火事場の超・馬鹿力~絶対に負けない超逆転劇~
強者の街アンラギル
要塞都市アンラギルは、広々として何もない砂漠にその姿を現す。
ここに住む者は70年という長い年月をかけ、砂漠に唯一存在するオアシスを拠点に、開拓してきた。そのおかげか、この要塞都市は外からは想像できないほど、思いのほか潤っている。
だからと言って、このアンラギルに人が気軽に立ち寄れるほど、ここを取り巻く環境は甘くはない。砂漠に一つしかない憩いの場を奪われたとあって、魔物たちがこの要塞都市に毎夜攻め入るのだ。
隙あらば攻め入ろうとする魔物たちが周囲蔓延っていることもあり、ここに訪れるものは強者か、それを雇っている商人となっていた。
人の出入りの少ない街は、外の情報が入りにくい。逆もまた然り。
類似的にこの要塞都市は鎖国に近いものになっていた。
その要塞都市アンラギルの、街の本通りから外れた小路。小さな商店が立ち並ぶその通りでひっそりと建つお店が一軒。
小さな文字で「ウルフ」と書かれたそのお店は、この付近で取れるアガベと言われる植物から造られる「テキーラ」と呼ばれる酒とそれにつまみが提供されるバーだ。
そのバーにある二人の男が立っていた。
「さぁ、一勝負といこうか」
その内の一人、肩まである髪を後ろで束ねている男が、真剣味のある声そう言う。
「……良いだろう。今度も俺が勝ちをいただくがな」
もう一人の男。体長2mに届くかという大きな体に、ツルツルとした頭をした男が、少し間をおいてそう返事をする。
「ふっ……そう言えるのも今の内だぜ。なんだって、今日の俺の獲物は最高だからな」
「……そうか。ならば、長話は無用だろう」
その先は、早くやり合おう。そう聞こえた気がした。
「その通りだな。マスター!ここのテーブル借りるぜ!」
髪の長い男の煩い声が店内に響く。そんな大きな声で言わなくてもマスターには聞こえるだろうが、高いテンションが男をそうさせる。
「…………好きにしろ」
マスターの渋い声がしばらくして、返ってくる。そうして、マスター了承を得た2人は、それぞれの懐に手を入れる。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
睨み合う二人。
店内が二人の放つプレッシャーに支配されていく。
この店内に彼ら以外の客いないことがせめてもの救い……そう思わざるを得ないほどだ。
そして、その状況を生み出した二人が、
懐から取り出すは――――〈一本の定規と鉛筆〉
二人は定規をテーブルの上に、もう一方の鉛筆を手に持つと、威勢良い声を上げる。
「「最初はグ―!じゃんけんポン!!!」」
じゃんけん
それは、これから闘いを行う上でどちらが先行をとるか?という非常に重要な役割を担っている。もし、先行で会心の一撃を与えることができたなら、相手にプレッシャーを与えることができ、逆に失敗すれば、相手に付け入る隙を与えてしまう。
そんな重要な準備を要するこのゲームの名前は――定規戦争。
ルールは簡単。
テーブルに置いた定規をぶつけ合い、相手の定規をテーブルから落とした方の勝ち。
「へへっ……まずは俺からだな!さっそくで悪いが、一発で決めさせてもらうぜ……」
じゃんけんに勝った髪の長い男は、今日こそ勝ってやるぜ!そう背の高い
「御託はいい……。さっさとやれ」
「はいよっ――「パンッ」と、ちッ……ダメか……」
髪の長い男によって弾かれた定規は正面にある定規に当たるが、少し押し込むだけで落とすには至らない。
「……次は俺の番だな――「パシィ」」
もう一人の男が爽快な音を繰り出す。隣接し合った定規が、男の定規によって押し出される。が、これもまた少し押し込むだけで落とすには至らない。
「……なるほど、今回はいい物を持ってきたようだな」
「面白い」男達は少し笑いそう言うと、戦いに没頭していく。
「そういえば知ってるか――「パンッ」」
「なんのことだ――「パシィ」」
「ここ最近、王国の軍の入隊希望者が激増しているら――「パンッ」しいぜ」
「なに……?いったいどういうことだ?」
男が驚いた顔を浮かべる。そんな反応をする男が珍しいと思ったのか、髪の長い男は、定規を打ち返してこないことに文句を言わず話を続ける。
「俺も聞いた話なんだが……、何でも軍に入り、結果を残した者には、どこぞの名家のお嬢様と婚約が出来るとよ」
「名家のお嬢様……?名前は知っているのか?」
「たしか……ユーリ・フィリドール……だったけか?まぁ、あくまで噂話だがな」
「ユーリ・フィリドール……?……どういうことだ?俺の聞いていた話とずいぶん違うようだが……」
男はそう呟くと少し考える素振りを見せる。しばらくして、考えがまとまったのか、男は顔を上げ、素早く荷物をまとめ、店から立ち去ろうとする。
その様子を見ていた髪の長い男は、慌てて、男を呼び止める。
「おい!なに帰ろうとしてんだよ!俺との勝負がまだついてないだろうが!」
「すまないが、すこし用事ができた。今日はここまでだ」
納得いかない。そう息巻く相手を見ながら、男は冷静な対応で答える。
「ああ!?ふざけてんのか?勝負を途中で投げ捨てるなんて、男のすることじゃねえぞ!」
「……いいや、決着なら既についている」
「あ?なに言ってんだ?俺の定規はまだテーブルの上に…………」
そう怒鳴る、髪の長い男は決着がついていない証拠にと、テーブルに指さす。……が、そのテーブルを見た直後に固まる。そして――
――己が負けていることを知る。
「ああああああああああ!!!俺の定規が落ちてやがる!!!いつの間に!!!!」
「……おまえは、弱い……」
ここはアンラギル。強者の集まる街。
ここに住む者は70年という長い年月をかけ、砂漠に唯一存在するオアシスを拠点に、開拓してきた。そのおかげか、この要塞都市は外からは想像できないほど、思いのほか潤っている。
だからと言って、このアンラギルに人が気軽に立ち寄れるほど、ここを取り巻く環境は甘くはない。砂漠に一つしかない憩いの場を奪われたとあって、魔物たちがこの要塞都市に毎夜攻め入るのだ。
隙あらば攻め入ろうとする魔物たちが周囲蔓延っていることもあり、ここに訪れるものは強者か、それを雇っている商人となっていた。
人の出入りの少ない街は、外の情報が入りにくい。逆もまた然り。
類似的にこの要塞都市は鎖国に近いものになっていた。
その要塞都市アンラギルの、街の本通りから外れた小路。小さな商店が立ち並ぶその通りでひっそりと建つお店が一軒。
小さな文字で「ウルフ」と書かれたそのお店は、この付近で取れるアガベと言われる植物から造られる「テキーラ」と呼ばれる酒とそれにつまみが提供されるバーだ。
そのバーにある二人の男が立っていた。
「さぁ、一勝負といこうか」
その内の一人、肩まである髪を後ろで束ねている男が、真剣味のある声そう言う。
「……良いだろう。今度も俺が勝ちをいただくがな」
もう一人の男。体長2mに届くかという大きな体に、ツルツルとした頭をした男が、少し間をおいてそう返事をする。
「ふっ……そう言えるのも今の内だぜ。なんだって、今日の俺の獲物は最高だからな」
「……そうか。ならば、長話は無用だろう」
その先は、早くやり合おう。そう聞こえた気がした。
「その通りだな。マスター!ここのテーブル借りるぜ!」
髪の長い男の煩い声が店内に響く。そんな大きな声で言わなくてもマスターには聞こえるだろうが、高いテンションが男をそうさせる。
「…………好きにしろ」
マスターの渋い声がしばらくして、返ってくる。そうして、マスター了承を得た2人は、それぞれの懐に手を入れる。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
睨み合う二人。
店内が二人の放つプレッシャーに支配されていく。
この店内に彼ら以外の客いないことがせめてもの救い……そう思わざるを得ないほどだ。
そして、その状況を生み出した二人が、
懐から取り出すは――――〈一本の定規と鉛筆〉
二人は定規をテーブルの上に、もう一方の鉛筆を手に持つと、威勢良い声を上げる。
「「最初はグ―!じゃんけんポン!!!」」
じゃんけん
それは、これから闘いを行う上でどちらが先行をとるか?という非常に重要な役割を担っている。もし、先行で会心の一撃を与えることができたなら、相手にプレッシャーを与えることができ、逆に失敗すれば、相手に付け入る隙を与えてしまう。
そんな重要な準備を要するこのゲームの名前は――定規戦争。
ルールは簡単。
テーブルに置いた定規をぶつけ合い、相手の定規をテーブルから落とした方の勝ち。
「へへっ……まずは俺からだな!さっそくで悪いが、一発で決めさせてもらうぜ……」
じゃんけんに勝った髪の長い男は、今日こそ勝ってやるぜ!そう背の高い
「御託はいい……。さっさとやれ」
「はいよっ――「パンッ」と、ちッ……ダメか……」
髪の長い男によって弾かれた定規は正面にある定規に当たるが、少し押し込むだけで落とすには至らない。
「……次は俺の番だな――「パシィ」」
もう一人の男が爽快な音を繰り出す。隣接し合った定規が、男の定規によって押し出される。が、これもまた少し押し込むだけで落とすには至らない。
「……なるほど、今回はいい物を持ってきたようだな」
「面白い」男達は少し笑いそう言うと、戦いに没頭していく。
「そういえば知ってるか――「パンッ」」
「なんのことだ――「パシィ」」
「ここ最近、王国の軍の入隊希望者が激増しているら――「パンッ」しいぜ」
「なに……?いったいどういうことだ?」
男が驚いた顔を浮かべる。そんな反応をする男が珍しいと思ったのか、髪の長い男は、定規を打ち返してこないことに文句を言わず話を続ける。
「俺も聞いた話なんだが……、何でも軍に入り、結果を残した者には、どこぞの名家のお嬢様と婚約が出来るとよ」
「名家のお嬢様……?名前は知っているのか?」
「たしか……ユーリ・フィリドール……だったけか?まぁ、あくまで噂話だがな」
「ユーリ・フィリドール……?……どういうことだ?俺の聞いていた話とずいぶん違うようだが……」
男はそう呟くと少し考える素振りを見せる。しばらくして、考えがまとまったのか、男は顔を上げ、素早く荷物をまとめ、店から立ち去ろうとする。
その様子を見ていた髪の長い男は、慌てて、男を呼び止める。
「おい!なに帰ろうとしてんだよ!俺との勝負がまだついてないだろうが!」
「すまないが、すこし用事ができた。今日はここまでだ」
納得いかない。そう息巻く相手を見ながら、男は冷静な対応で答える。
「ああ!?ふざけてんのか?勝負を途中で投げ捨てるなんて、男のすることじゃねえぞ!」
「……いいや、決着なら既についている」
「あ?なに言ってんだ?俺の定規はまだテーブルの上に…………」
そう怒鳴る、髪の長い男は決着がついていない証拠にと、テーブルに指さす。……が、そのテーブルを見た直後に固まる。そして――
――己が負けていることを知る。
「ああああああああああ!!!俺の定規が落ちてやがる!!!いつの間に!!!!」
「……おまえは、弱い……」
ここはアンラギル。強者の集まる街。
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