じさせる、冷ややかな声はーーまさか!!


「無事か?ユーリ」


「ティーナ姉さん!」


僕は嬉しさのあまり、大きな声を出してしまった。


「バ、バカな……なぜここに六龍将が」


「なに、私の上司に情報通がいてな。隠れんぼは大の得意なんだそうだ」


「ふざけるな!!ここは存在自体知られていない!見つけるのは不可能なはずだ!」


「聞こえなかったのか?意外と耳が遠いんだな貴様」


「なんだーー…」


「貴様は目立ちすぎた。ダマスカス家の嫡男さらには私の可愛いユーリまでも誘拐。……これでは見つけてくれと言っているようなものだ」


か、可愛いって……。
男としてそれはどうなんだろう。


「何をやっている者共!早くこの小娘をどうにかしろ!」


ハゲの人が大声を出す。が、誰も答えない。


「ほーー。この私を小娘呼ばわりか。なら貴様はハゲだな。むっ……貴様のその頭、知り合いに似ているような……」


ティーナ姉さんはそういうと少し考える素振りを見せる。
その様子を見たハゲの人は、隙が出来たと思ったのか、さらに大きな声で命令を下す。


「何をしている早くソヤツをーー…」


「おお、誰に似てると思ったら、貴様、ラキの親戚筋か。どうりで似ている筈だ」


「おい!何をそこに突っ立っている?早くソヤツを殺せ!」


「ああ、コイツらに話しかけても無駄だぞ?だって、コイツらーー」








「もうから」












【六龍将】


ティーナ・フォン・ダスティネス


恩寵  『氷結』


彼女の周りには、とても凍っているとは思えないほど自然な姿の兵がいた。







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